19 当たって砕けてみてください!
ルイス様も私を巻き込むのは悪いと思っているらしい。
眉尻を下げて、私の問いかけに答える。
「うう。仕方がないだろう。いきなり二人で出かけるなんて無理だ」
「気持ちは分かりますが、どうして私なんですか」
「お前は俺のメイド兼護衛だろう? それに、ラナ嬢の姉だ」
「そんな時だけ護衛の任務を与えてくださるんですか」
女性に守られたくないみたいなことを言っていたくせに。
……まあ、ダブルデートの件はそういう口実にしたいだけか。
「外ではメイドの仕事はあまりないだろう? だから護衛として……」
「屋敷の中でもルイス様の話し相手しかしてませんけどね」
「では、働いてくれ! これは仕事だ! ダブルデートをする! 頼んだぞ!」
ルイス様からワガママを言われることはそうない。助けになりたいが、デートということは、私の相手も必要だ。
「ルイス様、申し訳ごさいませんが相手がおりません」
「大丈夫だ。安心しろ。俺が用意しておく」
「デートなのに、相手は私に選ばせてもらえないんですか」
相手が誰だか予想はつくが、一応わからないふりをしておいた。
「言ったら、一緒に行ってくれない気がするから、当日のお楽しみだ」
「仕事であれば、よっぽどの相手じゃない限り行きますよ。あ、ラナへのデートのお誘いは、ルイス様がしてくださいね? どこへ行くかの相談くらいはのりますので」
「え、な、何だって? そこは、フィリアがお願いしてくれるんじゃないのか?」
「何をおっしゃってるんですか! デートのお誘いくらい、自分で頑張りましょう!」
これは決して意地悪ではない。
言い出したのはルイス様なのだし、それくらいは自分で頑張ってもらわないといけないわ。
「そ、そんな! 俺が言えば、断られるに決まっているだろう!」
「まだわからないですよ。当たって砕けてみてください!」
「もう砕けるって言っているじゃないか!」
「だから、まだわからないって言っているじゃないですか」
「お前が頼んでくれたら、ラナ嬢は絶対に断らないだろう!?」
「絶対にかどうかはわかりませんが、まあ、断らないでしょうね」
頷くと、ルイス様が懇願してくる。
「今まで、好きになった令嬢はデートに誘っても相手にしてもらえなかったんだ! ラナ嬢にまで断られたら、心が折れてしまうかもしれん!」
「次期公爵が何を弱気になっているんですか」
「俺のことをまだ幼いって言ったじゃないか!」
「デートのお誘いは幼くてもできます」
「そ、それはそうかもしれんが……」
言い過ぎただろうか。
がっくりと肩を落としたルイス様を見て、心が痛む。すると、覚悟を決めたのか、ルイス様は真剣な表情で口を開く。
「そうだよな。行動する前から諦めてはいけない」
「頑張ってください!」
「俺が誘った後、もし、ラナ嬢が迷惑そうにしていたら、必ず教えてくれ」
それはさすがに言いづらい。でも、ラナはルイス様を嫌っているわけではなさそうだし、そんな報告をしなくても大丈夫よね。
「承知いたしました」
「ありがとう。では頑張ってみる。だが、デートの場所は相談にのってくれ。お前も行くのだからな」
それは面倒ね。思いつく場所といえば、ジェイコブと行ったことのある場所ばかりだもの。
「ラナに断るように伝えておきます」
「どうしてそんなことを言うんだ!」
焦るルイス様が可愛らしくて、笑い出しそうになるのを何とかこらえた。
******
ルイス様とダブルデートの話をした次の日の夜、勤務を終えて帰ってきた私を、ラナがエントランスホールで出迎えてくれた。
ルイス様がラナをデートに誘ったという話はすでに聞いていたから、そのことだと思ったんだけど、違う話だった。
私の部屋に向かって歩きながら、ラナがとんでもない話をしてきた。
「お姉様はいつから、アットン様とお付き合いされているのですか?」
「……はい?」
「あ、あの、どうしても言いたくないのなら、言わなくても大丈夫です!」
「違うのよ。いつからも何も付き合っているという事実はないんだけど?」
ルイス様はラナに何を言ったんだろうか。
ラナは眉尻を下げて訴える。
「恥ずかしがらずに教えてください! お兄様だけでなく、ルイス様に教えたのに、私には内緒だなんて悲しいです!」
「何を? 付き合ってないことを伝えてなかったこと?」
「違います! お付き合いされているんですよね!?」
「いいえ」
現在は誰ともお付き合いしていないから、相手が誰か聞かなくても答えは一つしかない。
「どうして教えてくれないんですか」
涙目になるラナに苦笑して尋ねる。
「どうしてそんなことを考えたの?」
「……ルイス様からお出かけしようと誘われたのですが、お姉様はアットン様と一緒に付いてきてくださると言っておられたんです」
「護衛でね?」
「お兄様はお姉様とアットン様がお付き合いされねいるかもしれないとおっしゃってましたが……」
「それは勘違いよ」
ため息を吐きながらかぶりを振ると、ラナは小首を傾げる。
「本当ですか?」
「本当よ。誰かとお付き合いをすることになったら、ちゃんと伝えるから安心して」
笑顔で答えると、ラナは嬉しそうにしたものの、なぜか残念そうな顔に変わった。
「そうなんですね。お付き合いしているわけではないんですか……」
「どうかしたの? 付き合っていたほうが良いことがあるの?」
「はい! アットン様がお相手なら、お姉様はもう傷付かなくてもいいでしょう?」
「ラナの中でのアットンは、そんなにいい人なのね」
外見はもちろん良いし、性格だって、たまに苛立つ時はあるけど、そう悪いわけじゃない。
……そういえば、アットンと話すようになってから、まるで何かの暗示みたいに昔の夢を見るようになったのよね。
「女性との浮いた噂がない方のほうが、お姉様には合うと思います!」
ラナが拳を握りしめて続ける。
「お父様もお母様も、アットン様なら良いと言われていました。ですから、良い人だと思います。でも、やはり、ここはお姉様大好きな妹として、今度のお出かけで、見極めさせていただこうと思います!」
いつもオドオドしているラナがこんなことを言うなんて驚きだった。
ただ、この様子だと私とアットンがデートしなければいけないのは確実になってしまった。
まあ、護衛として付いていくのだから、それ以外は大したことはしなくていいわよね?
デートはメインじゃない。ルイス様とラナを守ることを考えなくちゃ。
というか、ここ最近、両親もそうだし、ルイス様もそうだけど、ラナもリングスも私に過保護すぎやしないだろうか。
そんなに私はジェイコブの件でショックを受けたように見えてるの?
私自身は、だいぶ立ち直った気でいるんだけど……。
なんて、この時は思っていたんだけど、デート当日、同行してくれることになったアットンから問いかけられ、皆が私を心配してくれている理由がわかることになる。




