33 小物感がすごいわね
いくら賭け事が好きな人だからって言、決めつけるのもどうかと思った。
「どうして、そう思うの?」
「君とメイディ卿を遠巻きに見ていた男たちがいたんだ」
「……もしかして、その人たちも賭け事が好きな人たち?」
「年齢はバラバラだけど、賭け事が趣味というのは共通している」
賭け事を趣味にすることは悪くない。でも、のめり込みすぎるのは良くない。何でも賭けの対象にしようとする可能性があるからだ。
メイディに気を取られて、周囲の確認を怠っていた。騎士として失格だわ。
反省していると、メイディがアットンに話しかける。
「キーファ様、人の恋路を邪魔しないでくださいよ。まさか、あなたとフィリアは特別な関係なんですか? だから、邪魔してくるとか?」
そんなことはありえないとでも思っているのか、メイディはニヤニヤと笑っている。
「そうだと言えば、君は諦めてくれるのかな?」
アットンは否定することなく、爽やかな笑顔でメイディに聞き返した。
また鼓動が速くなる。深い意味はないにしても、アットンの言葉にいちいち反応してしまう自分に腹が立つ。
ふと、ルイス様のほうを見ると、アットンを見つめ満足そうな笑みを浮かべていた。
ルイス様の中では、アットンは合格点なのかもしれない。ただ、彼が私のことを好きになるとは思えない。
……こんなことを思うのって私がアットンを好きだと認めているみたいじゃない!?
違う。認めたら負けよ。これ以上、間違えるわけにはいかないって、何度思ったらわかるのよ、私は!?
「どうなんだよ、フィリア。付き合ってなんていないんだろ?」
私に尋ねるメイディの口調が先程までの優しげなものとは違い、冷たいものに変わった。それがわかったと同時に、私も冷静に戻る。
メイディは明らかに思い通りにならなくてイライラしている。本性が見えてきたというところかしら?
「あなたにどうこう言われたくないわね。特別な関係だと答えて、あなたが諦めてくれるんなら、そういう関係だって答えるわ」
「何だよ、偉そうに。大して可愛くもないくせに、お情けで声をかけてやった、俺の優しさがわからないのかよ」
思い通りにならないと確信したのか、メイディの態度が豹変した。
「そんな優しさはお断りよ。相手にされなかったからって、私を責めるのはおかしいでしょう」
「お前のせいで、賭けに負けちまったじゃないか。その分の金額を払ってくれよ。俺に声をかけられたんだ。普通は落ちるだろ。空気読め」
いや、あんた、お情けで声をかけたって言わなかった? 数十秒前の記憶も忘れるくらい馬鹿なの?
……というか、この男、何言ってるの?
メイディの話の途中だったが、よろけたふりをしてヒールで思い切り、彼の左足を思い切り踏みつけてやった。
「いってえぇぇ! 何すんだ!」
「あ、ごめんなさい。ショックで立ちくらみが」
メイディはその馬にしゃがみ、踏まれた足を押さえながら叫んだ。
「痛いのはわかるけれど、子供じゃないんだから大声を出すのはやめなさいよ。というか、何すんだ、とか言っていたけど、それはこっちのセリフよ。私を勝手に賭けの対象にしないで。大体、私は良い男なんて見慣れてるんだから、あなたなんて相手にするわけないでしょう!?」
「良い男って、ルイス様のことか? 見た目は綺麗だけどガキじゃないか!」
「……ルイス様で駄目なら、こっちは?」
アットンを手で示すと、メイディも言い返すことができなかった。悔しそうに唇を噛み、私を睨みつけている。
「というか、公爵令息に向かって、よくもそんなに偉そうな態度を取れるわね。これが閣下にバレたらどうなるかもわからないの? それに私だって伯爵令嬢なんだから、あなたの家より爵位は上なのよ?」
メイディはさすがにまずいと思ったのか、へらへらと笑う。
「……それはすいませんでした。でも、爵位が上で偉いというんなら、温かい目で下々の者にも優しくしてくださいよ」
「……あなた、思った以上に最低な男ね」
「伯爵令嬢のくせに騎士になるような、女を捨ているような人に言われたくないですね」
女を捨ててる!? 騎士になることが!?
「おい。今の発言を取り消せ」
私が言い返すよりも先に、ルイス様が口を開いた。ルイス様は眉根を寄せて続ける。
「騎士になったから女を捨てているなんて、そんな失礼な発言はないだろう! 騎士に性別は関係ない! だからこそ、男性のみという制約がないんだろう」
「どうして、騎士になることで、女を捨てているなんて発言になるのか、僕も理解できないんだけど?」
ルイス様の言葉にアットンも冷めた目でメイディを見ながら同意した。メイディは眉尻を下げて答える。
「騎士の比率は圧倒的に男性が多いじゃないですか!」
「じゃあ、女性が圧倒的に多く就いている職業に就いた男性は、男を捨てていることになるのか?」
「そ、それは……」
ルイス様に尋ねられ、メイディは返答に困り、言葉を詰まらせた。
「伯爵令嬢だろうがなんだろうが、何を志したって別にいいだろう? お前のような性根の腐った人間にならなければそれでいい」
「なっ!」
メイディは何か言い返そうとしたようだったが、ルイス様が公爵令息だということを思い出したのか、口を閉ざした。
「とっとと消えて」
「……わかったよ」
メイディは頷き私に近付くと、小声で話しかけてきた。
「僕に恥をかかせたことを絶対に後悔させてやるからな」
「そんなことを言う時点で小物感がすごいわね」
言い返すと、メイディは舌打ちをしてから去っていった。




