46 何もないわよ
昔の私の夢をどうして彼が覚えているのか。いや、覚えているのではなく、最近知ったのかもしれない。
私は警戒しながら、ティーブスに答える。
「諦めてなんかいないわ」
「そうなの? そうとは思えないな」
メイド服を着ているから、そう思われても仕方ないのか。
「私、騎士になったの。だけど、今は違う仕事をしているだけ」
「見栄をはらなくたっていいって」
「彼女は騎士試験を合格していますよ」
呆れた顔でアットンが助け舟を出してくれたが、ティーブスは彼の話を無視する。
「君に聞いたわけではないんだけど……。ねえ、フィリア、彼は知り合い?」
「彼女とは騎士仲間だけど?」
アットンが私の代わりに答えると、ティーブスは笑みを消して私を見つめた。
騎士の格好をしているからか、ティーブスは相手が元公爵令息だと気付いていないみたいだった。
伝えてやるべきか。迷った私がアットンに目を向けると、彼は首を横に振った。
正体は言わなくて良いという意思表示だろうと判断して、ティーブスに答える。
「彼は同僚よ。私も彼も仕事中なの。もう行ってもいいかしら?」
「そうか。久しぶりだから、話をしたかったな。ほら、君はもう、婚約者はいないんだろ?」
「ええ。まあね……」
婚約破棄されてから、まともな男性が寄ってこない。
今は、慎重に人を選びたいので、言葉を濁すとティーブスは話を続ける。
「今度、同級生だけで集まるんだけど、君も来ないか? 色々と話したいことがあるんだ。学生時代、僕たちはすれ違っていたような気がするから」
「いえ、いいわ。仕事があるからやめておく」
行きたくなかった。……というか、今は行くだなんて返事をしたくなかった。
「どうして? 君の都合に合わせてもいいんだよ?」
「別に私がいなくてもいいでしょう? ごめんね。もう行かなくちゃ。久しぶりに会えて嬉しかったわ」
「フィリア!」
ティーブスは私の手を掴もうとしたが、身を躱したため、彼の手は空を切った。
「え?」
「しつこくするのは止めておいたほうがいいと思うけど? 僕みたいに嫌がられたいなら別だけど」
困惑しているティーブスにアットンが忠告した。
別に私は彼のことを嫌がっているわけではない。否定する前に、ティーブスが口を開く。
「俺はフィリアと話をしているんだ。君には関係ないだろう」
「それはこっちのセリフだよ。僕がどうしようが君にどうこう言われたくない」
「……っ」
ティーブスは何か言いたそうだったけれど、元々、大人しい性格だからか、アットンにそれ以上は食ってかかることはなかった。
体格的にもアットンのほうが大きいし、騎士の格好をしているから怯んだのかもしれない。
「ありがとう、アットン。行きましょう。じゃあね、ティーブス。また会うことがあれば、その時はゆっくり話しましょう」
「あ、ああ」
ティーブスは、私の話しかけるなオーラを感じ取ったのか、それ以上は何も言わずに、逆方向へ去っていく。
昔好きだった人との久しぶりの再会。普通なら、心踊る状況のはずなのに重い気分だ。
「大丈夫なの?」
後ろから付いてきたアットンが、歩みは止めないまま、私の顔を覗き込んでくる。
至近距離で見られるとドキドキしてしまう。
しっかりしなさい、私。
「本当にどうしたの? 今日はもう仕事はやめておいたほうがいいんじゃないか?」
「大丈夫! それよりも、私と彼が何もないことはわかったでしょ?」
「君にはないかもしれないけど、彼はそうじゃないように見えたんだ」
「何もないわよ」
話しながら体育館の入り口まで来たところで、また懐かしい顔を見かける。
「あ! フィリアじゃない? 久しぶりね! 元気にしていた?」
学生時代に仲の良かった友人に声をかけられた。
今日は同窓会でも開かれるの?
そんなことを考えながら、友人に笑みを向けた。




