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騎士志望の伯爵令嬢ですが、小さな紳士の公爵令息のもとで恋と仕事に邁進します!  作者: 風見ゆうみ


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14  わかっているわよね?

 今のジェイコブからは焦りの色しか見えない。彼は震えながら私に問いかけた。


「本気なのか、フィリア」

「本気よ。当たり前でしょう」

「妻に愛人を認めさせるのも男の仕事だと、父上には言われているんだ! いいかげんに諦めてくれよ」


 ジェイコブは自分の父親が常識外れなことを言っているのに気づいていないらしい。


 私はこれ見よがしに大きなため息を吐いて答える。


「私は浮気をしたあなたのことも、あなたのお父様のことも、もうどうでもいいわ。とにかくあなたが前に言った通り、婚約破棄してください!」

「そ、そんな……っ」


 ダイアナ嬢に心移りしてしまったことは仕方がない。だけど、私の気持ちを蔑ろにして浮気を認めろと言われるのは、絶対に許せない。


 今まで、同じ状況になった貴族の女性は、諦めて結婚していたかもしれないが、私はお断りだ。


 ジェイコブが黙り込むと、年配の支配人が私の所へやって来て微笑む。


「婚約破棄が認められた記念に、お嬢様にはメインディッシュは特別なものにさせていただきますね」

「え? あ、ありがとうございます!」


 私たちの話は事前に連絡がいっていたので、聞いた時点で考えてくれていたのだろうと思う。

 せっかく用意してくれたのであれば、厚意を無下にするのは良くないし、ありがたく受け取ることにした。


 一礼した私に頭を下げ、支配人はダイアナ嬢のほうに向きを変える。 


「そちらのお嬢様も、婚約が決まったようですね。誠におめでとうございます。お嬢様にも特別なものをご用意させていただきますね」

「きゃーん、やったぁ! ありがとうございます! 見た目だけじゃなくて、中身も本当に素敵なおじ様ですね!」


 ダイアナ嬢は、耳にキンキン響く甲高い声を上げて喜び、横で呆然としているジェイコブの様子には、全くおかまいなしだった。


 周りの人たちも婚約破棄と新たな婚約を祝福し、拍手をしてくれた。


「こ、婚約破棄をすればいいんだろう!」


 自棄になったのか、ジェイコブは真っ赤な顔をして叫ぶと、私から目を逸らした。


「やったわ! ありがとうございます、ジェイコブ様!」


 ダイアナ嬢に抱きつかれているというのに、ジェイコブは浮かない顔のままだ。


「では、婚約破棄の書類をお待ちしていますね」


「僕も含めて、ここにいる全員が聞いたからね。今さらやっぱりやめたなんて言わないように。それから、わかっていると思うけど、破棄する際、フィリア嬢が不利になる条件をつけないようにしてくれ。そんなことをしたら、君の社会的な評判は落ちるよ」


 アットンに忠告されたジェイコブは「うぐぅ」と変な声を上げた。


「わかっているわよね?」

「わかってるよ!」


 私に念押しされ、ジェイコブは涙目で叫んだ。


 後が引けなくなったジェイコブは、何も言わずに、出されたコース料理に手を付けていた。


 婚約破棄できることになったのは、本当に嬉しい。でも、不安なこともあった。

 私は少しだけ身を乗り出して、アットンに小声で尋ねる。


「あの、キーファ様、本当に父の仕事の件はどうにかしてもらえるのよね?」


 婚約破棄できるのは嬉しいけれど、やはりそれが気になって聞くと、アットンはうなずく。


「もちろん。彼みたいに無責任な発言をするつもりはない」

「……ありがとう」


 今日のことはお父様にも伝えていて、立場が悪くなるのは覚悟しているし、婚約を破棄されてくださいと言われていた。


 ……婚約を破棄されてこいというのも珍しい話ね。


 そんなことを考えながら、今からは、アットンとの食事を素直に楽しむことにした。



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