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テスト?知らない子ですね  作者: 型破 優位
第一章  常識と非常識
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ポーカー?厳しいですね



 研究室から出て三十分ほど経った頃。

 考えに考え抜いた結果――と言いたいところではあるのだが、結論など開始一分も経たないうちに出てしまった。



 即ち、その時に考えれば良い! と。



 まず、考えようとすることそのものが間違いなのだ。

 難しい話を聞いたから一丁前に考えてしまったが、その話すら理解できていないのにどうして結論が出ると思ったのだろうか。

 そんな無駄な思考はさっさと捨てて、一応まだ校内回りの途中なためIDカードのデータに付属している地図を見る。



 2045年現在の日本は人口が著しく低下し、後数年で一億人を切ると言われている。それを表すかのように、数年前からいくつもの町や村が無人となった。特に山岳部にはそれが顕著に出ている。



 そこで、その無人となった土地を買い取って作られたのが、この成程高校だ。

 当時大企業の社長にして現在の理事長である山内(やまうち)氏は、社長兼任で学校を運営している。



 その大企業直営に加え、その広大で充実した施設故に、開校当初から全国から人が集まった。

 そこで各学校の教師陣はその入試制度に度肝を抜かれ、混乱を呼ぶこととなった。



 ――合格基準が全く分からないのだ。



 入試のテスト用紙は学校に届けられる。

 だが、テストで八割近く取って不合格の生徒もいるなか、なんと三割で合格の生徒もいたのだ。

 当然、その逆も然り。



 つまり、テストの点数が全くと言って良いほど合否に関係していないということになる。



 なら、面接だ。

 そう思ってどんな質問をされたのか、と聞く教員はそれは沢山いたことだろう。



 だが、返ってきた質問はありきたりのものだ。

 一ヶ所他と違うのは、『本校についてどう思いますか?』という点のみ。創立一年目にしてこの質問は謎が多いため、ほとんどの教員は面接も違うと決めつけてしまった。



 合格者はほとんど寮生活。

 よって、聞き出せる教員はほんの一握りで、結論だけ言うと対策という対策を立てることは誰も出来なかった。



 さらに、合格者が出て安心したのも束の間。教員にさらなる追撃が加わることとなる。

 なんと、入学一週間で退学になる生徒が現れたからだ。



 理由は『お前はつまらないと言われたから』という意味不明なもの。

 だが、そこからさらに驚きの事実を聞かされることになる。



 テストが無いだけでなく、授業すらないことが判明したのだ。誰がそんなことを予想出来るのだろうか。退学者には成程高校が行きたい高校へ編入試験を受けれるよう手配してくれるのが唯一の救いだが、教員はもうお手上げという状態に。



 世論のいた学校の教員に至っては、学校で初めて合格したのが世論だったがために、『どれだけ馬鹿なことを面接で言えるかどうか』や、『どれだけ馬鹿なことをできるか』とまで言われるほどになっている。



 それを世論が知る術などありはしないが。



 一通り地図を眺めて特に行きたい場所も無いことを確認したと同じタイミングで、目の前の扉が開いた。




「お待たせ」



「おう、待たされ――くっさ!」




 坂田と共にやってきたのは、先ほどの比ではないほどの生臭さ、というよりも、血生臭さだ。

 この数十分の間に何かがあったとしか思えない。



 思わず顔をしかめてしまったが、坂田の腕を見てみると、白い紙でくるまれた小包を抱えていた。




「なんだ? それ」



「ああ、これは秘薬だよ。効果は秘密だけどな」



「そうか。用が済んだならさっさと帰ろうぜ。此処(ここ)は苦手だ」



「そうだな。連れてきて悪かった」




 結局、坂田がここに何をしにきたのかは世論には不明だったのだが、この辛気臭い場所から離れるのが最優先事項のため、さっさと歩き始めた。




「そっちは反対だ。というか、お前道知らねえだろ」



「そういえばそうだった――ついでに喰らえ!」



「いったぁ!? 今のデコピンするところじゃねぇだろ!」




 お礼は忘れない世論だった。



◆◆◆



 何度も言うが、この学校は自由登校だ。

 それは日が経てば経つほど登校する生徒は少なくなる。教室に寄る生徒などはそれよりも当然少なくなるわけで――




「うわー、宿題忘れたときの居残りみたいな人数の少なさだな」



「いや、行ったことがないから知らない――って、比亜里以外は意外と勉強できる生徒が多かったんだな。比亜里以外は」



「うるせぇ。宿題を忘れることぐらいあるわ」




 ――入学式から五日目。登校者は世論と坂田を含めて五人。



 三日目はまだクラスの半分はいた。

 だが、四日目になると二桁を切り、来ていた生徒もすぐに帰ってしまった。

 そして、五日目。その五人の中に櫻井やよく分からない会話でグループを組んだ男子二人が居るのは、なんとも運命を感じる展開なのだろうか。



 というよりも、この三人は何故か一度も休んでいないらしく、その過程で男子二人の名前も覚えた。

 さすがの世論も二人くらいの名前なら一分もかからずに覚えることができるのだ。




「おはよう、八乙女(やおとめ)石田(いしだ)



