本気?すごいですね
「マジかよ……」
世論はついそう呟いてしまった。
だが、その呟きは誰に聞かれることもない。
その呟きこそが今のD組の総意であり、ほとんどのクラスメイトが世論と似たような反応をしている。
つい先程まで、この調子でいけば勝てると踏んでいたD組は、今の試合でそれを一気に崩された。
第三回戦。現在最短決着の、たった四戦で決着した。
スクリーンには、内藤達のポイントは『0』、相手のポイントは『32』と表示する。
内藤達が相手のポイントを減らしたのは、『7』と『2』のゾロ目を引いたときのみ。四戦の内二回もゾロ目を引いたとしたら、それは普通なら上出来ある。
そう、普通なら――だ。
今回は、普通ではなかった。
相手がゾロ目を出したのは四戦の内三回。
しかも、その内二回が『K』であり、追加で一戦目、二戦目と二回連続で四枚引くことに成功している。
内藤達も負けじと二戦目、四戦目でゾロ目を引いたが、結果として足元にも及ぶことはなかった。
ここで、百五十ポイントという圧倒的であったポイント差が、一気に半分近くへと縮まった。
三回戦終了の時点で、D組は『402P』、A組は『337P』となっている。最早D組に余裕は無く、勝っているのにも関わらず焦りが見えてきている。
「安心しろ。俺と石田で可能な限りは取り返してくる」
だが、D組にもその一連の現象に何も反応を示さないクラスメイトもいた。
その数少ないクラスメイトの内二人が、八乙女と石田だ。
「いけそうか? 八乙女」
「このゲームの本質とも言える部分は最所からだいたい予想がついていた。ここまで見たところ、少し厄介な点もあるが、概ねそこから外れてはいない」
「……聞く必要もなかったな」
世論は知っている。
この表情をしている時の八乙女は、何事においても強い。世論と八乙女がスポーツ対決をやっていることはそれなりに知られていることなのだが、その対戦成績自体は知られていない。
過去六種類のスポーツで対決をした彼等だが、その中で世論が勝ったことがある回数は、たった一回のみ。
決して、世論がスポーツができないわけではない。
むしろ、万能と言っても差し支えないほどであり、どのようなスポーツに置いても県レベルは目指せるほどの高水準なものだ。
だから、対決の際も最初は世論が有利に展開していく。
「じゃあ、少し待ってろ」
「勝ってこい」
「……可能ならな」
だが、中盤から終盤にかけて八乙女がこの表情になったとき、それは逆転する。
今まで通用していた戦法は全て通用しなくなり、相手の一瞬の隙も見逃さないのに、自分は一瞬の隙も作らない。
とにかく、この状態の彼は集中力が凄まじいのだ。
だから坂田も八乙女には何も言わない。
言う必要がないからだ。
「それでは、第四回戦に出場するグループはパネルの前に立ち、ポイントを入力してください」
相手は女子四人のグループ。
持ちポイントは八乙女が『40』で相手は『80』と、両者ともに少なめの設定だ。
ポイントも揃ったため、ゲーム開始。
トランプが裏向きに並ばれる。
第一戦目開始と同時に、迷わず中央の横向きになっている一枚目を取った八乙女。
すると、八乙女は石田にパネルを譲った。
前の三戦では、そのグループのリーダー格の生徒がパネルを操作し、意見を聞き、ホワイトボードからヒントを掴み、最終的な決定をしていっていた。
だが、この二人は違う。
相手側が一枚引くと、今度は石田が間を開けずに右側の一枚を引く。これで八乙女達の引ける規定枚数となった。
坂田が使っていたホワイトボードは本当にまだ少しだけなら空白があるのだが、今回坂田は何も書こうとはせずに二人の動向を見守っている。
何よりも驚きだったのが櫻井だろう。
他の試合には全くの興味を示さずホワイトボードにひたすら書き込んでいた彼女が、今は手を止めてスクリーンを見ているのだから。
そんな何かと注目されている試合は、両者トランプを取り終わったところで、両者のトランプが光だした。
八乙女達のトランプはゾロ目の数『K』に枚数が『2』のため、相手のポイントを『26』減らし、『54』へ。相手のトランプはゾロ目の数『3』に枚数が『2』で、八乙女達のポイントを『6』減らして『34』となった。
