31 あなたとは付き合えない!
三人共私より少し年下くらいだろうか。とても若く見えて、子供がいる年齢には見えないから、招待された子供たちの姉だろうか。
そういえば、メイディはモテていたし、確か婚約者もいなかった。どこぞのご令嬢にしてみれば、話しかけるいい機会だったのかもしれない。
申し訳ないことをしてしまった。まあ、私と話し終えたあとに頑張ってもらいましょう。
ルイス様に指定された場所に移動すると、メイディが口を開く。
「時間をとってくれてありがとう」
「かまわないけど、ゆっくりは話せないわ」
「大丈夫だよ」
「……で、話って何なの?」
彼とは特に仲が良かったわけではない。だから、彼の話したいことというのが、見当もつかない。
メイディは憐れむような目を私に向ける。
「婚約者と破談になったって話を聞いたよ」
「あ、ああ、まあね。それが何か?」
「ショックを受けてるんじゃないか?」
「最初はショックだったけど、一日も経たない内に復活したから大丈夫よ。お気遣いありがとう」
野次馬根性で話しかけてきたのかと思うとイラッとしてしまった。
「話はそれで終わり?」
「いや、その、そんなことが言いたいんじゃなくて……」
「何なの?」
眉根を寄せて尋ねると、メイディは真剣な表情で私を見つめて口を開いた。
「学生時代、フィリアのことがずっと気になってたんだ。でも、君には婚約者がいるから、声を掛けれなかった」
「え?」
「もし、特定の相手がいないなら、俺と付き合ってくれないかな」
「えっ!?」
突然の申し出に、私は近くにいた人が驚いて振り返るくらいの大きな声を出してしまった。
「付き合ってくれ? どこに?」
気になっていたと言われたあとに、付き合ってくれと言われたのだから、どこかへ付き合ってくれというわけではないだろう。そうわかっているのだが、信じられなくて聞いてみた。
すると、メイディは苦笑する。
「どこかへ付き合ってくれ、とかじゃなくてさ。恋人同士になりたいってやつ。フィリアには今、好きな人がいたりするのかな?」
「えー、あー、うん、どうかしら」
好きな人がいるのかと聞かれると、友達として好きだとか、そういう類ならいる。
家族のことも大好きだし、ルイス様や公爵夫妻のことだって大好きだ。
かといって、それは恋愛の好きな人とは違う。
ちらりと、ルイス様たちのほうに視線を向けると、アットンと目が合ってしまった。腹が立つことに自分の胸の鼓動が早くなったのがわかる。
どうして、あいつなのよ?
そりゃ、溺れた時に助けてくれたけれども! 吊り橋効果にしたって、私ってば、ちょろすぎるでしょう!!
「フィリア?」
無意識のうちに頭を抱えていたため、ゆっくりと顔を上げる。すると、心配そうに私を見つめているメイディの顔が、すぐ近くにあった。
この人、距離感が近い気がする。
そういえば、この人、学生時代に誰かと付き合っていたわよね? その人とは別れたのかしら。
「ちょっと失礼なことを聞いてもいい?」
「え? 何?」
「あなた、学生時代、誰かと付き合っていたわよね? その彼女とは別れたの?」
「卒業してすぐに別れたんだ。そうじゃないと、君に付き合ってくれなんて言わないよ」
「あなた、さっき私のこと、学生時代から気になっていたって言ったわよね?」
「え? あ、うん、そうだけど」
「彼女がいたのに、私のこと気になってたの?」
冷たい口調で尋ねると、一瞬だけ眉根を寄せたことに気が付いた。だけど、彼は何事もなかったように笑みを浮かべて、私の質問に答える。
「いや、一時期、彼女がいなかった時期があってさ、その時だよ」
「その一時期だけ、私のことが気になっていたってこと?」
「そう、そうだよ」
メイディはへらへら笑いながら何度も頷いた。
怪しすぎるでしょ。
そう言ってやりたいが、彼が嘘を言っているという証拠はない。
記憶を探れば、メイディは女性関係で良い噂を聞いた覚えがない。しかし、噂だけで判断するわけにもいかない。
だって、基本、噂なんて悪意のあるものが多いんだもの。面白おかしく脚色されている可能性もある。
忠告してくれていたアットンの判断を仰ごうかと彼に目を向ける。残念ながら今回は目が合わず、彼はルイス様と話をしていた。
けれど、すぐに私の視線に気が付いて、なぜか眉根を寄せた。それと同時に背後に気配を感じて、思わず身体が動いた。
メイディは私は肩に手を置こうとしていたのか、慌てて上げていた手を戻す。
「メイディ、あなた」
「フィリア。もう話は終わったか?」
メイディの真意を確かめようと思った時、ルイス様に話しかけられたたので振り返る。
「ルイス様、申し訳ございません。まだ話の途中でして……」
ペコペコと頭を下げるメイディを見上げ、ルイス様は彼に話しかける。
「キーファから聞いたが、君には良くない噂があるようだな。キーファは友人の嫌な噂などフィリアは聞きたくないだろうと遠慮したようだが、ちょうど詳しい事情を知っている令嬢がいてな。その令嬢の証言を得たので、割って入らせてもらう。フィリア、帰ろう」
「え? あ、はい!」
歩き出したルイス様の後を追おうと慌てて踵を返す。すると、メイディが追いかけてきた。
「フィリア、さっきの件、考えておいてくれないか。僕は本気なんだ」
「ごめんなさい。あなたにはそういう気持ちにはなれそうにないの」
「どうして? 付き合ってみないとわからないだろ? お試しで付き合ってくれたらいいじゃないか」
「嫌よ。もう、付いてこないで」
「待ってくれよ」
一発殴ってもいいだろうか。拳を握りしめた時、ルイス様が立ち止まったかと思うと、私とメイディの間に割って入った。
「おい。しつこい男は嫌われるぞ」
「はあ?」
カッとなったメイディが、ルイス様との距離を詰めようとしたが、アットンが素早く間に入った。
「女性だけじゃなく、子供にまで手を出すつもり? 君だって、この方が誰かくらい知っているだろう? 死にたいの?」
「そ、そういうわけでは……」
冷静になったメイディは慌てて、ルイス様に頭を下げる。
「無礼を働こうとしてしまい、申し訳ございませんでした」
「未遂だったから良かったな。キーファに感謝しろ。いや、俺に無礼を働いて、一度痛い目を見たほうが良いかもしれん」
「ルイス様、そんなことになりましたら、護衛の任務が果たせていないということで、僕の命が危ういです」
「そうか、それは困るな」
ルイス様は子供だというのに、眉間の皺を深くして言った。
アットンも私も護衛で来ているのだから、ルイス様に何かあったら、任務が達成できなかったことになってしまう。
そんなことになったら、私たちが付いてきた意味がない。そうなった場合は、絶対に何らかの処罰があるはず。
ルイス様に何かあることも嫌だけど、その後のことも怖いわ。
「フィリア、周りがなんと言おうと、本当の俺を見てほしいんだ。良い返事を待ってる」
言いたいことだけ言って、メイディは立ち去ろうとする。
「無理! あなたとは付き合えない!」
わざわざ連絡するのが面倒なので、私は大勢の人の前だというにもかかわらず、メイディの背中に向かって叫んだ。




