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ゴブリンの巣を観察しよう!

 魔領域近くの森の只中、昨日フウが賊の生き残りとお話し合いをしゴブリンと遭遇した地点。

 フウが去る時にはまだ息の合った二人の姿や、始末した連中の骸も見当たらない。

 残されていたのは、飛び散った大量の血痕と地面に落ちた臓物、それからボロボロの衣服の切れ端。


 解体(バラバラ)して巣へ持ち帰った、ってところかな。


 大型の魔物がいたような跡は周囲にはなく、処理したのは例のゴブリン達と考えて良いだろう。


 となると問題は、


「どっちへ向かったのか、だけど」


 湿った地面は木の根に落ち葉、背の低い草に覆われており、街のように足跡を辿るのは困難。

 ただ、足跡なんかよりずっと分かりやすいもの。

 まだ周囲に漂う錆びたような血の匂いが、ゴブリン達の向かった方向を明瞭に示している。


「ありがたい。これもボクの日頃の行いが良いおかげだね」


 血の匂いはすぐに途切れてしまったが、方向が分かればそれで十分。

 解体したとはいえ、成人男性四人分の荷物()を運んでいるのだ。

 余計な寄り道はしないだろう。


 フウは消音狙撃銃(VSS)を手に、匂いの消えた西へと五感を研ぎ澄ませ森の中を慎重に進んでゆく。


 しばらく生い茂る邪魔な植物を掻き分けていった先で、ふと動きを止めるフウ。

 その目の前には、何かの意図を持って整えられたような蔦が伸びていた。

 蔦を辿って草葉の影へ視線を向ければ、明らかに音が鳴りますと言わんばかりの鳴子のような仕掛けへと繋がっている。


 目的地に近い、ってことかな。


 警戒度を最大まで引き上げたそんな時、森を撫でる生温い風が土と植物の匂いに混じる僅かな獣臭を運んできた。


 いくつも仕掛けられた鳴子を避けながらそちらへ向かうと、 その先にはかなり幅のある踏み締められた獣道。


 同時に鈍重な足音を拾ったフウは、素早く近くの手頃な木へ駆け登る。


 音のした方へ狙撃銃の銃口を向け照準器(スコープ)を覗けば、数十メートル先で枝が払い除けられ巨大な人型の魔物が姿を現した。


 ゴブリンに近い灰緑の肌と皮の腰布、三メートル近いであろう筋骨隆々な体躯。

 

 あれもゴブリンの一種?けど、あんなのがいるなんて書いていなかったよね。


 ギルドから借り受けた図譜には突然変異で生まれるゴブリンの亜種に関しての記載もあったが、最も大きい種とされるゴブリンロードでも成人男性より頭一つ分大きい程度だそう。

 あそこまでの巨体の種は記載されていない。


 良く観察すれば手足が長く寸胴なゴブリンとは異なり、手足と身体のバランスも違和感を感じない程度。

 頭部に目を向けても耳や目鼻は割合小さめな一方で、口は大きく鋭い牙が目立つ。


 とりあえずは別の魔物、と考えた方が良いかな。

 

 銃口を巨人の頭部へ定めたまま、樹上で息を潜めるフウ。

 幸い巨人がフウの存在に気付くことはなく、大股で眼下を横切っていった。


 魔領域のある一帯ではそこから離れる程に魔物、特に強力な個体は減るというのが常識らしいが、


 アレ、どう見てもゴブリンなんかより強そうだったけど。


 地図で見る限り、このあたりはおそらくグラナタの西北西といったところ。

 北東の魔領域からは随分と離れている。


 そして、風によってまた運ばれてきた先程より強烈な獣臭。


 太い枝から枝へ慎重に樹上を渡って行けば、その先には森の中にポッカリと空いた木々の開けた草地。

 そこには木の柱に葉や蔦の屋根を乗せたテントのような寝床が並んでいる。

 更に草地の中心には貯水槽のような整備された池や木を組んで作られた櫓、果てには焚火の跡まで。


 これが、巣?


 それは獣の巣というには、あまりに文明的だった。

 人が作った原始的な集落と言われても納得してしまいそうな光景だ。

 巣には、ぱっと見て取れるだけでも百は優に超えているであろうゴブリン達に、先程の巨人の姿までチラホラと見受けられる。


 なるほど、()()種、か。


 図譜によればゴブリンは魔物の中でも亜人種という分類らしいが、確かに納得の呼称だ。

 二足歩行をして道具を扱い疑似的な社会を築き、挙句には火まで扱うのだとすれば、もはやそれは獣ではない。


 フウは照準器(スコープ)を覗き、巣の様子を細かく確認してゆく。


 ゴブリンにも身分のようなモノがあるのか、低身痩躯な粗末な身なりの個体と、肉付きの良い装飾品を身に着けた個体がいるよう。

 寝床の作りも、巣の外側より内側のモノのほうが立派で大きい。


 また屈強な巨人も巣での位置づけはあまり高くないのか、装飾品を身に着けたゴブリンから何やら命令を受けている。

 焚火跡の周りに置かれていた、何かを吊るした棒を運び出している様子。


 目視ではよく分からなかったそれも、照準器(スコープ)ごしなら良く分かる。


 …なるほどね。


 燻された肉だ。

 焚火の煙で燻製にされた肉。

 それもただの肉ではなく、


 人肉だね。


 解体された人間の肉や皮の燻製。

 巨人はそれを巣で最も大きく、そして唯一壁で覆われた小屋へと運び込む。

 扉の開かれた小屋からはゴブリンの鳴き声とは異なる、か細い悲鳴のような泣き声のような声も漏れ聞こえて来た。


 そこでフウの頭の中に、ある一つの可能性が過ぎる。


 これだけの数のゴブリン達が生活してゆくには、多くの食料が必要だ。

 順当に考えれば他の魔物を狩っていたと考えるのが妥当だが、魔領域から離れたこのあたりには魔物はほとんど生息していない。

 これだけの巣を築ける知能があれば単純な農耕くらいは出来そうだが、そのような形跡は見当たらない。


 それに加え、図譜によればゴブリンは基本的にそのほとんどが雄の個体である一方で、他の亜人種の魔物を相手にも生殖が可能という特徴があるらしい。

 そのため弱った雌の個体などを見つけると巣へ攫う、と。


 半年前からグラナタで発生しているという、旅人の減少に住民の失踪。

 例の賊達は、捕まえた男は殺し、女は何処かへ売り払っていたという。

 そうして姿を消した人々が、全てここへ集まっているのだとしたら。


 あくまでフウの推測でしかないが、色々と腑に落ちる事は多い。

 何にせよもっと情報が欲しいところ。


 空も暗くなってきたし、今日はここで夜通しゴブリン達の行動を監視かな。

面白かったらブックマークや評価をいただけると幸いです。


短編小説投稿しました。

異世界譚とはかなり異なるテイストとなっていますが、30分程でサクッと読めるのでお時間あればご一読いただけると。

『ティラノサウルスを探しに』

https://ncode.syosetu.com/n9996lw/

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