34 清々しい程のクズでしたね
「なんなんだあいつは!」
足を引きずりながら去っていくメイディ睨みがら、ルイス様は怒りの声を上げる。
「清々しい程のクズでしたね。覚えてろと言っていましたが、次もあるのかしら」
ルイス様が持ってきてくれたケーキを口に入れて、咀嚼してから呟く。すると、ルイス様は眉根を寄せた。
「次にあんな無礼な態度を取るようなら、こっちも黙っていない! それに、あんなことを言われて、フィリアは許せるのか? 俺は許せん!」
私よりも怒ってくれているルイス様に微笑む。
「ルイス様が怒ってくれたので、スッキリしました。ありがとうございます」
「礼を言われることではない。思うのは勝手だが、口に出さなくていいことを言っているのは向こうだからな」
「自分のことでもないのに、怒ってくださったじゃないですか。だから、お礼を言ったんです」
「それは当たり前のことだろう。俺はまだ幼いから、こんな不愉快なことがあっても、父上に報告して何かしてもらうことしか出来ないのが申し訳ない」
目を伏せるルイス様を見て、私とアットンは顔を見合わせた。
こんなことを考える7歳児がいるとは……。私の幼い頃なんて何も考えていなかったわ。
アットンが苦笑して話しかける。
「ノイズ嬢は、先程のルイス様の発言だけで十分、救われていると思いますよ」
「そ、そうか?」
ルイス様が小首を傾げて尋ねてくるので、大きく首を縦に振る。
「もちろんです! ルイス様のように私のことを庇ってくれる人なんて、家族以外にいませんから!」
両拳を握りしめて言うと、ルイス様の表情が明るくなった。。
「フィリアがそう言ってくれるなら良かった」
「助けていただき、ありがとうございました。さっきの話は家に帰ってラナに報告しますね」
「て、天使に!? 出しゃばった真似をしたとか思われないだろうか!?」
「ラナは私に懐いてくれていますから、私を庇ってくれたことを知ったら、ルイス様への好感度がかなり上がると思いますよ?」
「それは嬉しいが、好感度アップを狙ったみたいに思われるのは嫌だな」
「そんなことを思うような子じゃないですよ。それにそんな気持ちはルイス様には一切なかったのでしょう?」
しゅんとしたルイス様に、微笑して尋ねると、彼は顔を上げて頷く。
「もちろんだ。……そうだな。ラナ嬢はそんなことを思うような女性ではないよな!」
「そうですよ! 私の妹なんですから!」
「何度も言うが、二人が姉妹だと未だに信じがたいものがある」
「ルイス様! それ酷くないですか!?」
「別に悪い意味で言っているわけではない」
「じゃあ、何なんですか!」
「姉妹だからとはいえ、性格は必ずしも似るわけではないのだな、と」
ルイス様はなぜか一人で納得している。
気になる言い方ではあるが、ここは誕生日パーティーの会場という、おめでたい場所だ。不機嫌な顔をしているのは失礼に当たる。
とりあえず忘れることにした。
「ルイス! せっかく来てくれたのにあまり話せなくてごめん! こっち来てくれよ。両親を紹介するから!」
ルイス様のご友人がやって来て、私とアットンに頭を下げたあと、ルイス様の手を引く。
「そうか。それはご挨拶せねば」
ルイス様は私とアットンに目配せして歩き出した。ルイス様の後について歩きながら、アットンが眉根を寄せて囁く。
「ああいう奴はしつこい。気をつけたほうがいいよ」
「ありがとう。お父様にも相談してみるわ」
心配をさせるのは嫌だが、会場を騒がしくしたことだし、お詫びの連絡をしてもらったほうがいいでしょう。
そう考えつつも、今はルイス様の護衛に集中することにした。
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お父様のほうからメイディ家に連絡を入れたところ、謝罪の言葉と贈り物が届けられた。
ノッカス公爵家からだけでなく、ご友人の家からも連絡が苦情が入れられ、メイディ家は社交界から爪弾きにされた。これ以上、揉め事を起こすなと両親から叱られた彼は、今のところ、大人しくすると決めたようだった。
最近の私は、ルイス様に可愛がられていること。私に嫌がらせをしたメイドがクビになり、どこの家でも勤められなくなったこと。アットンともわりとよく話すようになったことなどで、ノッカス邸に勤めているメイドたちの半数程から嫌われてしまった。
それを気にするような性格でもないので、自分の好きなようにしていると、余計に反感を買ってしまう。
だけど、私以上に不快になる人間が現れると、人間の態度は豹変するのだと知ることになるのだった。




