17 付き合っていません!
「悪いけど、バッタに呼び出されたから行くよ」
呆然としている令嬢達に、いつもの笑顔を向けてから、アットンは私に付いてきた。
バッタ様を自由にしてするために、庭園に続く扉に向かうと、彼が先回りして扉を開けてくれた。
こういうところは紳士なのだろう。
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。助かったよ」
「私は大して何もしていないわ。礼を言うならバッタ様に言ってよ」
「ありがとう、君のおかげで助かった」
アットンは、足を必死に動かして私の指から逃れようとしているバッタ様に、身を屈めて言った。
「もう逃がしてあげてもいいでしょう?」
「もちろん。彼女たちも追いかけてきていないしね」
アットンが頷いたのを確認し、私はバッタ様を近くの草むらに放してやった。
「よく素手で捕まえられたね」
「小さい頃、虫を弟のためによく捕まえてたのよ。だから掴めただけ。捕まえたのは別の人」
今回の経緯を話すと、アットンは微笑む。
「つかんでいるだけでもすごいよ。多くの女性は大人になったら、虫をつかむことを拒否する人が多くなるからね」
「あ、私だって、黒くて素早く動く奴は無理よ。殺せることは殺せるんだけど、部屋の中が滅茶苦茶になるから、基本は私が逃げるようにしてる」
「部屋が滅茶苦茶になるって、どんな退治の仕方をしてるのさ」
アットンが楽しそうに笑った。
あ、今の笑い方は、普段の笑顔とは違う気がする。本当に面白かったのかもしれない。
そう思った時、大事なことに気がついた。
そうだわ。こうやって二人でいるところを誰かに見られたら、また変な噂が広がってしまう。
「さて、戻る所は一緒だけど、別々に戻ることにしましょうか」
「どうして? 一緒に戻ればいいと思うけど」
アットンが不思議そうな顔で私を見つめる。
「変な噂をたてられたら困るでしょう?」
「……もう遅いんじゃないかな」
「そ、そうかしら」
「たぶんね。でも、安心して。君とは仕事仲間なだけと、ちゃんと伝えておくから」
「……ありがとう」
アットンは簡単に考えているみたいだけど、今日のことだけじゃなく、先日のレストランでの件もある。
周りは、私たちの関係を面白おかしく考えていると可能性がある。
親衛隊の場合は、私への恨みを募らせていそうだ。かといって、彼を責めるつもりはない。
別々に戻っても、どうせ親衛隊に捕まるだけだし、一緒のほうがいいんだろうか。
そう考えた時、リングスとミント様が慌てた顔をして駆け寄ってきた。
「姉さん!」
「お兄様!」
リングスは私に、ミント様はアットンに話しかける。
「騒ぎがあったようですが、大丈夫だったんですか?」
「お兄様ったら勝手にいなくならないで下さい!」
今度は私がリングスに、アットンがミント様に言葉を返す。
「大丈夫よ。まあ、これからが面倒なことになるかもしれないけど、大して気にしないわ」
「先にいなくなったのは君だよ」
私の無事を確認したリングスは安堵の笑みを浮かべた。そして、私の隣にいるアットンに慌てて挨拶をして、また私に視線を戻し、小声で尋ねてくる。
「姉さん、こんな所に二人でいるということは、やっぱり噂は本当だったんですか?」
「違うわよ」
「噂ってどういうことなの?」
私たちの会話が聞こえていたらしい。
ミント様が首を傾げてリングスに尋ねた。
これ以上、誤解する人を増やしたくない。
私はリングスの口をふさごうとしたけれど、少しだけ遅かった。
「姉さんとアットン伯爵がお付き合いしているという噂ですよ」
暫しの間、ミント様はきょとんとした顔でリングスを見つめた。
驚いた顔をしたアットンが口を開こうとすると、ミント様が急に叫びだした。
「えええええ! お兄様ったらいつの間に、女性嫌いを克服したんですか!? も、もちろん、 驚きもありますが、嬉しい気持ちが勝ちますわ!」
「付き合ってない」
「付き合っていません!」
私とアットンの否定する声が綺麗に揃った。




