ゲーム?我慢ですね
第一戦目。
今まで取ってきたデータを元に、坂田は十秒ギリギリまで使って、中央に横向きに置かれているトランプを取った。初期位置で中央に横向きに置かれているトランプを取れば絶対に『K』が取れる。
これをデータで仮説を立てて、八乙女が思いがけずに実証してくれた結果であり、本人から直接聞いた情報でもある。
相手はノータイムで一枚取ると、再び十秒ギリギリまで使って今度は右側のトランプを取る。
最初の中央一枚目は必ず『K』であり、マークは絶対にスペードだ。そこからハート、ダイヤ、クローバーで並び方が変わっていくが、その真ん中の一枚と相手側が初手で取る一枚は確定で『K』ということまでは分かっている。
つまり、『K』のゾロ目は意図的に出すことが可能だということ。これも八乙女から教えてもらった情報だ。
相手はまたノータイムで一枚を取る。
坂田は今度は『A』を取りに行く。
場所は相手が初手で取った場所と、坂田が二手目で取った場所のちょうど真ん中あたり。
取ってみると、それはやはり『A』だった。
揃えていく手札は、『K』が二枚と『A』、または『Q』を一枚。残りは予備だ。
実は、あのルーレットの法則も割れている。
ルーレットは、『K』のマークの位置や向きで分かるような仕組みになっているのだ。
それで、今回の場合は横向きだったため、ルーレットは『降順』になる。
だから、『A』が必須なのだ。
それも今までのメモのおかげで簡単に特定することができた。残りの一枚は本当なら『K』の三枚目を狙いたいところではあるが、これはまず無理だろう。
相手が取っている可能性が極めて高いのである。
さらに、その残りの一枚は八乙女曰く、この場では石田しか知らないだろう、ということなのだが、聞く時間がなかったために分からない。
ホワイトボードはこちらに持ってきてしまったためにそれで教えて貰うこともできないし、何よりこのデータを敷き詰められた余白などないホワイトボードに、坂田達に説明できるだけの十分な情報を載せられるとは思えない。
だから、坂田は櫻井に賭けている。
石田から情報が貰えなかった以上、今あるデータでとにかくゾロ目を取り続け、ルーレットでできれば相手のポイントを減らす、ぐらいの気持ちで挑まなければ、あっという間に負ける。かと言って、そのまま続けてもジリ貧になるだけだ。
相手が一枚取ったのを見て、今度は『A』を取らないように、時間ギリギリまで使ってトランプを取る。
このゲーム。
両者にゾロ目、または片方で二種類のゾロ目が揃った時にシステムの仕様が変更されていく、所謂、『変数』と言われるものが組み込まれている。
これも八乙女情報だが、これは証明する必要もなかった。
既に第三回戦目に、相手側が証明してくれている。
一戦目、二戦目と規則性を見つけていた彼らは『K』を四枚取るという荒業を見せたが、二戦目で内藤もゾロ目を出した後の第三試合、ゾロ目が出ることはなかった。
つまり、そこで仕様が仕様が変わったということになる。
これが起きると厄介で、今までのほぼ全ての法則が塵と消える。データが無いわけではないが、かなり厳しい状態になることは間違いない。
さらに、両者にゾロ目が出て、尚且つ片方で二種類のゾロ目が揃った場合のデータが何一つ無いため、それは避けなければいけないのだ。
相手も、それは承知の上だし、何よりも三人なため二種類のゾロ目を作ることもできない。
だが、このゲームのこれらの特性上、見るべきトランプの数字は限りなく絞られていく。つまり、五十二枚あるトランプの内、実際は十二枚だけ見ていればいいのだ。
お互いに規定枚数を取り終えると、案の定両者のトランプが光を放つ。
ゾロ目の数もお互いに『K』、枚数は『2』。
ポイントを『26』ずつ減らして、オープンへと移行する。
オープンした両者の数字は、『A』だ。
オープンも揃ったことでルーレットがスタート。
数秒回り続けて止まったのは、予定通りの『降順』だ。
同数のため、ポイントの減少は無く、そのまま第二戦目へ。
第二戦目。坂田は時間ギリギリという所は同じに、だが先程とは違って左側の一枚を取った。
これもまた、八乙女からの情報により取った行動だ。
八乙女も坂田の取ったデータを見ていたらしいのだが、両者共にゾロ目が揃ったときのデータにてKの位置が各システムによって初期位置だけ固定されているのではないか、という仮説を出したらしい。そして、それは実証という形で確信となった。
二枚目は石田と同じ所を取ればいい、ということなので、ギリギリで中央に近い部分から石田が選んだトランプを取る。
