29 どうして私がふられたみたいになってるんですか!
まずは私が中に入り、誰もいないのを確認してから、ルイス様に入ってきてもらうことにした。
何やら声が聞こえてくるので、そっと覗いてみると、先程のメイドたちが私のロッカーを掃除しているところだった。
証拠隠滅をされては困る。慌てて、ルイス様を呼ぶと、惨状を見たルイス様はすぐにメイド長を呼びつけ、彼女たちはメイド長に連行されていった。
ルイス様から話を聞いたアットンは「僕のせいで本当にごめん」と謝ってくれたけど、こうなったのは彼のせいじゃない。
「悪いのはこんなことをした彼女たちよ。あなたのせいじゃない」
そう言ったけど、アットンの表情は重いままだった。
******
それから数日後、ルイス様のお友達の誕生日パーティーの日がやってきた。
子供が主役のパーティーなので、夜会ではなく昼に行われる。開催される時間も短いので、コルセットに悩まされる時間も短縮されるのはありがたい。
「おお、フィリア、よく似合っているな!」
「ありがとうございます」
薄い紫色のドレスに身を包んだ私を見て、ルイス様が拍手してくれた。
今日は化粧もバッチリしているし、普段つけないイヤリングやネックレスもしているから、いつもよりは女性らしく見えるはずだ。
私とルイス様はノッカス家の別邸で集合して一緒に目的地に向かっている。アットンは現地集合だ。
「あの、ルイス様、私のドレス姿、おかしくないですか?」
「さっき、似合うと言っただろう?」
「ありがとうございます。それなら、良いのですけど……」
私の様子がいつもと違うからか、ルイス様は眉尻を下げる。
「そんなに嫌だったのか?」
「何がですか?」
「キーファとパーティーに出席することだ」
「え!? いえ、そういうわけではないんです!」
私が気にしていたのは、アットンが私の姿を見たら、何と言うだろうかと気になっていたあらだ。だけど、こんなことを口に出したりしたら、ルイス様が勘違いするに決まっている。
ここ最近、アットンを見ると妙な気持ちになる。
昔の夢を何度も見るようになったし、アットンを見ると、なぜか、あの男の子のことを思い出してしまう。
アットンへの気持ちは恋なんかじゃない。
吊り橋効果なだけよ。しっかりしなくっちゃ。
「体調が悪そうだな」
「違います! 大丈夫ですから、気にしないでください!」
「そんな風には見えないが……」
「もし気になるようでしたら、ルイス様はパーティーを楽しんでください。ルイス様の楽しそうな姿を見たら、元気になりますから!」
「……あまり無理はするなよ?」
「はい。ありがとうございます!」
心配そうにしているルイス様に笑顔で頷いた。
問題を起こしたメイドたちの処分について話を聞いているうちに、馬車は目的地にたどり着いた。
普通なら男性が、女性をエスコートするのだが、ルイス様の場合は私が先に降りて、彼の手を取ろうとした。予想はしていたが不満げな顔をした。でも、手を取らないことも失礼だと思ってくれたのか、私の手に自分の手を重ねてくれた。
「すまぬ。くそ、もっと体が大きければ、女性に手を取ってもらうことなどせぬとも良いのに」
「いつかは、必ずそうなりますからご安心を。そういえば、ラナがルイス様のことを気にしてましたよ」
「ほ、本当か!? 両思いなのか!?」
「なんでそうなるんですか。恋愛感情かどうかはラナに聞いてみないとわかりません」
「くっ。ラナ嬢の俺への気持ちをフィリアに聞いてほしいような、聞いてほしくないような複雑な気持ちだ」
紺色のスーツに白のシャツ、紺色の蝶ネクタイのルイス様は、服に着られている感じもするけれど、とても可愛らしい。
……可愛いって言ったら怒られそうね。
「あれ、フィリアじゃないか!」
ルイス様と一緒にアットンとの待ち合わせ場所に行こうとしていた時、背後から声を掛けられた。
振り返ると、最終学年の時に同じクラスだった、ネイディス・メイディが手を振っていた。
メイディは子爵家の令息で、大きな青い瞳に金色のクリクリの髪の毛が可愛いと、一部の女子に人気があった。
彼は爽やかな笑みを浮かべて、こちらに近付いてくる。
「今日はどうしたんだ?」
「私は付き添いよ。ルイス様、申し訳ございません。彼は元クラスメイトでして」
「かまわん。話を続けていいぞ。俺はキーファの所へ行ってくる」
「駄目です。一緒に行きます」
「……しょうがないな。なら、待っているから、早く話をしろ」
「ありがとうございます。メイディ、悪いけど、今は仕事中なのよ」
ルイス様の許可が下りたので、メイディに向き直って言うと、彼は申し訳無さそうな顔になった。
「そうだったのか。ごめん。久しぶりに会えたのが嬉しくて。あの、あとで時間あるかな? 久しぶりに二人で話をしたいんだ」
「駄目だ」
私が答える前に、なぜか、ルイス様が返事をした。
「ルイス様?」
「フィリアは未婚の女性だ。男性と二人きりで話すなんて、俺の目の黒いうちは許さん。キーファは除くがな」
「ルイス様!?」
私が困惑の声を上げた時だった。
「こちらにいらっしゃいましたか」
アットンの声が聞こえて振り返る。ルイス様と色合いを合わせたのか、紺色のタキシード姿のアットンが、いつの間にか背後に立っていた。
なぜか、動悸がしてしまい思わず胸を押さえる。
違う。そんなわけがない。
「ノイズ嬢、顔が赤いけど大丈夫?」
アットンが私の顔を覗き込んできたので、顔を背けて答える。
「チークを塗りすぎたんだと思う」
「ならいいけど。あと、そのドレス、似合ってるね」
「え」
動揺して、お礼さえも言えなくなっている私を見て、ルイス様が首を傾げる。
「……今日のフィリアはやっぱり何か変だな。キーファ、悪いが今日はフィリアの様子もしっかり見ておいてやってくれ」
「今日はルイス様の護衛で来ているんですが……
」
「父上と母上から騎士であろうが何であろうが、自分の身の回りの世話をしてくれたり、自分のこと考えてくれる人は大事にするように言われているんだ。だから頼む」
ルイス様の真剣な表情を見て、アットンは困った顔をしつつも頭を下げる。
「承知いたしました」
「ルイス様、ありがとうございます。本当に素敵ですよねぇ」
心から感謝している私に、ルイス様は首を横に振る。
「悪いがフィリア。俺には心に決めた人がいる」
「どうして私がふられたみたいになってるんですか!」
私とルイス様のやり取りを見て、アットンが微笑む。そんな中、話に入れずにいたメイディが声を上げる。
「あの、じゃあ、二人きりじゃなくてもいい。みんながいるところでいいから、君と話をしたい」
「え? あ、ルイス様がいいなら」
「二人きりにはならないが、他人に話は聞いてほしくないということだな? わかった。見えるところでならかまわん」
「ということだから、パーティーが始まって、ルイス様が帰られるまでの間の時間でいい? かといって、長くは話せないけれど」
「かまわない」
メイディは頷くと、アットンを無言で見つめた。その視線に気がついたアットンが笑顔を消すと、メイディは慌てた顔をして、この場から立ち去った。




