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水月鏡花 ―冷たい当主と、静かに灯る恋とほどけていく心―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

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第七話「香る薬舗、はじめの出会い」1

第七話「香る薬舗、はじめの出会い」は4分割で更新していきます。これは1つ目です。

 門を出て間もなく、通りに柔らかな朝の光が差しはじめた頃、

令菘れいすうが春燕に声をかけた。


「本当に歩きで良かったのですか?」


「馬車を使うなんて贅沢だわ。歩いてすぐだもの」

春燕は、気負いのない笑顔でそう言う。


 “すぐ”とは言っても、実際には歩いて十五分はかかる。

それなのに、琳家の婚約者が徒歩で街へ向かう――

その事実に、令菘れいすう志晃しこうは思わず顔を見合わせた。


噂では聞いていた。

贅沢を好まず、倹約家で、働き者。

誰に対しても気さくで、屋敷中の使用人たちから慕われている女性だと。


ただ、二人にとって春燕は今日が初対面である。

まだ仮とはいえ、琳家当主・凌偉の婚約者が、わざわざ外で

働くという話も信じがたかった。


――どうせ“お嬢様の気まぐれ”か何かだろう。


互いに口には出さず、そんな思いを胸の奥にしまっていた。

自分たちは任務を果たすだけだ。



「令菘と志晃は、何年ぐらい楊家に?」

春燕が歩きながら問いかける。


「私が十五歳、志晃が十三歳の頃に門下生として入門しました。

九年ほどになります」令菘れいすうが丁寧に答え、


「琳家の護衛として働くようになったのは四年前からです。

主に街中の警備補佐と、屋敷の警備を任せていただいています」志晃しこうが続けた。


「そう。頼もしいわ。私はまだ街に慣れてないから、

道がよくわからなくて。二人がいてくれて助かるわ」

春燕はふわりと笑った。

その笑みは、相手を緩ませる春の風のようだ。


「慣れてきたら一人で行けると思うからー…」


「「だめですよ」」


同時に返ってきた声に、春燕はびくっとして瞬きを繰り返す。


「春燕様。いいですか?」

令菘の声は低く静かだが、揺るぎない芯があった。

「春燕様は凌偉様の婚約者です。それだけで、

良くも悪くも街中から注目されているお方です」


「この街で琳家の人間に手を出す無謀な輩は

いないとは思いますが…

何が起きるかわかりません。

お一人では絶対に! 行動しないでください!」

志晃が真剣そのものの表情で続ける。


「送り迎えはもちろん、薬局での仕事中も我々は店内にいますし、手伝います」


「そ、そこまでしなくても…!」

一人に警備二人は、どう考えても過保護すぎる

――春燕は内心ハラハラする。


「貴方様に何かあれば——我々は、ここで生きていけません」

その声音には、脅しではない“現実”が滲んでいた。

迫力ある訴えに、春燕は思わず背筋を伸ばした。


「わ…わかりました…」


――これは、大人しく従ったほうがよさそう。


春燕は、ふうっと小さく息を吐いて心の中でつぶやいた。

※作者より

「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。


春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、

少しずつ近づいていく時間を、

見守っていただけたら嬉しいです。


続きが気になりましたら、

ブックマークで見守っていただけますと励みになります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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