そして、オープンとなる。
だが、八乙女達にはオープンする手札が無い。
よって、相手がオープンした『9』がルーレットを回さずにそのまま反映され、八乙女達のポイントを『25』まで減らした。
第二戦目。八乙女は再び始まると同時に今度は左側の一枚を引いて石田と交代する。相手が悩みながら一枚を取ると、間髪いれずに石田が中央に近い部分から一枚を取っていく。
「まさかな……」
その行動に、坂田は信じられないような声を漏らした。
何に対しての呟きかは大変気になるところだが、ここで変に喋ると警告を受けかねないため、聞くことができない。
両者の規定枚数を取り終えると、今度は八乙女達のトランプのみが光を放った。
ゾロ目の数は二回連続である『K』のため、再び相手のポイントを『26』減らした。
ここで、館内が少しずつ騒がしくなっていく。
始まりはA組やD組からではなく、観客席からだ。
観客席にはかなりの数のスーツ姿の人がいるのだが、その人達が何やら話しているのだ。
だが、メリハリはついているのかそれもすぐに収まる。
次にオープンだが、相変わらず手札が無いため相手がオープンした『Q』がそのまま反映された。
現在、八乙女達のポイントは『13』で、A組は『28』となっており、場合によっては八乙女達が次で負ける可能性すらある。
第三戦目。三度目の高速取りを見せて交代した二人だが、今回は相手も取るのが早くテンポよくトランプが引かれていく。
規定枚数を迎えた両者。
その両者共に、トランプが光を放った。
ここの数字によって、八乙女達の負けが確定となる。
だから、せめてできるだけ多くダメージ与えて欲しいところとなる。
そこで数字の開示。
八乙女達のトランプのゾロ目の数は三回連続の『K』となり、相手のポイントを残り『2』にまで減らした。
観客席からは感嘆の声と共に、拍手まで起きる。
何故そうなっているのか分からない世論やその他大勢は戸惑いながら観客席の方に顔を向けたが、今はそれどころではなかったことを思い出して再びスクリーンへと顔を向け直す。
相手側のゾロ目の数もまた『K』であり、この時点で八乙女達の負けが確定する。だが、たった二人でこの結果は上出来と言っても言い過ぎではないほどだ。
八乙女達のポイントが減らされて、ゲームは終了。
それとともに、観客席からは拍手が起き、坂田も一緒に拍手している。
「Dクラス側のポイントが『0』になったため、第四回戦は終了となります。そのまま次の試合、第五回戦目に入りたいと思いますので、次の試合に出場するグループはパネルの操作の方をよろしくお願いします」
未だに観客席からは拍手が送られているなか、八乙女と石田は世論の元へと歩いてくる。
八乙女も石田も、負けたのにも関わらずたいして悔しそうにはしていない。
「やっぱり勝つのは可能性的に厳しかったな。でも、これでかなり余裕ができたはずだ」
「ああ、凄かったぞ。よく三回連続で『K』を当てることができたな。見ての通り、聞いての通りの拍手だ」
「あれはコツさえ見つければ誰でもできるし、恐らくそのことに対してではないからな――とりあえず、頑張れよ比亜里」
「おう、任せとけ」
世論との会話が終わったら、今度は坂田の方へと歩いていく八乙女と石田。よくホワイトボードを見てみると、全く空白が空いてなかったホワイトボードにはそれなりに大きい空白ができていた。
急遽作ったのか、書いてあったものが微妙に残っている。
世論は視線を戻してパネルの操作を行っている倉科率いる女子グループを見ていると、後ろの方で試合観戦していた天沢が世論の横へとひょっこり現れた。
「世論君、暇そうだね?」
「まあ、こういうのは基本的に坂田任せだからな。見ているときは中々面白いけど、さすがに飽きてきたのはある」
「それは私も同じ。やることないから世論君に話し相手になってもらおうかなーなんて思ってきたの」
正直なところ、いきなり暇だから話そうと言われても困るものだ。何を話せば良いのか分からないからだ。
だから、一応両者が共通で認識しているものを話すことにする。
