30 ちゃんと加減します
一体、彼は私に何の用事なんだろうか。
「彼とは仲がいいの?」
メイディの背中を見つめていると、アットンに話しかけられた。
「仲が良かった、というのが正しいかしら。学園時代のクラスメイトなの」
「そうだっけ」
「そうよ。話があるって言われたから、その間だけルイス様をお任せしてもいい?」
「それはかまわないけど。彼って、確か、メイディ家の次男だったよね」
「そうだけど、何か気になることでもあるの?」
「君は彼を信用してるんだよね?」
「信用しているかと聞かれたら微妙だけど、何が言いたいの?」
意味深なことを言われたので、気になって尋ねたけれど、アットンは首を横に振る。
「何でもない。ただの噂だから気にしないで。とにかく、ルイス様の言う通り、二人きりにはならないようにしたほうがいい」
アットンはどこか悲しげな顔をして言ったあと、ルイス様を促す。
「行きましょうか。プレゼントは先にお渡ししています」
「そうか。ありがとう。行こう、フィリア。お前の好きなスイーツがたくさんあると聞いている。たくさん食べてもいいが、食べ過ぎてお腹を壊さないようにな」
「ちゃんと加減します!」
相変わらず、どちらが年上かわからなくなる。
「すまない。でも心配しているんだ」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしないようにいたします」
美味しそうなスイーツを見ても、自制心を働かせる! そう決意しながら、ルイス様たちと一緒に受付を済ませ、会場内に入った。
ルイス様のお友達の誕生日を祝うパーティーは、お子様が多く招待されているからか、会場内にいる大人も若い人が多い。
普段の夜会なら、中年や年配の方が多いが、今日は数えるほどしかいない。
お友達は主役ということもあり、あちらこちらに引っ張りだこだった。
ルイス様はそんなお友達を見て、気を遣ったのか、おめでとうとお祝いしただけで、ほとんど会話をすることなく別れてしまった。
もっと話さなくて良いのかと尋ねた。すると、話したいことがあれば、学園で話すから大丈夫だとのことだった。
「フィリア、あっちにスイーツがあるぞ! 美味しそうだ! キーファも一緒に食べよう」
「僕は勤務中ですので遠慮しておきます」
「そんなことを言うなよ。お前が食べないなら、フィリアだって食べられなくなるだろ」
ええ。それは困るわ!
ルイス様から指摘されたアットンは私を見て苦笑した。
「ルイス様のお望みだとおっしゃるのでしたら食べましょう」
「ああ。そうだ。食べることを望む。別にスイーツでなくても良い。自分が食べたいと思うものを食べてくれ」
「承知いたしました」
小さく頭を下げたアットンに話しかける。
「別に無理して食べなくていいからね」
「無理はしないよ。ただ、僕が食べないと君が食べにくいというのなら別だけど」
「私だって、あなたに無理をして食べてもらわないといけないほど、食べたいわけじゃないわよ」
「そうなの? そんな風には見えなかったけど」
アットンは微笑して言った。
馬鹿にされているのかしら?
そうだとしたら、腹が立つし食べてやるもんか。なんて意地を張りそうになる。
さっきまでアットンに、ドキドキしていたのは、きっと何かの間違いだと思う。
そんな風に可愛くないことを考えていると、ルイス様がスイーツがたくさん置かれているテーブルを指差す。
「フィリア、どうせ仕事をするなら、楽しい仕事のほうが良いだろう?」
「ありがとうございます!」
「キーファ、お前もあまり、フィリアをからかうなよ。彼女は子供だから、すぐに意地を張るからな」
「気を付けます」
「ちょっと! 真面目に答えないでよ! それに、ルイス様、私が子供だからってどういう意味ですか!」
「そうやってムキになるところをルイス様は子供だって言っているんだろう。ルイス様が許可されているんだから、好きなように食べたらいいんだよ」
「さっきの話を聞いたら食べにくくなるわよ!」
私だって、今日は遊びに来たんじゃないんだから、美味しそうな食べ物に浮かれている場合ではないことくらいわかっている。
すると、アットンは少し考えてから、私に話しかけてきた。
「君はどれがオススメだと思う?」
「はい?」
「テーブルに並べられているスイーツで、君のオススメを取ってきてくれない?」
「それは、食べてみないとわからないけど……。見た目だけで判断でもいいの?」
「うん」
どうしてそんなことを聞いてくるのかわからない。しかし、答えないのも変だ。テーブルに近付き、取り皿を手に取る。
トングを使って、個人的に特に美味しそうに見えるものを皿にのせていく。
皿の半分以上をミニケーキなどで埋めたところで、アットンに向かって皿を差し出した。
「選んでみたけどどうかしら?」
「美味しいかどうかはわからないから、先に君が食べてみてよ」
笑顔のアットンを無言で軽く睨む。
私に食べさせようとして、わざとそんなことを言ったのね。睨んでしまったが、ここは礼を言うべきか。
「フィリア、味はお前が食べて教えてあげればいい。それから、俺はちょっと用事を思い出した」
「勝手に動いては駄目ですよ、ルイス様」
私とアットンを二人にさせようとしたのか、ルイス様がどこかへ行こうとしたが、アットンが引き止める。
「僕たちがここへ来たのは、あなたの護衛です。パーティーを楽しみに来たのではありません」
「そんなにかたいことを言わなくてもいいだろう」
ルイス様は不服そうにしたが、諦めて、私とアットンの間に立った。
「二人に見られながらは、食べにくいんですが……」
「なら、食べながら、さっきの男と話をしたらどうだ? あの辺なら人も少ないし、話ができるだろう。俺たちはここでお前を待っている」
パーティー会場の隅を指差して、ルイス様は言った。
「そうですね。話をすることを忘れて帰ってしまわないうちに、話をしてきます」
辺りを見回すと、人は多いものの、頭一つ分出ているメイディの姿はすぐに見つかった。ケーキをのせた皿とフォークを持って、彼に近付いていく。
「メイディ」
「やあ、フィリア」
「今なら話せるんだけど、あなたは大丈夫?」
彼の周りには女性が三人いて、私が話しかけると、女性たちは全員、ムッとした表情になった。




