お仕事は報奨次第で
前話を少し改稿しました。
話の内容自体は全く変わっていないため、読み直さなくても問題はありません。
焚火で照らされた薄暗い南門。
冒険者と衛兵隊が到着した時、ゴブリン達は既にグラナタへ侵入を始めていた。
ただ不幸中の幸いだったのは、まだ群れが散らばらず一か所に固まっていたこと。
包囲戦を展開したことで、被害は最小限に抑え込めている。
今のところは、だが。
「トロルだ!とにかくトロルを抑え込めっ」
問題はあの巨人擬きの魔物。
名前はトロルというらしい。
一体はフウが森の中で仕留めたが、残る二体が最大の脅威となっていた。
相手取っているのはそれぞれ銅級昇格間近の現状上位の冒険者による即席パーティーと、衛兵による小隊。
冒険者パーティーは細かい傷を与えながらジリジリとトロルを削ってはいるが、ギリギリのバランスで優位を保っているといった具合で、一歩でも間違えれば状況はひっくり返される。
衛兵隊の方は既に負傷による離脱者が出ており、戦況は芳しくない。
そも、トロルは討伐推奨等級"銀"と定められており、多人数での討伐であっても銅級冒険者によるパーティーが適性とされる魔物だ。
間違っても鉄級以下の冒険者と、対魔物戦になれていない衛兵隊が戦うような相手ではない。
更には溢れかえるゴブリンの討伐も手が足りておらず、包囲の崩壊は時間の問題。
「…というのが現状だな。せめて衛兵隊の方のトロルをどうにか出来れば、押し返せると思うが」
遊撃的にゴブリンを狩って回っていたフウを呼び止め、そんな見立てを口にするエディット。
「へぇ、そうかい。で、どうしてそんな話をボクに?」
「…出来るだろう」
確かに、消音狙撃銃を使えばそう難しい話ではないだろう。
が、フウにこんな多くの目撃者のいる場所で切り札を見せるつもりはない。
「まさか。ボクがあんな怪物と正面切って斬り合えるように見えるかい?ボクは新参者の鉄級冒険者だよ」
包囲をすり抜けてきたゴブリンの剣をククリ刀で弾き落とし、流れるようにその首をナイフで掻き切りながらヘラリとそう言い放った。
エディットはそんな目の前の少女の実力が鉄級冒険者程度などでないこと確信している。
何か隠し玉を持っていることも。
けれど証拠はなく、上辺の経歴は言葉通りに一介の鉄級冒険者でしかない。
この街に来たばかりの新参者でパーティーを組んだことすらないというのも事実。
ギルドマスターはある程度の強権も有してはいるが、鉄級の冒険者個人に単独でトロルと戦えなどと命令するのは無理がある。
「このままジリ貧で前衛が崩れれば、君もただでは済まない。ここは出し惜しみをしている局面じゃない筈だが」
故に何とか説得を試みるしかない。
「出し惜しんでいるのはそちらだろう?多少の被害を覚悟すれば、トロルは討伐可能だと思うけど」
包囲を解き、衛兵隊が受け持つトロルに対する人員を増やせば物量作戦で討伐は十分可能、というのがフウの見立てだ。
冒険者パーティーの方は邪魔さえ入らせなければ、持久戦で削り切れるだろう。
一部討伐出来ず逃げるゴブリンは発生するし、間違いなく死傷者も出るが、現状は全て取り零す可能性と隣り合わせの完全勝利より多少の被害を許容してでも確実な勝利を優先するのが最適解の筈。
ギルドマスターという立場を考えれば、尚更だ。
そんなことはエディットも百も承知。
しかし、そういかない事情があった。
「…今、西でコレとは別件の作戦が進行している。万が一にもそちらの邪魔をされたくない」
街の西側、つまりは貴種を始めとする富裕層の居住区。
男爵家の屋敷が鎮座しているのもここ。
「へぇ、なるほど。ふむ、例の家令とやらの捕縛作戦あたりかな」
「……」
返事はなくともその渋面が図星であることを雄弁に語っている。
上位の冒険者は緊急依頼で街の外、下位の冒険者と自由に動ける衛兵達はここ。
それ以外にギルドが動かせる戦力があるとすれば、
実働は匿っていた男爵令嬢の一行ってところだろうね。
ギルドは街へ戻って来た男爵令嬢を匿っていた。
令嬢本人がどうかは知らないが、その護衛であろう女騎士と賊を一蹴した謎の少年は明確に戦力と成り得る。
少なくともこの場の鉄級以下の冒険者よりは強いだろう。
にも関わらず、猫の手でも借りたいであろうこの場に呼んでいないのは不自然だ。
とはいえ流石に三人じゃ無理があるし、協力者がいたか、用意したか。
まぁ何にせよ、
「で、それを明かしたから何だっていうのさ。さっきも言った通り、あんなのと斬ったはったするのは御免だよ」
ボクには関係のない話だ。
そんなフウに、
「…この一連の件に片が付いたら、例の賊のアジトの調査が行われる。衛兵隊の状況を考えればギルドに一任されるだろう。その調査を君に依頼しよう。どんな調査結果であろうとギルドはそれを受け入れる」
渋面のエディットは意を決したように、そう交渉を仕掛けた。
つまりは、賊のアジトにある物品を好きにして構わないというお墨付き。
あの時は状況故、最低限の物品しか拝借出来なかったが、完全なギルドの後ろ盾を得たうえで好きに出来るなら……
「本気で言っているのかい?」
「とにかく時間が無い」
こうしている間にも、崩壊は迫っている。
「条件として、今から起こることを追求しないこと、ボクの仕業であると明かさないことの二つを守ってくれるなら、良いよ」
「それで構わない。なるべく早くしてくれ」
周囲の意識が完全に自分から逸れるタイミングを見計らい、フウは踵を返して貧民街の闇の中へ身を投じた。
あばら家を縫うように駆け抜け、すぐにタンジを連れ出した孤児院へと辿り着く。
そんな孤児院に併設された小さな教会。
小さいとはいえ、あばら家の立ち並ぶ貧民街の中では飛び抜けて高い。
身軽な動きでその屋根、粗末な鐘塔の影まで駆け上がったフウは、南門での戦闘が一望出来ることを確認。
消音狙撃銃を組み上げ照準器を覗く。
凡その距離は四百メートル程度と有効射程ギリギリ。
弾は重く弾速も遅い為、弾道予測は必須だ。
こういうぶっつけの狙撃はあまり得意じゃないんだけど……
引き金に指を掛け、風が収まる瞬間を静かに待つ。
ふっと風が止み、トロルがこちらへ視線を向けほんの一瞬固まった。
フウは引き金を絞り、コシュッと9×39mm弾が撃ち放たれる。
重い鉛玉はトロルの側頭部を吹き飛ばし、血と脳漿が飛び散った。
それを見届け、フウは息を吐く。
最後、完全にこっち見てたよなぁ。
森の中と違い身を隠すモノが夜闇しかなかったとはいえ、戦闘の最中でこの距離を取っても気付かれ反応されるとは。
魔物、という存在への警戒度を更に一段二段引き上げる必要がありそうだね。
まぁ戦っていた冒険者や衛兵達には誰にも気付かれてなかったし、無問題か。
後はシレッと南門へ戻り消化試合に混ざるだけだ。
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