百ゴブ夜行
夜も更け始める頃、フウはまだ太い木の枝に身体を預けジッとゴブリンの巣を眺め続けていた。
巣の中心に残る焚火跡にはまだ火種が燻っていたらしく、陽が暮れた頃に新たな薪がくべられ、再び真っ赤な火が燃え上っている。
やはり、火の扱い方を理解しているよう。
奴らが寝て巣が静まりかえるようなら、もう少し近付いてみようと思っていたんだけど……
ゴブリン達が眠りに付く様子はなく、それどころか小振りの片手剣や短槍、弓矢などで武装し焚火を囲むように集まっていた。
明らかに人の手で作られた武器だが、略奪したモノか、もしくは誰かから受け取ったモノか。
焚火を囲む武装した個体は次々と増え、気付けばその数は二百近くまで膨れ上がっていた。
そして、ゴブリン達は枯れ蔓を巻き火をつけた枝を松明代わりに、巣に背を向け反対の森の闇へと分け入ってゆく。
合計五体の巨人擬きもその後を付いて森へ姿を消し、巣に残ったのは見るからにまだ未成熟なゴブリンばかり。
あっちは……
ゴブリン達が分け入っていった森は巣の南東側、グラナタのある方角だ。
なるほど、そういう。
裏で糸を引いている者。
聞いた限りではおそらく例の男爵家の家令とやらの可能性が高そうだが。
何にせよ一連の黒幕の本命はコレということだろう。
まずグラナタで起きた異変が揉み消された件や、ギルドで聞いた情報。
そして現在の状況を鑑みるに、このゴブリン達も賊と同じ手駒であろうことはほぼ確実だ。
賊を使って略奪を行い人や装備を集め、ゴブリンの数を増やし戦力を増強。
街では衛兵を掌握して高位の冒険者達は誘き出し防備を手薄にさせ、そこをゴブリン達に襲撃させる。
となると竜種の出現も仕組まれたモノか、ブラフである可能性が高い。
ただ、
随分と手の込んだ計画の割に粗が目立つ。十全に準備が整っていない中で強行した感じだね。
巣に残る幼体のゴブリンの数からして、本来はもっと成体を増やしてから動くつもりだった筈。
グラナタ程の規模の街を襲うには、少々頭数不足が否めない。
おそらく衛兵隊もまだ完全に掌握し切れている訳ではないのだろう。
確信的な情報を有した男爵家の令嬢の始末に失敗し、手駒にしていた賊も殲滅されたことで、計画を早め無理矢理実行に移した、といったところか。
さて、ボクが受けた依頼はあくまで情報収集だけど、どうしたものかなぁ。
このままでは報告の前に、グラナタがゴブリンの襲撃を受ける。
あの数なら街が滅ぼされるようなことはないだろうが、深夜に奇襲を受ければ甚大な被害が出ることは間違いない。
それでは依頼を達成したとは言えないだろう。
全く、仕方ないな。後でサービス料金を上乗せで貰おうか。
暗い暗い深夜の森。
遠くの松明の僅かな灯りと音のみを頼りに、フウは樹上を這うようにゴブリン達を追いかけてゆく。
足取りからも、やはり目的地はグラナタで間違いなさそう。
そしてある程度まで巣から離れた時点で、松明の灯りの方へ消音狙撃銃を向け、照準器を覗く。
ボク、動き回る標的の狙撃とかは得意じゃないんだけどなぁ。暗くて見辛いし…狙うべきはあの巨人擬き一択だね。
身体がデカい分物理的に頭二つ三つ飛び出ているため、的として非常に狙いやすい。
木々の間に動く大柄な影に、よくよく狙いを定め引き金を絞る。
コシュッと静かな音がして、集団の最後尾にいた巨人擬きが「グガァッ」と悲鳴を上げ、肩を抑えて膝を付いた。
あら、頭外したか。
すぐにゴブリン達の間にも「ギャアギャア」という鳴き声が伝播し、集団の足が止まる。
フウはすかさずもう一発、今度こそしゃがみ込んだ巨人擬きの頭を重い9×39mm弾で吹き飛ばした。
そこでゴブリン達も攻撃を受けていることを理解したのだろう。
武器を構え、慌てて周囲を警戒し始める。
が、フウはそれをよそに静かにその場を離れた。
狙撃の目的は討伐ではなく、あくまで足止め。
そもそも今の装備で百を超える魔物を相手取るなど馬鹿馬鹿しい。
マシンガンや爆薬があるならまだしも、消音狙撃銃は相手に気付かれず静かに仕留める為の暗殺用の銃であり、戦闘用の火器ではないのだ。
暗く視界の悪い森で、一方的に自分達を殺せる正体不明の敵がいると理解すれば、ゴブリン達の足も鈍るだろう。
朝まで動かないでくれたら万々歳だけど、まぁ最低でも一時間くらいの余裕が出来たら十分かな。
ゴブリンの集団から離れてしまえば松明から届く灯りはない。
光源は木々の間隙から降る僅かな月明かりと手元のライターだけだ。
五感を研ぎ澄ませ暗い暗い森を進み続ければ、やがてグラナタから西へ伸びる街道へと出る。
左に見える立派な街の西門は、しっかりと締め切られているよう。
まぁ、襲撃するなら南からだよね。
街の北側は冒険者の活動する区域であり、高位の冒険者が留守とはいえ襲撃
更に街の外周を辿り南門まで周ると、粗末な門扉はまるで何かを招き入れるように、中途半端に開かれていた。
フウはククリ刀を抜き、慎重に近付いて内側を確認する。
門のすぐ近くでは、詰め所の壁に寄りかかるように、片膝を立て座り込んだ衛兵が一人。
他に人影は見当たらない。
その衛兵にフウは見覚えがあった。
昨日の彼、か。
南門を訪れた対応してくれた、スケベ衛兵だ。
薄暗い中でパッと見ただけでは、また寝跨けているようにしか見えないが、
息、してないね。
よく見れば明らかに呼吸が止まっている。
目立つ外傷は見当たらないが、衛兵は間違いなく絶命していた。
この状況で病死や事故死、なんてことは考えられない。
死因を確認や門扉の施錠をしたいところだが、衛兵に手を下した相手が何処からか監視してる可能性もある。
もしフウの狙撃銃のように遠距離からの攻撃法を有している場合、足を止めるのは殺してくれと言っているようなもの。
フウはライターの火を消してスルリと門扉をすり抜け、影を縫うように細い裏路地の闇へ転がり込むと、ギルドへ向けて駆け出した。
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短編小説投稿しました。
異世界譚とはかなり異なるテイストとなっていますが、30分程でサクッと読めるのでお時間あればご一読いただけると。
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『ティラノサウルスを探しに』
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