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水月鏡花 ―冷たい当主と、静かに灯る恋とほどけていく心―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

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間の話4「点心作り」

 承光楼しょうこうろうの厨房。


昼の忙しさがひと段落し、熱気のこもっていた空間も

今はしんと静まり返っている。

人の声も鍋の音も消え、外から入る風が、吊るされた香草を

かすかに揺らしていた。


そんな中、厨房の片隅では春燕しゅんえん凌偉りょういが並んでいた。

二人の前には小麦粉を練ってのばした皮と、湯気の立つ餡。

どうやら点心作りの真っ最中らしい。


「どうしても、はみ出るな」

「凌偉様、餡を入れすぎですよ」


春燕が苦笑しながら指摘する。

凌偉は真剣な顔で匙を動かしながら、

「これぐらいで…」と小さく呟いた。

包み方を真似して、少し不器用に皮をたたむ。


「こうか…」

春燕の手元を何度も確かめるように見ながら、丁寧に包んでいく。

形はちょっと歪だが、どうにか形にはなった。


「できた」

満足そうにそう言って、春燕に見せる凌偉。

春燕も思わず笑みをこぼす。

ふと目が合い、二人は少し照れたように微笑み合った。


その様子を、厨房の奥で見守る数人の使用人たち。

みんな火の番や片付けの手を止め、壁際に寄って息を潜めている。

まるで、自分たちの存在を消すかのように。


——凌偉様が……点心を包んでいる……。


誰もが信じられない思いでその光景を見つめていた。

琳家の歴代当主で、厨房に足を踏み入れる人などいなかったのに。

しかも今は、春燕と並んで点心を包んでいるのだ。


屋敷では、凌偉の春燕への想いがすでに噂になっていた。

あの冷静で近寄りがたい当主が、彼女の前では

ふっと柔らかくなる。

その優しい視線に、春燕本人だけが気づいていない。


「意外でした!」

春燕が笑顔で凌偉に顔を向ける。


「な…なにがだ?」凌偉は少し慌てたように返す。

「凌偉様が、お料理に興味があるなんて!」

春燕がふふっと笑う。


(あああ!!違います!)

使用人たちは心の中で叫んだ。

どうしてそんなに無邪気なんですか春燕様!と、非常に、非常に焦ったく

二人を見守っていたのであった。

※作者より

「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。


春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、

少しずつ近づいていく時間を、

見守っていただけたら嬉しいです。


続きが気になりましたら、ブックマークで

見守っていただけますと励みになります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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