27 気にしないで
素直に謝ってくれたなら、ルイス様に報告するか迷ったと思う。だけど、この様子じゃ、そんな気遣いは無用みたいね。
「何も知らないということね。わかったわ。じゃあ、ルイス様や公爵閣下に報告させてもらうわ」
「「えっ?」」
こんなことくらい予想できるでしょうに、メイドたちはびくりと体を震わせた。
「別邸とはいえ、ここは公爵家の邸よ。馬鹿なことをするメイドなんて必要ないわ。ここで働きたい人はいくらでもいるはず。代わりを見つけるべきだわ」
メイドたちの顔から、血の気が引いていくのがわかった。
「犯人がわかったら、ここをクビになるどころか、他の邸でも働かせてもらえなくなるでしょうね。もし、私のロッカーに生ゴミを入れた人がわかったら、その人にそう教えてあげてちょうだい」
言いたいことを言い終えて踵を返すと、すすり泣く声が聞こえてきた。
振り返って確認すると、一人が床に座り込み顔を覆って泣いていて、もう一人が必死に慰めていた。
慰めているほうは、自分は関係ないといった感じだけど、知っていて止めなかったのなら、無罪ではないからね。
それにしても、どうしてこんなことをして許されると思ったんだろうか。
私がルイス様に言わないと思ったから? もしくは、彼のことをよく知らないから、報告されても何とかなるとでも思ったんだろうか。
彼は優しい人だから、そんなメイドがいることに気づかなかった自分を責めるでしょう。
だから言いづらい。でも、公爵閣下には伝えるつもりだった。
人を傷つけてもいいと思う人を、ルイス様やミュウ様の近くに置いておくわけにはいかない。
「生ゴミって、どういうこと?」
別れたつもりでいたが、アットンは話を聞いていたらしい。胸の前で腕を組み、不機嫌そうな顔で聞いてきた。
「気にしないで。アットンには関係ないことよ」
「気にするよ。僕のせいなんだろ?」
「たとえそうだったとしても、明日からは、そんなことをする人はいなくなるから大丈夫」
「僕は女性の更衣室には入れない。だから、誰かに頼んで掃除してもらうよ」
「気にしないで。公爵閣下に相談する前に、バトラーに見てもらわないといけないしね」
「僕のせいでごめん」
アットンが深々と頭を下げた。
何だか落ち着かない。ミュウ様の話が嘘だとわかってからのアットンの態度が今までと違いすぎて、何だか胸がモヤモヤする。
夢に出てくる彼の顔が、最近、アットンに似ているように思えてきたから余計にだ。
あの子がアットンなわけがない。そう思うのに、このモヤモヤが何だかわからない。だけど、このまま、気付きたくない気もする。
「あなたは悪くないわ。だから、頭を上げて」
「……ありがとう」
何のお礼だろうか。そう思った時だった。人の気配に気づき、私とアットンはそちらに目を向けた。
「あれ、フィリア! どうして来てるんだ? 今日は休めと言ったろう?」
学園から帰ってきたばかりのルイス様が、制服姿で駆け寄ってきた。
「ごきげんよう、ルイス様。昨日はありがとうございました。お言葉に甘えて、今日は用事を済ませたら帰るつもりです」
「そうか。用事というのがどんなものかはわからないが、無理しなくてもいいのに。で、体調はどうだ?」
「おかげさまで元気です!」
「なら良かった。ああ、キーファ、ちょうど話があるんだ。悪いが、一緒に来てくれないか」
「承知いたしました」
お話の邪魔をしてはいけないし、私はバトラーのところに報告に行こうかしら。ルイス様へのお礼の品は、あとから改めて渡しに行こう。
「では、一度失礼いたしますね。後ほど、伺わせていただきます」
「待ってくれ、フィリア。お前には明日話そうと思っていたが、ちょうどいいから一緒に聞いてくれないか」
「なんでしょうか?」
「アットンとフィリアに頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと、ですか」
私とアットンは無言で顔を見合わせた。
何だか嫌な予感がする。
ルイス様の部屋に向かい、彼が着替えている間、私とアットンはソファに並んで座って待つ。
先程の人たちとは別のメイドがお茶を淹れて出ていったところで、ルイス様が正面のソファに座った。
「今度、パーティーに出席しないといけなくなった。二人には会場内での護衛を頼みたい」
また、このパターンなのか。
ルイス様の話を聞いて、私とアットンはまた無言で顔を見合わせたのだった。




