41 あなたも子供だからね
帰宅してから、ラナに話を聞こうと早速彼女の部屋に向かうと、彼女も私に話したいことがあると言った。ラナの表情は7歳の子供がするとは思えないほど重いもので、こんな彼女を見るのは初めてだった。
部屋に通された私は、促されたソファに座る。ラナの部屋はとても女の子らしく、花柄の小物や動物のぬいぐるみが置かれている。
私の隣りに座ったラナは俯いて話し始める。
「お姉様に相談するべきか迷ったのですが、ルイス様が話をされるとおっしゃっておられましたので、私からもお話しいたします」
「……一体、何があったの?」
「エレスト様から校舎裏に呼び出されたんです。一人では怖かったので、お友達に付いてきてもらい、指定の場所に向かいました」
「その時のラナは、彼から呼び出される理由で、何か思い付くことはあったの?」
「いいえ、何もありませんでした。その時のエレスト様は私にとって知らない方でしたし、自分が気付いていないうちに失礼なことをしてしまって、そのことで怒られるのかと思い込んでいました」
ラナは一度言葉を区切り、大きなため息を吐いた。
「ルイス様に話をしてみようとは思わなかったの?」
「もちろん、ご相談しようかとも思ったのですが、私なんかが相談しても良いのか迷ってしまいましてやめたんです」
「次からは、学園内であったトラブルのようなものは、ルイス様や先生に相談するようにしてね。何かあったら大変よ」
「ルイス様に相談してもいいのでしょうか」
「ええ。ラナに頼ってもらえると、ルイス様は喜ぶに決まっているから」
「本当にご迷惑にならないでしょうか?」
上目遣いで聞いてくるラナの小さな背中を優しく撫でながら頷く。
「ならないわよ。それに絶対に力になってくださるわ。ルイス様は悪人以外には、優しい方だから」
「では、次からはそうさせていただくことにします」
ラナは表情を和らげて頷いてから、話を元に戻す。
「呼び出された時間に校舎裏に向かうと、エレスト様が一人で待っていたんです。私釜何か言う前に、口を開かれたと思うと私に自分と付き合うようにとおっしゃったのです」
「何ですって!?」
私の許可なしに、ラナに交際を申し込むだなんて許せないわ。どんな子かわからないけれど、決闘を申し込まなくちゃ。
……いや、ここまでするのは過保護すぎるわ。といっても、妹のピンチであることに変わりはない。姉として何かいい対策を考えなくちゃ。
心を落ち着かせてから、改めて聞いてみる。
「彼の姿を見てみても、面識があったかどうかは思い出せなかったの?」
「はい。やはり、その時に名乗っていただいて、初めて名前を知りました。違う学年の男性とは関わることはありませんし、どうやって私を知ったのかわかりません」
「向こうが一方的にあなたを知っていたということね」
「そのようなのです」
ラナは首を何度も頷いたあと、膝の上で両手を握って続ける。
「私にとっては初対面ですし、特にお付き合いしてみたいと思えるような男性には見えませんでしたので、お断りしたんです。すると、エレスト様は突然怒り始め、私の胸ぐらをつかんで叫んだんです」
ラナは、その時のことを思い出したのか。体を震わせながら言葉を止めた。
私の可愛い妹の胸ぐらをつかんだですって!? 許せないわ!
「何を言われたの? 口にできないようなことじゃないわよね?」
「あの……」
「言いたくないならいいの。もちろん、胸ぐらをつかんだことに関しては仕返しさせてもらうけど、それ以上に上手く復讐してみせるわ!」
「だ、駄目です、お姉様! 私はそれくらいは気になりません。ただ、エレスト様は私がエレスト様とお付き合いしないと、お姉様が困ったことになると仰ったんです」
予想もしていなかった話に、私は首を傾げる。
「私が困ったことになる? 具体的にはどうなるって言っていたの?」
「ごめんなさい。その時の私はお姉様に迷惑をかけたくない。それしか頭になくて、詳しいは聞いていないんです。本当に申し訳ございいません」
ラナは申し訳なさそうに眉尻を下げ、頭を下げた。
別にラナが悪いわけではない。脅すほうが悪い。
「ラナ、あなたが謝らなくてもいいのよ。私のせいでラナに迷惑をかけてしまったのならごめんなさいね」
「お姉様のほうこそ謝らないでください。しっかり確認しなかった私が悪いんです」
「とりあえず、今はその話はおいておくことにして、ラナは、その後はどうしたの?」
「一度、お姉様とお話をしたいと言ったのですが聞き入れてもらえなくて……。自分だけではどうしたらいいかわかやず、少しでも答えを先延ばしにしようと思いました。スポーツ大会で良い成績をおさめたら、お付き合いの件を真剣に考えると答えました」
「解決策にはならないかもしれないけれど、すぐに答えを出さないようにしたのは偉いわ」
ラナに微笑みかけると、彼女もにこりと笑う。
「相手は子供ですから」
「ラナ、あなたも子供だからね……」
周りの子供がしっかりしすぎているから、私が自分の年齢を忘れそうになってしまう。
ルイス様といい、ラナといい、しっかりしすぎでしょう。
「……で、どうしてルイス様が関わってきたの?」
「私たちがもめていることに気が付いた人が、ルイス様に知らせてくれたみたいです」
「そうだったのね」
「あ、あのっ、お姉様が関わることですから、すぐにではなくても、ちゃんとお話はするつもりでした」
ラナは怒られると思ったのか、ぷるぷる震えながら言った。
「気にしなくていいわよ、ラナ。それに、この件については何とかなるわ」
「でも……」
「学園内ではそう関係なくても、学園の外では身分の格差が出てくるのよ? こんな言い方をするのはなんだけど、下位貴族の子供がラナとデートをしようとしているわけでしょう?」
「あ、はい。そうなりますね」
「デートだなんて、学園の外でやるものだし、まだ7歳のラナを知らない男とデートさせるなんて、お父様たちだって許す訳がない」
ルイス様は動揺してしまっていたからか、それともわかってはいるが、口を出しづらかったのかはわからない。
ラナとエレスト弟の話は、子供同士の口約束みたいなもの。ここは大人が介入させてもらいましょう。
だって、貴族の子供が護衛もなしに、デートに行くなんてありえないんだもの。




