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騎士志望の伯爵令嬢ですが、小さな紳士の公爵令息のもとで恋と仕事に邁進します!  作者: 風見ゆうみ


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37  報告はさせてもらうわ

 すっかりお茶が冷めきっていたようなので、ルイス様に尋ねる。


「新しく淹れましょうか?」

「ありがとう。本人には言えなかったが、少し口に合わなかったから一気に飲み干した」

「お茶の淹れ方は習っているはずですが、お手本通りに淹れなかったのかもしれません」


 色々と問題があるし、メイド長に相談してみないと。それにしても、いくら別邸とはいえ、あんなメイドを雇うなんてどうかしているわ。


「ちょっと俺には濃すぎたんだ。毒見役の代わりに毒見をしてくれた騎士もそう言ってくれたのだが、好みもあるだろうし、淹れ直してくれとは言えなくてな」

「ルイス様はこの家の主人のようなものですから、言ってもいいんですよ。それにしても

あの方、どうして面接に合格したんでしょうか」

「彼女がどうやってこの屋敷の面接に受かったのかはわからん。父上は公爵邸の執事に委任しているんだ。誰かからの推薦であることだけは確かだと思う」


 それはそうよね。選んだ人だって、ルイス様たちに何かあれば、自分の身が危ないもの。

 お茶を淹れ直そうとしたが、すっかりお湯が冷めている。


「ルイス様、お湯が冷めてしまったので温め直してもらってきます」

「悪いな。フィリアが戻ってきたら、先程の話の続きをしよう」

「承知いたしました」


 世の中には色々な子もいるが、エレストさんは酷すぎるのでは?

 と呆れ返りながら、サービングワゴンを押してキッチンに向かっていると、エレストさんがヒステリックに叫ぶ声が聞こえてきた。


「メイドのくせに裁縫も出来ないんですか? こんな状態じゃ人に渡せませんよ。もう一度やり直して下さい!」


 声は扉が開け放たれていたメイドの休憩室から聞こえてきていた。

 気になって足を止めると同時にエレストさんが中から出て来て、勢いよく扉を閉めた。

 そんな彼女を無言で見つめる。エレストさんは、私の視線に気がついて慌てて笑顔を作る。


「ちょっと気分が悪くなって休憩していました」


 そんな感じには思えなかったけど……。


「……そうなの? 大丈夫? 辛いなら今日は早退しても良いと思うわ」

「大丈夫です! ありがとうございます」

 

 エレストさんは、頭を下げてから逃げるように走り去っていった。

 走る元気があるなら、本当に大丈夫そうね。

 さて、どうするか。まずは、仕事を優先させてもらいましょう。


 厨房で調理場の担当のメイドにお湯を沸かしてほしいとお願いしてから、休憩室に戻る。


 ノックをすると、慌てた声で返事があったので扉を開ける。狭い部屋の隅で男性物の白いシャツと針を持ち、途方に暮れている眼鏡をかけた少女がいた。


 顔見知りのメイドで私に対して嫌な態度を取らない人だったこともあり、何があったのか尋ねてみる。


「何かあったんですか?」

「……あの、そのっ、私が悪いんです」

「とにかく話してみてください」


 気の弱そうな外見のメイドは、困り果てていたのか、事情を説明した。


 エレストさんから、シャツからとれたボタンを縫うようにお願いされた。ただ、彼女は裁縫が得意ではなく、綺麗にボタンが付けられず、何度もエレストさんから駄目出しを食らっていたらしい。


 自分が引き受けたなら、自分でやりなさいよ。しかも駄目出しするなんて意味がわからない。

 それはそれとして、メイドで裁縫ができないのは良くない。

 メイドの人選が微妙な気もするが、彼女のこな様子なら他の家で採用されるのは難しそうだ。優しそうな人柄が評価されたか、他の人よりも優れているところがあるのでしょう。


 そう思いつつ、仕上がったものを見てみると、パッと見た限り別に違和感もないし、駄目だと言われた理由がさっぱりわからなかった。

 彼女は謙遜して得意ではないだ言い、エレストさんの場合は、ちょっとした嫌がらせみたいなもんだったのかしら。


 また文句を言われた場合の時を考え、私がわざわざやり直し、文句があるなら私に言うように伝えてほしいとお願いした。

 

「あの、本当にありがとうございます!」

「ルイス様が聞いたら、絶対に助けてやれと言われていたと思うからやっただけだから、別に気にしなくていいわよ」

「いいえ! 本当に助かりました!」


 メイドはシャツを抱きしめて微笑む。 

 

「ところでそれは、誰のシャツなんです?」 

「護衛騎士の方のものらしいです」

「どうしてノッカス邸のメイドが騎士のシャツのボタンをつけてあげないといけないの?」

「それは……、私にもわかりません。エレストさんの命令です」


 なぜ、あとから入ってきたメイドに命令されているのか。気の弱そうな子だし、もしかしたら昔から面倒な事は押し付けられているのかもしれない。


「別に彼女が偉いわけじゃないでしょう? 断ったらいいんじゃないんですか?」

「エレストさんがここに来れたのは、北の辺境伯夫人の紹介です。それにエレストさんは玉の輿狙いで有名みたいです。もし、玉の輿にのってしまったら……」


 メイドはぶるりと体を震わせる。


「玉の輿狙い? 誰か狙っているという噂なの?」

「ええ。ここだけの話にしてほしいのですが、ルイス様を狙っているのではないかと噂になっています」

「え? そうなの?」

「はい。他のメイドたちが話しているのを聞きました」


 ルイス様を狙っているなんて……。まあ、玉の輿狙いならそうなるか。

 今までなら、年齢の問題かどうかはわからないが、アットンを狙う人が多かった。

 だけど、アットンは伯爵、ルイス様は次期公爵だ。玉の輿の野望がある人間なら、ルイス様に目をつけてもおかしくない。

 ルイス様なら成長したら美青年になりそうだし、今のうちに手を付けておきたいといったところ?


「教えてくれてありがとう。悪いけど、何かあってからでは遅いので、報告はさせてもらうわ。もちろん、あなたから聞いたとは言いません」

「……わかりました」


 メイドは不安そうにしつつも、納得して頷いた。


 話をしていたたせいで思ったよりも時間がかかってしまい、慌てて厨房に戻る。すると、どこへ行っていたのかと料理長から怒られ、ひたすら謝ることになったのだった。



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