「またここにいるなんて、お前らも飽きないな」



「それはこちらの台詞だ比亜里。お前たちもまたここに来たのか。もっと別のことに時間を費やしたらどうだ」



「それ、お前にだけは言われたくないな」



「ああ、おはよう二人とも」




 相変わらず、坂田は動くのが早い。

 その分、挨拶がしやすくて有り難いというのはある。



 世論と例の『トランプの役は何が好きか』という質問をした男子生徒、八乙女 恵哉(けいや)は二日前、世論達が研究室に行った次の日から交流を持った男子生徒で、顔を会わせては世論と言い合っている。

 とはいえ、自己紹介をした当日から一緒にバスケや水泳をしに行く辺り、二人とも仲は良いと言うことだろう。



 ちなみに、坂田が運動が苦手というのは、その場にいた全員が驚いたことだ。



 そして、八乙女の質問に答えて気に入られたのが、石田 直泰(なおひろ)。寡黙気味の彼ではあるが、八乙女についていける辺り、この学校に合格した生徒だけはあるということなのだろうか。



 坂田は相変わらず、この二人とも良い距離感を持っている。彼の人に馴染む早さは異常と言っても差し支えないだろう。




「比亜里。今日は何やるんだ?」



「そうだな。今日はテニスでもしようか」



「よし、なら今から――」




 この流れも、これからの日常となることだろう。

 だが新学期はまだ始まったばかり。

 当然日常とは異なることも起こるわけで――




「今学校に来てる物好きなやつはいるかー!?」




 ――バンッ! という勢いよく扉を開けた音とともに、見たこともない女子生徒が教室に入ってきた。




「誰だ? あいつ」



「俺は知らん」



「お、いるねいるねー♪」




 いきなり入ってきたいかにも活発系という感じの茶髪の髪の長い女子生徒に、八乙女と世論が聞こえる声量で失礼な発言をするが、それを聞こえていないフリをして、本を読んでいた櫻井に近寄る女子生徒。

