子役の演技が重要です
グラナタの北側の区域。
ギルドの前では陣取る冒険者と、それを囲む衛兵隊が武器を突き合わせていた。
唯でさえ冒険者は対魔物に比重を置いた戦闘集団であるのに加え、ギルドに残っていたのは緊急依頼に動員されなかった鉄級以下の面々。
一方の衛兵隊は対人に特化した訓練を行なってきた兵士達であり、練度が異なる。
が、士気は真逆。
冒険者側は皆、明らかに覚悟が決まったような表情で武器を構えているのに対し、衛兵達には戸惑いや迷いが明らかでまだ武器を抜いていない兵も少なくない。
そのチグハグさから状況は硬直しているようだった。
衛兵隊から指揮官らしき兵が歩み出て声を上げる。
よく見ればフウが街を出る際に、北門で聴取をしてきた壮年の男。
「冒険者ギルド/グラナタ支部ギルドマスターエディットには、ラーノード男爵家への反逆の疑いが掛けられているっ。大人しくエディットを差し出し、立ち入り捜査に協力しろ!」
強気な通告にギルドから姿を見せたのは名指しされた当人、完全装備を身に纏ったエディット。
「ラーノード男爵家は現在、家令パブロの手の内にある。男爵閣下は魔法で意思決定能力を奪われ、娘のアリーシャ嬢は襲撃を受け行方不明。そこの北門守衛長ホゼ含め、衛兵隊上層部もパブロの支配下だ」
淡々と、しかし確かに響く声でそう語る。
「戯言を!」
「この場に高位冒険者がいない理由は、竜種の討伐のため。間違いなく街の危機だ。にも関わらず、君達衛兵隊には討伐協力の命が下されていない。これまでおかしな命令はいくつもあったんじゃないか?」
「総員戦闘態勢っ、奴を捕らえろ」
守衛長ホゼの強引な命令に、渋々といった様子で動き出す衛兵達。
冒険者ギルドとの対立に違和感を感じエディットの話も理解しているが、軍という組織において命令には従わざるを得ないといったところか。
そんな様子を近くの路地の闇から眺める人影が二つ。
あの隊長を殺せば解決、ともいかないよなぁ。
その片割れ、フウは鞄をさすりながらそう思案する。
不信を抱えていても、それでも命令には従うくらいに彼らは兵士だ。
下手に指揮官を排除しようものなら、逆に止まらなくなる可能性も否めない。
ゴブリンによる街の襲撃、これがグラナタの異変を裏で糸引いている黒幕の仕業と見て間違いない。
同時に準備不足のまま強引に決行したのだろう、というのがフウの見立て。
襲撃による被害は黒幕が本来想定していたものより大幅に小さくなるだろう。
となると、それを本来の想定に近付けるため、出来る限りの手を打つのは当然。
特に目下最大の邪魔立てとなり得る街に残った鉄級以下の冒険者と、いざという時に独断専行の可能性がある掌握できていない末端の兵士達はどうにかしたい筈。
二者を潰し合わせ戦力を削り共倒れさせる、といったのが。
つまり今の状況。
掌握している衛兵隊の上層部を操ってギルドに濡れ衣を着せたんだろうけど、まぁ予想通りの嫌な一手だ。
「行けるかい?」
フウは小声で隣の人影に問い掛ける。
「任せてくれよ」
その問いにタンジはやはり小声で答え、タッタッタッとギルドの方へ駆け出した。
「た、大変だっ。南門にゴブリンが出た!衛兵の人達が殺されて…」
そして息を切らし必死にそう訴えかける様子は、とても演技には見えない。
孤児として生き抜く中で身に付いた技術か。
何にせよ全員の視線がタンジへと集中し、その内容に動揺が広がる。
やっぱり、タンジ少年を連れて来て正解だった。
冒険者としての立場を得てしまったフウの言葉で、今の衛兵達を動かすのはおそらく難しい。
だが守るべき対象である市民、それも子供からの訴えとなれば耳を傾けざるを得ない筈。
これを予測していたからこそ、フウはわざわざ孤児院へ侵n…訪問してこっそりとタンジを連れ出したのだ。
決して冒険者以外で、協力を要請できそうな知り合いが他にいなかったためではない。
実際、衛兵達の多くが既に武器を降ろし街の南へと意識を向けている。
そんな彼らを押しのけて、ツカツカと歩いて来る守衛長ホゼ。
そして、
「我々の任の、邪魔をするなぁっ!」
抜き放たれた剣が躊躇なくタンジへと振り下ろされた。
ガキンッと金属音が響き、ククリ刀がその剣を弾く。
「よくやってくれたね、完璧だよ。タンジ少年」
「こ、こんくらい楽勝だぜ」
尻もちを付きながら、そう強がるタンジ。
「それにしても、こんな子供を斬り付けるなんて衛兵隊ってのは随分と横暴な組織なんだね」
「黙れ、この反逆者共が!総員、こいつらを殺せっ」
フウの煽りにホゼは顔を真っ赤にしてそう絶叫した直後、数人の兵士が即座に動き出した。
「は?な、何をしているっ。やめろ、離せ!」
従うに値しないと判断した上官を取り押さえるため。
この場の多くの衛兵が今回の命令に不信感を抱いていながらもギリギリで統制が保たれていたのは、相手が武力を有する冒険者ギルドであったから。
だが、
「守るべき市民、それも力を持たぬ子供の必死の訴えに対し邪魔だからと剣を振るうなど、衛兵として決して許されざる行為です。ホゼ隊長、あなたにはもう従えない」
「ルーカス貴様、裏切るつもりかぁぁぁっ」
「隊長はご乱心だ!今後は副隊長である私が作戦指揮を引き継ぐ」
ホゼにはすぐに轡が噛まされ、代わりに指揮を受け付いだ副隊長のルーカスが武器を収め冒険者達の前に身を晒した。
衛兵達の反応からして、ホゼよりもこちらの方が信任が厚そうな雰囲気だ。
「冒険者ギルドへの立ち入り調査は見送り。我々は彼の訴えに応じ、南門付近でゴブリン討伐と民間人救出の緊急任務を遂行。ギルドにも協力を要請します」
副隊長と呼ばれた衛兵ルーカスの言葉に、エディットは自信満々な微笑を浮かべたフウをチラリと一瞥。
「ギルドとして協力要請に応じる。本当にゴブリンが街へ侵入したのなら、魔物の討伐は冒険者の役割だ。そ調査の件は見送りではなく取り下げて貰いたいところだが。まぁそれは後程、話し合いの場を設けよう」
タンジの訴えに何かしら思惑があると理解したうえで、それに乗ることを決める。
フウの意図通りに転がってゆく状況。
ただその|きっかけを作った名演俳優は、少し焦ったように小声でコソコソとフウの耳元で尋ねる。
「良いのか、フウの姉ちゃん。ゴブリンの襲撃なんて本当は起こってないんだろう?」
「大丈夫さ。まだ起こってないだけ、だから」
「?」
むしろ、襲撃前から動いていれば対応が後手に回らずに済む。
ゴブリンがその場におらずとも、南門で死んでいる衛兵を見つければその場に留まり調査は行わざるを得ない。
その間に、あのゴブリン達が来てくれればタイミングとしては完璧だね。
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皆さん、ゴールデンウィークはどうお過ごしでしたでしょうか。
私は社畜生活でした。
労働はクソです。




