38 子供が言うセリフではないと思います
急いでルイス様のところに戻ると、思った以上に時間がかかっていたからか、ルイス様は私の顔を見て安堵の息を吐いた。
「戻ってきたか」
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
「かまわん。思ったよりも時間がかかったようだが、何か問題事でもあったのか?」
「実は……」
紅茶を淹れながら、匿名の人になると前置きして、先程のやり取りを話した。
ルイス様を狙っているのなら、彼にアピールをしていたかどうか。気になってルイス様にエレストさんの様子はどうだったか聞いてみた。
ルイス様はうーんと唸ってから首を傾ける。
「特に変わった様子はなかったが……、まあ、あるとしたら、さっきも言ったがフィリアに意地悪をされているという嘘をつかれたことくらいか」
「私のことを信じていただき、ありがとうございます」
「当たり前の話だろう? フィリアはそういうタイプの人物じゃないことくらいわかっている。よっぽと合わないタイプがいても、いじめるくらいなら、関わろうとしない考え方だろう? もちろん、誰かがその相手に意地悪をされていたら、黙っていないだろうがな」
「まあ、見て見ぬふりはできないタイプですので……」
「それにしても、どうして彼女はそんな嘘をついたんだろうか?」
ルイス様が胸の前で腕を組んで考え込む。
告げ口するみたいで嫌だけれど、ルイス様自身に関わることだし、報告は必要でしょう。バトラーから閣下にも報告してもらわなくちゃ。
「噂でしかないのですが、ルイス様を慕っているのかもしれません」
「そんな噂が? 理由はあるのか?」
「ルイス様の専属メイドになって、そこからお近付きになり、ゆくゆくは結婚したいと思っているのかもしれません。あ、これは勝手な想像で、本人に聞いたわけではございませんので!」
考えてみれば、最近のロマンス小説でメイドと主人の恋物語が流行っている。その関係もあるのかもしれない。
「俺と結婚? 公爵夫人の座を狙っているということか?」
「そうなのではないかと私も考えました。何度も言いますが、あくまで噂です。確認しなければならないと思います」
「まあ、自分が専属メイドになりたいから、フィリアのことを悪く言ったと言われれば、説明はつくかもしれないが納得はできんな」
ルイス様はお茶を一口飲んでから続ける。
「俺はそんな嘘に騙される人間に見えるのか?」
「見える見えないは別として、ルイス様はまだ7歳ですから、騙されると思っているのでは?さないでしょうか」
「なめられたもんだな! 俺はそう簡単に人を好きにはならないぞ!」
「ラナのことは一目惚れでしたよね?」
「そ、それはそれだ! 内面の良さが外面にも溢れ出ていたんだから仕方がないだろう!」
「それは仕方がないですね!」
ラナはいい子だものね。
納得すると、ルイス様は満足そうに頷いたが、すぐに表情を歪めた。
「さすがに俺も婚約者を決めなければいけない年齢になっているのかもしれないな」
「そうですね。早い人はもっと早くから決まっていますから」
「……フィリア! 俺は頑張るぞ!」
突然、宣言したルイス様に首を傾げて尋ねる。
「どうされました?」
「ラナ嬢に俺のことを好きになってもらい、両思いになったら、父上たちに許可を取り、ラナ嬢にプロポーズする! そして良い返事をもらえたら、ご両親に挨拶を」
「ふられたり、愛が重いと言われたらどうするんですか」
両拳を握りしめて力説していたルイス様の言葉を遮って尋ねると、ルイス様が情けない顔で叫ぶ。
「どうしてそんな冷たいことを言うんだ!?」
「7歳の子供が言うセリフではないかと思いまして」
「俺は次期公爵だぞ!? それくらい考えてもおかしくないだろう!?」
「ラナの気持ちを考えてくださいね」
「う……。き、きっと、ラナ嬢なら受け入れて……」
「まずは両思いになれるように頑張らないとですね!」
「うう。それはまあ、そうなんだが、おかしいな。こんな話をしていたわけではなかったような気がする」
自分から言い出したにもかかわらず、頭を抱えるルイス様を見て、こういうところは可愛らしいと思ってしまったのだった。




