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あの娘は発電機(She Is Electric Generator)  作者: 枕木悠
第三章 ディスコード
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第三章③

 アリスの夢に変化はないか、とハルカは真剣な表情でマヨコに聞いて来た。「マヨちゃんのアリスの夢に劇的な変化はない? 今も変わらずに繰り返している? 続きはない? アリスの夢の続きに進んでいない?」

 ハルカの表情は、冗談みたいに真剣だったから、マヨコはハルカは冗談を言うための伏線を張っているのではないかって思った。「セラピでもしてくれるの?」

「もしかしたらそれに近い状況になるかもしれない」

「今は大会が近くってナーバスになっていて、ハルカちゃんには私に変化があった風に見えるかもしれないけれど、私は普通だよ、ただ速く走ることに夢中になっているだけだよ、セラピはきっと、必要ないよ」

「夢の続きは見ていない?」

「うん、見てないよ、」マヨコは答える。「夢はずっと一緒だよ、ずっと一緒何も変わらない、同じところで目を覚ますし、アリスの夢って、何なんだろうね?」

「現実にアリスに会ったことはない?」

「セラピは始まっている?」

「違うよ、ただ真実が知りたいだけ、マヨちゃんが同じ夢を見続けるシステムが知りたいだけなんだけど、」ハルカは真剣な表情を止めて、いつもの人類平和を感じさせる笑顔になった。「まだ分からないみたいね」

「夢の続きか、」マヨコはベッドの上で膝を抱えて、そのまま横にごろんとなった。「でも、そう言われて見れば不思議、ううん、別に対したことじゃないんだけど、最近は夢の続きを見ようなんて考えなくなって」

 マヨコは目を瞑った。

 体が疲れているから、すぐに眠たくなった。

 夢の続きか。

 アリスがいなくなった瞬間。

 目を覚まさないって強く思えば、夢は続くのだろうか。

 そして続きがあるとしたら。

「あ、レナさん」

 ハルカの声にマヨコは目を開ける。

「こんばんは、ハルカちゃん、」レナの声。レナがマヨコの部屋の扉の隙間から顔を覗かせている。「マヨコちゃんも」

「・・・・・・こんばんは、」マヨコは彼女に反抗的な態度を隠さずに言った。「なんだ、来てたんですね」

「あははっ、」レナは複雑な表情で笑う。その笑い方がマヨコはたまらなく嫌いなのだ。「入ってもいいかな?」

「どうぞ」ハルカが言った。

 マヨコは勝手に認可を出したハルカを睨んだが、彼女は知らん顔をして部屋の真ん中のテーブルの前に座布団を置いた。「座って」

「ありがとう、」レナは座布団の上に座り、乱れていない前髪を直し大きく息を吐いて瞳を潤ませてハルカに言う。「ハルカちゃん、やっぱり駄目だったよ、せっかくアドバイスを貰ったのに、駄目だったよ、ケン君はやっぱり、頑なだよ」

 それからレナとハルカは二人で話し始めた。何の話題かは、よく分からない。とにかくマヨコのことを放ってレナと仲良しみたいに会話をするハルカにヒステリックになった。もう知らないって、マヨコは毛布を被った。

 そしたら。

 やっぱりアリスの夢を見た。

 そしていつものようにアリスとワルツを踊り、アリスを追いかけっこをして、そして屋上で。

「アリスはどこに消えた!?」って叫んだ瞬間にマヨコは。

 夢の続きを思った。

 すると。

 マヨコはまだ夢の中にいた。

 まだ屋上だ。

 屋上の風景を。

 踵で回ってそのパノラマを見た。

 アリスはしかし。

 パノラマの中にはいなかったけれど。

「だぁれだっ?」

 その声と同時に、一瞬視界が暗くなる。

 アリスがマヨコの目を後ろから隠した。

 アリスの手を退けて、振り返ればそこにアリスがいる。

「アリス!」

「うん、」アリスは大きく頷き、マヨコがさっきハルカにしたみたいにマヨコに飛びついて、ぎゅっと抱き締めた。「マヨちゃん!」

 マヨコもアリスのことを抱き締め返す。

 もう逃げないように強く抱き締めた。

「私、嬉しい、」アリスはマヨコの耳元で言った。「マヨちゃんがここにいてくれて」

 そして。

 アリスはマヨコの唇にキスをした。

 びっくりしてマヨコは目を覚ました。

「あ、起きた、」ハルカがマヨコの顔を覗き込んでいる。「でも、叫ばなかったね、夢は見なかった?」

 マヨコはハルカの質問に答えず、毛布を頭から被った。そして自分の唇を触った。

 キスの余韻がある。

 妙に生々しく感じられる。

「ねぇ、ハルカちゃん、もしかして、」マヨコは毛布から顔を出し、部屋にレナの姿がいないことを確認して言った。「キスしました?」

 ハルカがマヨコにキスしたから、アリスとキスをする夢を見たのかな、って思ったのだ。

「してないけど、」ハルカは自分の唇に指を当てて言う。「して欲しいの?」

「別にいいです」マヨコは再び毛布を被った。

 そして夢の続きのことを考える。

 キスに驚かなければ、もっと夢の続きが見れるかもしれないと思った。

 でもキスに驚かないようにするためには、キスに慣れるには、結構な時間が掛かりそうだと思った。

 マヨコに恋人はいない。

 ファーストキスはさっきのキスだ。アリスのキスだ。夢だけど。

「ねぇ、ハルカちゃんって、」マヨコは毛布の中で声を出した。「女の子にキスとかしちゃうタイプ?」

「うん、キスとかしちゃうタイプだよ、彼女だって三人もいるんだから、必然的にそういうタイプになるよね、」ハルカは躊躇うことなく言ってのけた。「でも、その質問の意図は何だろう?」

「夢の続きを見たんだ」

 マヨコは毛布から顔を出してハルカに夢の続きの話をした。「だからキスに慣れれば、夢の続きを見れるかもしれない、夢は覚めないかもしれない」

 そしてマヨコは、ハルカの四番目の恋人になった。

 アリスの夢の結末を見るまで、という期間限定で。


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