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騎士志望の伯爵令嬢ですが、小さな紳士の公爵令息のもとで恋と仕事に邁進します!  作者: 風見ゆうみ


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35   それはどういう意味ですか?

 ある日の朝のこと。

 私はルイス様の専属メイドという、屋敷の中では特殊な位置にあるが、使用人の朝礼には出席するようにしていた。

 以前、それに出なかったことにより、伝達事項を教えてもらえず、ルイス様に助けてもらうはめになってしまったからだ。

 二度と同じことを繰り返さないよう、ルイス様が学園に通っている日でも、朝から出勤することにしていた。

 

 朝礼で、新しく入ったというメイドが紹介された。


 私よりも一つ年下。小柄で目はぱっちりしていて、ナチュラルメイクの可愛らしい女性たった。

 メイド服のサイズを間違えているのじゃないかと思うくらいに、胸は張り裂けそうに見えるが、ウエストは細いのだから羨ましい。

 金色の髪をシニヨンにして、瞳と同じ、ブルーのリボンを付けている。


「ルールー・エレストと申します。至らない点が多々あるかとは思いますが、一日でも早く皆様のように屋敷でお役に立てるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします!」


 彼女の微笑みに、その場にいたほとんどの男性がノックアウトされてしまった。その日から、男性使用人の間では彼女の株は日に日に上がっていったが、メイドたちからの評判は下がっていった。


 それは、彼女が男性にモテるからという嫉妬心ではなく、別の理由があった。


 私が身をもって感じたのは、ルイス様に淹れるためのお茶のセットをサービングワゴンに乗せて、部屋に向かっている時のことだった。

 今まで一度も話したことがなかったエレストさんに、突然、話しかけられたのだ。


「ノイズさん。お願いしたいことがあるんですが……」

「何でしょう」

「騎士の方から、今度、ノッカス邸の別邸で開かれるパーティーの招待客の名簿を持ってきてほしいと言われているんですが、どこに置いてあるのかわからなくて……。探していただいてもいいですか?」


 どういうことだろうか。自分で探せばいいだけのような気がするんだけど。誰に聞けばいいのかわからないってとこ?


「バトラーに聞けば、どこにあるかすぐにわかるはずですけど」


 エレストさんは苦笑しながら首を横に振る。

 

「私、あのバトラーさん、苦手なんです。なんていうか、いつもエッチな目で見られている気がして……」


 私の知っているバトラーは、そんな人ではない。納得しづらくて尋ねる。


「そんな人ではないと思うんですけど、例えばどんな感じなんです?」

「そんな人ではないとおっしゃいますけど、それって、ノイズさんが相手だからだと思います」

「……それはどういう意味ですか?」


 尋ねてみたが、彼女は私の質問を無視し、サービングワゴンを勝手に押し始める。


「こちら、ルイス様の部屋にお運びすればいいんですよね? 私がやっておきますので、名簿のほう、よろしくお願いしますね」

「ちょっと!」


 制止する声を無視し、ワゴンを押して去っていくエレストさんに呆れてしまう。

 こんな態度ではこの邸で長く勤められるとは思えない。彼女がここにやって来たのは誰かの紹介だと思うが、きっと男性なのだろうなと思ってしまった。


 廊下で立ち尽くしていても仕方がない。確かめたいこともあったので、バトラーの元へ向かう。バトラーには専用の執務室があり、そこで仕事をしていることが多い。書類仕事をしていた彼に時間をもらい、単刀直入に質問をぶつけてみた。


「エレストさんがエッチな目で見てくるって言っていましたけど、どういうことです?」

「そんなわけがないでしょう。私には妻も子供もいますし、大切にしているんです」


 年配のバトラーは苦々しげな顔をして続ける。


「仕事ができるのも残り少ない時間になっていますので、そんな馬鹿げたことで人生を棒に振るような真似はしませんよ。大体、既婚者が部下に対して、そのような感情を抱くこともおかしいでしょう」

「ですよねぇ」


 納得してから、エレストさんに頼まれていた、招待客のリストの話をしてみた。控えを渡すと言ってくれたので待っていたところ、アットンがやって来た。


 アットンは招待客のリストがほしいと言うので、今、用意してもらっていると私が答えた。


「リストを頼んだんだけど、中々持ってきてもらえないから僕が取りに行くように言われたんだけど、頼まれたのは君だったの?」

「違うわよ! 頼まれたのはエレストさん!」 


 ムキになって言い返すと、アットンは苦笑する。


「悪かったよ。本当に君だと最初から思ってない。君がルイス様の専属メイドだってことは、皆知っているんだから、君にそんなことを頼むわけがないからね」

「じゃあ、何でわざわざそんな意地悪みたいなことを言うのよ」

「意地悪じゃなくて、挨拶?」

「普通に挨拶しなさいよ!」

「仲がよろしくていいですなぁ」


 バトラーは微笑みながら、私にリストの控えを渡してくれた。


「エレストさんに渡さずに、あなたに渡しておいたらいいのかしら」

「そうだね。もらっておこうかな」


 バトラーにお礼を言ったあと、アットンと話しながら、部屋を出た時だった。


「ノイズさん! 早くそれを渡して下さい!」


 エレストさんが駆け寄ってきて、私からリストを奪い取る。そして、目を潤ませてアットンを見上げる。


「ご用意出来たので、ノイズさんに持って行ってもらうようにお願いしてたんです。それなのに、忘れてしまっていたみたいで、遅くなって申し訳ございません!」


 エレストさんは両手で持ったリストをアットンに差し出し、深々と頭を下げた。


 

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