 坂田と石田はジーっと黙って見ている。




「んー」



「……どうかした?」



「うん! 君は面白いね!」



「……ありがと?」




 櫻井をジーっと見つめてから、何処か嬉しそうに頷く女子生徒。櫻井は対応に困ったかのように首を傾げながらお礼を言った。そして、今度は世論達の元へと近寄ってくる。




「うんうん! 君達も中々面白い……ん?」




 坂田、八乙女、石田と頷きながら見ていく女子生徒だったが、世論を見た瞬間に首を傾げる。

 当然、世論に彼女の意図を察することはできない。




「な、なんだよ」



「おっかしいなー。まぁいっか――ねぇ君! 私とポーカーしてよ!」



「――は?」




 いきなりポーカーをしようと言われた世論。

 全く意味が理解できない。




「だから、ポーカーだよポーカー! ディーラーは――君ね!」



「分かった」



「何引き受けてんだよ坂田! てか、まずやらねぇ! 俺は今からテニスしに――」



「いいじゃねぇか。受けてやれよポーカー」




 退路は絶たれた。

 坂田はニヤッと気持ち悪い笑みを浮かべて世論を見ており、八乙女も面白そうなものが見れるとでも言いたそうな顔で、石田は無表情で見ている。



 毎回坂田達が何を考え、何を思ってこういう行動をしているのか分からないことは、最早仕方の無いことなのかもしれない。




「――あーもう! 分かった分かった! やるよ」



「よっし! それじゃあディーラーさんこれトランプ! よろしくね!」



「どうも。新品っぽいけど一応全部確認させてもらうね」



「おっけー」




 世論はやる気が無いのだが、ここまで来たらやるしかない。世論が席に座ると、一つ前の席を反対向きにして対面になるように設置し、ニコニコとしながら席に座った。



 世論もちゃんとポーカーは知っているし、ポーカーフェイスもそれなりに得意。正直常人よりは強い自信すらある。

 何故ならポーカーは運と駆け引きの勝負。バカだからこそ、やれる駆け引きもあるからだ。




「あ、待って! せっかくだからポイントを賭けて勝負しよ! そうね……最大五回戦、百ポイントで、負けた方は勝った方の言うことを一つ聞くことってのでどう?」



「ここまで来たんだから別に良いけど、ポイント? どうやってやるんだ?」



「それならここにあるわ」



「おいお前……絶対にポーカーやりにきただけだろ」




 女子生徒が出したのは、十と書かれているチップ合計ニ十枚だ。用意周到にもほどがありすぎる。

 坂田もトランプの確認を終えたらしく、前準備も終わったところで、女子生徒がシャッフルしようとすると、坂田が一つ提案をした。




「一応不正がないように、君と世論がシャッフルした後に俺にシャッフルさせてくれないか?」



「用心深いね――別に私はいいよ」



「俺もそれでいい」




 坂田の提案により、女子生徒がシャッフルした後に世論が、世論がシャッフルした後に坂田がシャッフルすることになった。




「ルールは単純。カードの交換は一回。ベッティングタイムはカードの交換を終えてから。ベッド、レイズは一枚ずつ。ベッドとカード交換を始める人は交代で、まずは君からで。レイズは二回まででどうかな」



「分かった」




 ルールも確認しおえ、女子生徒、世論、坂田とシャッフルをし、坂田はアンティとして二人からチップを一枚ずつ貰い、カードを配る。

 世論の手札はブタ。一番強いカードはハートの(クイーン)。だが、あえて手札は変えない。




「手札はこのままでいい」



「お? そんなに良い手札が来たんだ。まあ、私もこのままなんだけどね」




 ――彼女もまずは様子見と言ったところか。



 世論はバカなりに『かま』をかけているつもりだ。チラッと女子生徒の顔を見てみるが、変わらぬ笑顔のまま。



 ――もしかしたら、俺と同じ系統か?



 世論の頭にそんな考えが(よぎ)る。




「ベット」



「んーと、じゃあレイズ」



「レイズ」



「レイズ」



「コールだ」




 賭けたポイントはアンティ合わせて合計五十ポイント。

 チップ五枚だ。

 ここまで向こうが張り合ってきたということは、常識的に考えればワンペアは出ているということになる。



 だが、これは世論も頭を使ってくるという証明のための一戦。負けを前提とした一戦だ。




「じゃあ、オープンだな――俺はブタだ」




 だから、どんな役がきても予想通りという顔をしようと決めた。




「ふーん……頭は使えるんだ。でも、生半可に頭を使っても――」




 だが、女子生徒の役を見て世論は意表を突かれてしまった。




「――それは逆効果だよ♪」



「……ブタ?」




 彼女の役もまた、ブタ。

 だが、彼女の一番強いカードはダイヤの(キング)のため、女子生徒に軍配が上がる。




「……よく勝負に出たな」



「ふふふ――駆け引きは大事だよ? それに、ゲームはまだまだこれから♪」




 これも作戦か、と区切りを付けて、仕切り直す。

 再び女子生徒、世論、坂田の順番でカードをシャッフルし、坂田は二人からアンティを貰ってカードを配る。

 今度は7のワンペアが手元に来た。

 つまり、三枚捨ててもうワンペア来るのを祈るか、7が来るのを祈るかのどちらかである。




「三枚ちょーだい……あー」




 世論が何を捨てるか悩んでいると、女子生徒が明らかに残念そうな口調で声に出して悔しがっていた。恐らく、そういう作戦なのだろう。

 無視する方向で、スリーカードを狙うことにし、同じく三枚捨てて三枚貰う。



 貰ったのは7と4を二枚。

 つまり、フルハウスの完成だ。

 今回は強気に攻めてもいいだろう。




「私はフォールドするねー」




 そう思った瞬間に、彼女はフォールドを選択した。本当に手札があまり良くなかったということなのだろうか。




「さすがに君の役にワンペアじゃ勝てないからなあ」



「――!?」




 その刹那、世論は背筋から寒気がしたのを感じた。



 ――今この女は、なんて言った?



「私は、君が持ってる役には勝てないからフォールドするって言ったんだよ?そうだね――フルハウス辺りかな?」



「……てめぇ」



「やっぱり♪」




 ――思考を読まれている。



 その考えに至るのは、世論でも容易だった。

 ポーカーフェイスを崩したつもりはないのに、表情を動かしたつもりはないのに、だ。




「私は知りたいの。学校がなんで貴方のような人を入学させたのか」




 思考が読まれる。

 それはポーカーにおいて、死活問題と言ってもいいほどのハンデだ。



 ここで、世論は考えを改めた。

 この女子生徒は、自分なんかと同じ系統なんかでは全くない。

 寧ろ、正反対と言ってもいい。




「だから――私を楽しませてね! おバカさん♪」




 彼女もまた、坂田達と同じ系統なのだ。

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