並び方が同じというのも、これが使える要因だろう。
そして、これが使えるということは、相手と後一回はまだ対等に近い所で勝負ができるということだ。
相手はノータイムでトランプを取っていく。
そして、坂田の三枚目。
ここで人数による誤差が生じる。
坂田に『A』と『Q』のある位置など分からないし、ルーレットの『降順』や『昇順』も分からない。
現在、唯一頼りになるのは彼自信が書き取り続けたデータのみ。世論の突発的な発想や天沢が何かに気がついてくれれば別だが、今の時点ではこれが一番信用できる。
それでデータを見てみるが、ここでまた一つ障害が立ちはだかる。沢山書きデータを正確にするために東雲達には同じ場所をとにかく取らせ続けたのだが、そのトランプの数字が何戦目の、何処のトランプなのかがさっぱりなのだ。
とりあえず時間が無くなってしまうため、一枚適当なのを取って、再びデータに目を向ける。
だが、何戦目に両方のゾロ目が揃ったのか分からない。
どんなに見ても分からないものは分からない。
相手はノータイムで既に一枚取っているため、もう残された時間も少ない。
だから坂田は、石田の後に相手が取ったところと同じ所を取ることにした。
そのトランプが『Q』だったのを見て、安堵すると共に相手のこのシステムに気づく早さに驚愕を覚える。
坂田が八乙女に教えてもらいやっと理解したことを、A組はその時点からとっくに知っていたということになるのだ。
坂田はD組の生徒、特に世論、天沢、櫻井、八乙女、石田、東雲、倉科の七人を評価しており、少し人材が揃いすぎているのでは、と思っていたぐらいだったのだが、そんなことはなかった。
C組の双子とのオセロの時も、世論と櫻井の作戦のおかげでなんとか勝てはしたがあのままなら大敗だった。
さらに、東雲一人ではないにしろ東雲含む女子グループに圧勝した二人組や、A組で今戦っているあの三人。
他にも表情や雰囲気、言動からある程度のことは分かるのだが、どのクラスもDと似たようなものだった。
B組が若干見劣っている感じがしなくもないが、坂田の各クラスに対する評価はそんなものだ。
チラッ、とホワイトボードに怒濤の勢いで書きなぐっている櫻井を見る。
坂田は、今この状況を打開できる有力な人物は櫻井だと踏んでいる。
お互いに規定枚数を取り終えると、再びトランプが光を放つ。
ゾロ目の数は両者共に『K』で、枚数は『2』となり、両者のポイントを『26』ずつ減らしていく。
そして、オープンへと移行。
坂田が出したのは『Q』で、相手も同じく『Q』となり、同数のためまたもポイントの減少は無し。
現在Aが『207P』で、Dが『288P』となっている。だが、余裕がある訳ではない。むしろ、百ポイントは差が欲しいところだった。
だが、終わったことを嘆いても仕方ないためゲームに集中する。櫻井の様子を見ると、まだ終わる気配はない。
何を計算しているのか坂田にも予想はついているが、それを手伝えるはずもないのでこうやって耐えるしかない。
第三戦目。
坂田が完全に耐えられるのは、後この一戦のみ。
これ以降は完全な無法地帯となる。
つまり、そこから櫻井頼みとなるのだ。
だから坂田は、取るトランプを決めていてもすぐには取らない。それが彼らの勝てる、数少ない道筋の中でも最も信用できる手段なのだから。
そんな思考を巡らせている坂田を横目に、世論はボーッとスクリーンを見ている。
特に意味はない。ただ、一つだけ違和感を持っていただけだ。
その違和感は、トランプの並べ方。
基本、こういう機械で行われるものは綺麗に整頓されている場合が多い――というよりも、少なくとも世論が見てきたのは全てそうだった。
後はもう、観戦しているときと同じように遊んでいるだけだ。
適当にトランプの向きに合わせて目線を追ってみたり、櫻井が何処まで言ったのかを見たり、相手側を見たり、坂田と相手が取ったトランプの跡だけを線で繋げてみたり――勿論脳内で――と、本当にどうということはない。
だが、さすがに飽きてきた。
トランプの向きに目線を合わせて行っても同じ所をクルクルと回るだけだし、櫻井はただ数式を書いているだけ、相手のことを見ても得なことはないし、跡を線で繋げるのもたまに綺麗な三角形や四角形が出来るけどほとんどがよくわからない四角形だ。
天沢は天沢でウーンと考えながら唸っており、坂田はゲームをやっているから喋りかけることもできない。櫻井は論外だ。
ゲームについて考えても無意味だというのは何回も実感している。だから、今度は一筆書きで全てのトランプの上を繋げて遊ぶ。
