24 血を見ることになるわよ
次の日はお言葉に甘えて休みを取り、アットンに渡すお礼の品や、ノッカス公爵夫妻やルイス様へのお返しを買った。ノッカス公爵邸にはお礼の手紙を添えて、フットマンに届けてもらい、ルイス様とアットンには直接渡すことにさかた。
昼過ぎということで、ルイス様はまだ学園から戻っていない。そのため、先にアットンにお礼を渡そうと思った。
ルイス様宛の贈り物をひとまず、メイド用の更衣室にある木製のロッカーに入れようとしたのだが、中を開けてみたら、酷いことになっていた。
飛び出すまではいかないが、ロッカーの中は生ゴミなどが入れられていて、悪臭を放っていた。
「くだらない。というか、これはこのままにしておきましょうか」
更衣室には鍵がかけられているので、出入りする人間は限られている。
片付けても、また同じことをされたら意味がない。このままにしておけば、もっと臭いが強くなるだろうし、更衣室内が生ゴミの臭いで充満する。ということは、被害を受けるのは、こんな馬鹿なことをした人物だ心配。
もちろん、関係のない人もいるだろうが、こんなことをする奴が一緒に働いているのだと知らしめてあげることになるので、ちょうどいいでしょう。
中に入っていたメイド服は汚れてはいないけれど、臭いがついていたため、用事が終わったあとに持ち帰ることにした。
ルイス様宛の贈り物を彼の部屋に置いてから、アットンの所に行こう。
そう考えて、ルイス様の部屋に向かっていた時だった。
廊下の窓が開いていて、聞き覚えのある男性の声が耳に届いた。
「アットン、何で邪魔したんだ」
アットンという名前が聞こえてきたので、足を止めて、耳をそばだてる。すぐに名を呼ばれた彼の声が聞こえてきた。
「邪魔なんてしてない。それよりも、その様子だと、彼女が湖に落ちたのは、君たちのせいだな? あんな馬鹿なことをして許されると思ってるのか?」
「お前が邪魔しなければ、俺が彼女を助けたのに、余計なことをしやがって!」
ちょっと待って。私の話をしてる?
二人は邸の中庭で話をしていた。窓からこっそり覗いてみると、後ろ姿しか見えないが、昨日、私たちと一緒に護衛として付いてきていた数人の騎士のうちの二人がいた。
二人共大男ではあるが、私に声をかけてきた男ではない。
あまり関わり合いがないとはいえ、さすがに同僚の声や顔くらいは覚えている。
「助ける助けないの問題じゃないだろう? 彼女が泳げないことを知っていて、よくあんなことが出来たね。いや、泳げていたとしてもしてはいけない行為だ」
いつも冷静なアットンにしては珍しく、声に怒気が満ちている。
彼の顔はこちらから見えるのだが、怒っていても綺麗な顔をしている。
怒りに満ちていた彼の表情が一瞬だけ、困惑のものに変わった。
なぜなら、私と目が合ったからだ。
詳しい話を聞きたかったので人差し指を口に当てると、アットンはすぐに騎士二人に視線を戻した。
ルイス様とアットンへの贈り物を、近くにあった花瓶が置かれている棚の上に置く。
ワンピースドレスの下にペチパンツを履いているので、足を窓枠にかけ、音を立てずに窓から外に飛び出る。そして、気配を消し、ゆっくりと騎士たちの背後に近付く。
「正義の味方ぶりやがって。彼女には興味がないと言っていたくせに、カッコつけてしゃしゃり出るんじゃねえぞ!」
「あの状況で助けに入らないほうがおかしくないかな?」
アットンは信じられないと言わんばかりにかぶりを振った。
「ふん。俺はお前とは違ってモテないんでな。これくらいのことをしないと振り向いてもらえないんだよ! せっかくのチャンスだったのに、お前が邪魔したんだ!」
「素直にアタックすればいいものを。彼女に気持ちを受け入れてもらえることは、一生ないと思うよ?」
アットンがいつもの笑顔を作って言った。
「お前にそんなことを言われたくねぇ!」
男が剣を手に掛ける前に、私は彼の鞘から剣を引き抜き、素早く持ち替える。そして、切っ先を男の首に当てた。
「なっ!?」
一緒にいた騎士が振り返ったので、空いているほうの手で、もう一人からも剣を奪う。
「振り返ったら血を見ることになるわよ」
首に剣の切っ先を当てている男は、騎士時代の同僚だ。しかし、短い間だったから名前は忘れてしまっている。ジェイコブに婚約破棄されてから、何度か私を食事に誘ってきていた男だった。毎回断っていたので、強硬手段に出たといったところか。
私を池に落とそうと考えたのは、この男が主犯のようだし、最低野郎と名付けよう。
最低野郎の隣にいる男は、いつも彼と一緒にいる男で、取り巻きみたいなものだった。
がっしりとした体格の男で、私の身体くらいなら、簡単に湖に放り込めるだろう。
実行犯がこの男で、主犯格は最低野郎といったところ?
「あ、あの、その、落ち着いてくれよ」
「お話を聞かせてもらったけど、あなた、私を殺しかねない真似をしておいて、私と付き合おうと思ってたわけ?」
情けない声を上げる主犯格に、私は笑顔で尋ねた。




