6 間違えないようにしなくっちゃ!
その日、家に帰った私は、両親に今日の件を報告した。
ジェイコブの家から連絡がいっているかと思ったがまだだった。
二人共、婚約破棄の話を聞いた瞬間、烈火の如く怒り始め、お父様は夜だというのに、ジェイコブの両親と話し合いをするために急遽出かけていった。
ジェイコブがノッカス公爵家の別邸を後にしたのは、数時間前の話だ。
ジェイコブの家は、馬を走らせて3時間弱、私の家からは2時間弱の位置にあり、かなり近い。
向こうの遣いが来ていてもおかしくないはずだけど、ジェイコブはご両親に話をしていないのかしら。
お母様に慰めてもらった後は、アットンから借りたハンカチをメイドに洗濯に出すように伝えた。メイドに洗うことに、私は不満はないが、借りたものなのでプロに任せるのが、貴族の常識だった。
温めのお湯が張られたバスタブに浸かりながら、今日のことを考えた。
散々ではあったが、色んなことがわかった日でもある。
ジェイコブの浮気。ダイアナという男爵令嬢の存在。アットンは私のことを嫌っているわけじゃなくて、ミュウ様の命令で冷たくしていたこと。
……それにしても、どうして私限定なの?
そうだ。ルイス様の新しい好きな人はどんな子なのかしら。
ルイス様は大人しくて可愛らしい人が好きらしい。中身優先の人なので、外見は好きになった人が好みと言っている。
今回の好きな人は、私と同じ髪色で同じ色の瞳。サラサラのストレートの腰までの髪をハーフアップにした、とても大人しそうな少女らしい。
ルイス様と同じクラスではないけれど、同じ学年でだということは確実だと言っていた。
というのも、学園には制服があり、リボンやネクタイの色で学年ごとに色分けされているからだ。
廊下でぶつかった時、申し訳無さそうに何度も謝ってくる彼女に、ルイス様は一目惚れしてしまったんだそうだ。
彼女と話をしたのは、その時の一回だけで、名前もわからないらしい。
よほど、存在の目立たない大人しい子なんでしょうね。
全クラスを見て回ったら良いのに、自分のせいでその子が目立つことになっても良くないと考えているところは、ルイス様らしい。
気持ちはわかる。
ルイス様は目立つから、他の女の子が嫉妬にかられて、ルイス様が好きになった子をいじめる可能性がある。
それにしても、私の髪色はまだしも、同じ色の瞳って結構珍しいと思うんだけど、どんな子なんだろうか。
貴族の令嬢ではあるようだし、社交場デビューをしたらわかるだろうか。いや、その前に公爵家の権力で調べればいいのか。
バスタブから出て体を拭き、家着にしている膝丈の地味なドレスに着替えた。
貴族の多くは、こういうことをメイドや侍女にしてもらう人は多い。お風呂は一人でゆっくりしたいタイプなので、メイドたちには遠慮してもらっている。
髪の毛をタオルで拭いていると、部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「お姉様。お部屋に入ってもいいですか?」
鈴の音色のような可愛らしい声が聞こえ、私は笑顔で応える。
「いいわよ」
「ありがとうございます!」
扉を開けて中に入ってきたのは、私よりも一回り体の小さい、7歳になる妹――ラナだった。
艶のある長い髪を揺らしながら近づいてきたラナは、ソファーに座っている私に飛びついてきた。
「お姉様! 今日は大変だったみたいですね」
「心配してくれてるの?」
「もちろんです! だって、わたしはお姉様のことが大好きですもの」
私の可愛い可愛い妹のラナは、はルイス様と同じ学園に通っていて、髪色と瞳の色も私と同じだ。
腰まである長いストレートに、小顔で、小動物を思わせる大きな瞳
ルイス様と同い年だし、ルイス様の好きな人のことを知ってるかもしれない。
……って、ちょっと待って。
「……ねえ、ラナ。聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
ラナの髪を優しく撫でながら、恐る恐る聞いてみる。
「もしかして最近、廊下で誰かと派手にぶつかったりした?」
「……はい。そうなんです。ボーッとしてしまっていて、昨日、人にぶつかってしまいました。でもわたし、そのお話をお姉様にしましたでしょうか?」
不思議そうにするラナに、何と説明をしたらいいか迷う。
いや、私の主人のルイス様がどうやら、あなたを好きみたいなんだけど?
……とか言うわけにはいかないわよね。
間違っていても良くないし、ルイス様は自分の口から告白したいはず。
とにかく、ルイス様に確認しましょう。そして、間違っていなければ、ラナにルイス様を認識してもらうようにしなくちゃ。
「あのね、ラナ、実は、あなたが昨日ぶつかった人は、私のご主人様かもしれないの」
「ええっ!?」
ラナが可愛らしい顔を両手で覆って驚く。
「どうしましょう。わたしったら、公爵令息のルイス様にぶつかってしまったんですか? 何度も謝りましたが、申し訳なくてお顔を見れなかったんです」
「本人は気にしてないから大丈夫よ」
「でも、お姉様にお話をされたんですよね……」
あなたに恋しちゃったって話をしてましたよ。
「お姉様、私、どうしたらいいんでしょうか」
まだ幼いからかもしれないが、ラナは私と違って泣き虫だ。
目を潤ませ、ぷるぷると震え始めたので、優しく抱きしめる。
「明日は学園はお休みよね? 一緒に、ルイス様に謝りに行かない?」
「わかりました。謝罪は早いうちのほうが良いですものね」
ラナは、私の腕の中で大きく頷いた。
明日、ルイス様はラナを見たら、どんな顔をされるかしら?
会いたかった人に会えたら、きっと嬉しいわよね。
……ルイス様は、今、私が思ったような気持ちで、ジェイコブを招いてくれたんだわ。それなのに、こんなことになってしまって、本当に申し訳ない。
それと同時にジェイコブのことを思い出して、胸が少しだけ痛んだ。
まったく好きじゃなかったわけでもないから余計に辛い。
だけど、大丈夫。
ルイス様だって何回ふられても、新たに好きな人が出来ている。
私だって、また恋をすればいい。
だけど、今度こそは好きになる人を間違えないようにしなくっちゃ!




