21 ふざけたことを言わないで!
有名なデートスポットなので、ジェイコブたちが来てもおかしくはない。
ただ、出くわしたとしても気づかれないうちに立ち去るのが一般的な気がするが、彼女たちはそうではないらしい。
「フィリアは負け犬なんかじゃないぞ!」
「そうです! お姉様を侮辱しないでください!」
私が反論する前に、ルイス様とラナが言い返してくれた。
ラナはの体ぷるぷる震えているから、怖いのに頑張ってくれているみたい。
「やだぁ! 二人共、子犬みたいで、なんだか可愛いですね!」
フリルがふんだんに使われたピンク色のドレスを着たダイアナ嬢は、ルイス様に会ったことがあることを忘れているのか、気軽に彼に近付こうとした。
すぐさま、私が間に入る。ルイス様とラナの後ろには、アットンが立って、他の人物が近付けないようにしてくれた。
「わたし、この子供たちと話しているんですけど、どうして邪魔をするんですか」
「許可もなく、ルイス様に近付かないで」
「相手は子供ですよ? そんなにピリピリしなくてもいいじゃないですか。もしかして、偉い人のお子様だったりします?」
「そうよ。だから、あなたが近寄ることは許されません。ジェイコブ、恋人の管理くらい、しっかりしてちょうだい」
ダイアナ嬢の後ろで突っ立っているジェイコブを注意すると、彼は眉根を寄せてかぶりを振る。
「君に言われたくないね」
「はい?」
「君は僕にふられたからって、色んな男と遊んでいるんだろう? もう、婚前交渉が嫌だなんて贅沢を言えなくなった感じかな? そんなにも飢えているんなら、僕のお相手をしてもらってもいいんだよ?」
この人、何を言っているの?
「ふざけたことを言わないで! 私はそんなことしてないし、あなたの相手なんて死んでもお断りよ!」
私が言い返すと、ジェイコブは何か言おうと口を開いた。けれど、先にルイス様が口を開く。
「伯爵家の令息がいくら相手が年下だとはいえ、伯爵令嬢であり、公爵令息のメイドである女性を侮辱することは許されんはずだ。というか、俺は許さん!」
ルイス様の身分を知っているジェイコブは、慌てて否定する。
「え? あ、いえ、その、違います! 侮辱したわけではないんです!」
「侮辱したとしか思えん! 父上に報告させてもらう」
「そ、そんな! お待ちください!」
情けない声を上げるジェイコブに、ダイアナ嬢は首を傾げる。
「ジェイコブ様、どうしたんですか?」
「どうもこうもない! とにかく今すぐに謝ってくれ!」
「ええ? どうしてですかぁ? あぁ! そっかあ! 見たことがあると思ったら、公爵家のお坊ちゃんじゃないですか!」
涙目になっているジェイコブの横で、ダイアナ嬢は手を叩いて笑顔で続ける。
「好きな子の前でカッコつけちゃってるのかなっ?」
「ダイアナ! 頼む! 止めてくれ!」
「やだ、ジェイコブ様ったら泣いているんですか? 大袈裟ですよぉ!」
ダイアナ嬢は笑顔を絶やさないどころか、ジェイコブの頭を撫でる始末。それを見たルイス様がぽつりと呟く。
「この令嬢、大丈夫か? ちょっと心配になってきたんだが……」
「おかしいのではなく、一般常識がないんだと思われます」
「ああ。周囲からちゃんと教えてもらえなかったんだな」
ルイス様は胸の前で腕を組み、しみじみと言った。
本当に7歳児の発言なんだろうか。
「ちょっと、お二人共、私の悪口言ってます? ああ、もうほんと、女の嫉妬って嫌だわ! あ、坊っちゃんは女の子じゃないですから、女の嫉妬とは言わないですね」
何がおかしいのか、ダイアナ嬢はケタケタと笑う。
たとえ、周りから教えてもらえなくても、自分で気づきそうなものだが、彼女にはそれができないのでしょう。
「男爵令嬢、このことは父上に報告させてもらう。フォブラー、お前もだ。ただで済むと思うなよ」
ルイス様に睨まれたジェイコブの顔が引きつる。
「ぼ、僕は何もしていません!」
「フィリアを馬鹿にしておいて、何もしていないだと!? ふざけたことを言うな!」
ルイス様が私の前に出てくると、ジェイコブを見上げて続ける。
「彼女は俺のメイドだ。馬鹿にすることは許さん! そして、後ろにいる天使のことも騎士のことも、相手が誰であろうと侮辱することは許さんからな!」
ルイス様、どうしてそんな良い人なのに、女性にふられるんです!?
ラナの反応が気になって視線を移す。ラナは、頬をピンク色に染めて、ルイス様の背中を見つめていた。
これは好印象みたい。可愛い妹はまだ誰にも渡したくない気持ちもあったけど、ルイス様なら許せるわ。
今度こそ、ルイス様の恋が上手くいくかもと考えた時、ジェイコブの叫びで我に返る。
「申し訳ございません! どうかお許しください!」
「許さん! 人をバカにするような発言をするお前には、ちゃんと罰を与えて、しっかりした人間になってもらわないと駄目だ」
「そ、そんなっ!」
「もう、そんな怖い顔しなくていいじゃないですか。ちょっとふざけただけですよ。ごめんなさいっ! ほら謝ったからいいですよね?」
ジェイコブとルイス様の会話に割って入ったダイアナ嬢は、あまりにも緊張感がなさすぎる。
「「いいわけない!」」
私とルイス様が同時に否定すると、ダイアナ嬢は首を傾げる。
「どうして、そんなに怒ってるのかわかりません! ねえ、ジェイコブ! 早く船に乗りましょう? この人たちと一緒にいても、全然楽しくないわ!」
「あ、ああ、そうだな。あの、ルイス様、申し訳ございませんでした。悪いのは彼女だけですから、僕のことはどうぞお許しを……」
深々と頭を下げたジェイコブは、ダイアナ嬢に連れられて、停まっていたボートに乗り込んでいった。