そんな中、第三戦目。
既に坂田は二枚取っており、三枚目をこれから取ろうというところだ。時間ギリギリまで待って、取る。
数字が『Q』ということは、また『昇順』が来ることになる。
お互いに規定枚数を取り終えると、三回連続でトランプが光を放った。
またもやゾロ目の数は『K』で枚数は『2』。
お互いのポイントをまた『26』減らした。
そして、坂田は櫻井を見る。
櫻井とこちらを見ていたのだが、ジェスチャーで『五分』とやっていたため、『約五分耐えて』と言っているのだろう。
一戦で持ちこたえられる時間は全工程合わせて約二分。つまり、二戦、最悪三戦は自力で耐えないといけないことになる。
第四戦目。
坂田の頭の引き出しは完全に空っぽだ。
相手を見てみると、早く引かないかを待っているようだが、まだかなり余裕があるように見える。
ハッタリであって欲しいと願いながらも、今までのことからそれはないという考えが脳裏に過る。
そこで、いきなり肩を叩かれた。
「坂田。俺がやる」
その一言に、坂田は一気にバット見た。
そこには、何とも信じがたいことに、パネル操作を自ら志願した世論がいた。
「……? 比亜里、いきなりどうした? とうとう誤差動も聞かなくなったほどバカにでもなったか?」
「うるせえ。ちょっとあいつらの余裕顔が気に食わないから少しだけやるだけだ。作戦は特に決まってはない」
本来なら代わらないのだが、坂田は代わった。
彼らの勝つ数少ない道筋の中には、期待値はかなり低いが『世論の発想逆転』というものがある。
だが、本人そのものがあれなため、本当に期待値は低い。
低いのに――
「――は?」
現在、世論がいつの間にか三枚目を取ろうとしているところだった。だが、そこよりも今持っている手札に驚愕を覚える。
――世論が持っている二枚は、『K』だったのだ。
やり方は分からないが、二手で二枚手に入れているのだ。
もしかしたら、もしかするかもしれない。
坂田は期待を込めて、三枚目を取った世論に聞いた。
「な、なぁ比亜里。まさかとは思うが、それ最初から知ってたのか?」
「それって?」
「だから、今みたいに『K』だけを選ぶ方法だよ」
正直、世論にこのゲームの攻略法を見つけられるとは思ってもみなかった。
「ああ、適当だよ?」
「――は?」
そして、まさか適当だとは思ってもみなかった。
「真ん中らへんにある横向きのトランプから適当に選んで、三角形作ってみただけ」
「三角形……?」
三角形という単語に、坂田の脳中で何かが擦った。
だが、擦っただけで何も思い付かない。
「うん。それでやってみたら両方とも『K』だった。かなり運が良かったわ」
坂田はどういうことか分からないため、適当という部分はとりあえず保留で考える。
その間にも世論は三枚目、四枚目と取っていった。
そして、両者規定枚数を取り終えると、トランプが光を放った。それに観客席からは感嘆の声が漏れ、相手側もこちらを注視している。
ゾロ目の数は両者共に『K』で枚数は『2』のため、お互いにポイントを『26』減らしていく。
そして、オープンへと移行。
世論は『神様の言うとおり』で選んだ結果、『10』を出し、相手は『A』を出した。
オープンが終わったことで、ルーレットが始まる。
数秒間回り続けたルーレットだったが、『降順』で止まった。よって、『A』が『10』を破り斬る映像がスクリーンに流れて、世論達のポイントは『227P』、相手側は『155P』となった。
第五戦目。
再び世論の番となったが、当然何も考えていない。
だから、適当な場所から一枚を取る。
これには坂田も突っ込みをしたくなったが、取ったトランプが『A』だったため思い止まった。
相手は相変わらずのノータイムでトランプを取っていく。
世論は今度は二枚目をまた適当な位置から持ってきて、三枚目も四枚目も同じように取っていった。
お互いに規定枚数を取り終えると、相手側のトランプのみが光る。
ゾロ目の数は『K』で、枚数が『2』のため、世論達のポイントを『26』減らしていった。
そこからオープンへと移行する。
世論が出したのは『A』であり、相手が出したのもまた、『A』だ。
ルーレットで数秒回ったあと、『降順』で止まった。
同数によりポイント減少は無しとなる。
第六戦目。
ポイントは現在、D組が『206』でAは変わらず『155』だ。
そこに、坂田が待ちわびた例の人が動き始める。
予定よりはかなり早いが、むしろ有難い。
「お待たせ。世論、もういいよ。後は私がやるから」
「そうか。なら頼んだ、櫻井」
櫻井が、参戦した。