「そういえばさっき八乙女達に拍手がされていたけど、八乙女達は何をやったんだろうな」
「んー……見た感じだと『K』のゾロ目と何か関係があるということぐらいかな」
「やっばりそれくらいか」
「私にもよく分からなかったよ。ごめんね」
「そこは気にするな――そろそろ始まる頃かな」
第五回戦の相手は女子二人のグループ。
ポイントはもう既に出揃っていた。
だが、相手側のポイントが変だった。
倉科達のポイントは『100』と普通の値だが、相手の所持ポイントはなんと『1』しかいない。
「なんだありゃ。完全に捨てにいってるのか?」
「たぶんだけど、次のグループに出来るだけ沢山ポイントを残すための工夫じゃないかな」
「そういうことか。まあ、捨てているのは間違ってはないわけか」
「そういうことだね」
ふと坂田達の方を見てみると、坂田はホワイトボードに忙しそうに何かを書き込んでおり、その近くでは櫻井もホワイトボードに再び何かを書き込んでいる。
坂田は何をやっているのかはまだ分かる。
何やら確率に近い何かをやっているというのは、世論でも理解できた。
だか、櫻井は全くの別。
何をやっているのか、全く分からない。
唯一分かっている部分は、開始からずっと数式を書き続けているということだろうか。
「それでは、第五回戦目を始めてください」
相枝が開始の合図をすると、両者テンポよくトランプを取っていく。そして、規定枚数を取り終えたとき、相手側のトランプが光を放った。
トランプのゾロ目の数は『K』で枚数が『2』のため、ポイントを一気に『26』も減らすこととなってしまった。
だが、相手は手札がなく、ポイントも『1』しかない。つまり、オープンすれば勝ちなのだ。
オープンとなり、倉科達が『Q』を出したため、相手にそのまま反映されて相手のポイントは『0』になった。
その瞬間倉科達の勝利が決まるも、そのリーダーである倉科の表情があまり冴えていない。いろいろ不満があるということだろう。
第五回戦は本当に何もせずに決着がついた。
現在のポイントはDが『340P』でAが『259P』となっている。
結果的に有利にはなっているが、ある意味ではここから真打が登場といったところだろう。
このゲームの一回戦目にクラスメイトの発言を取り消した男子生徒が、ここで出てくるのだから。
「それでは、最終ゲームに移りたいと思います。試合に出るグループはパネルの前に立ってください。ポイントは今残っているもの全て使うため、入力の必要はがあません」
相枝の指示により、ホワイトボードを持ってパネルの前に集合した世論達。
パネルには『開始の合図までお待ちください』と書かれている。
相手は男子一人に女子二人というグループだ。
視線を坂田達に戻すと、またもや櫻井はホワイトボードに何かを書き込んでいる。
「ごめん。いきなりだけどもう少しだけ時間が欲しい。私はこれが終わってから参加する」
「それは、勝つために必要なことか?」
「必要」
断言を持って言い切った櫻井に、残りの三人は顔を見会わせて頷く。
正直なところ、世論に策というほどの策など持ち合わせてなどいないのだから。
「そうか……じゃあ優先的にそれを完成させてくれ」
「分かった」
櫻井はその返事と共に変わらぬスピードで、引き続きホワイトボードへと書き込んでいく。
そして、お互いがパネルの前へと並んだ。
櫻井の『何か』が終わるまでは、この三人で耐えなければいけない。
「このゲームがこの対戦カード最後の試合となります。私は、両者共に良い試合になるように祈っています。それでは、第六回戦を始めてください」
第六回戦。第一戦目。
世論達は、この五戦で集めたデータを元に、坂田を中心として組み立てていく作戦だ。
対戦相手は、例のマイペースそうな男子生徒と、少し男勝りな雰囲気がある女子、どこにでもいる大人しそうな感じの子だ。
こういう場に立ってみるとわかるが、どのクラスにも坂田のような人物がいることが分かる。
三戦目の男子が良い例だろう。
一瞬の油断が、命取りとなる。
その隙を見せずに、どうやって相手の隙を突くか。
ゲーム大会も、山場を迎えることとなった。




