7 灰色の世界
わちゃわちゃしてます
「仕事が忙しい、なんて言っても深夜には帰れていたでしょう?『遅くなってごめん、愛してるよ』とさえ言っていれば、ここまでミレーナ嬢が不安になることはなかったのでは?」
ネルソン様のその言葉に、ユリウス様は言い返す。
「そう言える関係性を作る前に、貴様に邪魔をされたんだと、言っている」
しかしネルソン様は、悪びれる素振りはない。
「優しいミレーナ嬢は深夜まで起きて待ってくださっていたでしょう?ならばその時に関係を育くめば良かったではないですか、ねえ?」
起きて待っていたことを見透かされて、私はネルソン様の観察眼に驚く。そして同時に、ただ寝ていてほしいと言われた日のことを思い出して、胸が痛んだ。
「日付を超えて帰る夫に付き合わせていては、彼女が可哀想だろう」
「ほら、そうやって、彼女、とおっしゃいますが誰の話をいるんです?私はミレーナ嬢のことを話しているつもりでしたが…ああ、騎士団長殿は、マリアの話でもしているんですかあ?」
無茶苦茶な論調だが、私はネルソン様が言わんとすることがわかってしまい、どきっとする。
「なっ…!この文脈で彼女と言えば、私の妻のことだろう!何を馬鹿げたことを」
「ふーん…私の妻、ねえ。私の妻というのは、マリアのことですか?」
「だから違うと言っている、いい加減しないかネルソン!」
「じゃあ誰のことです?」
「だから……!!」
二人の会話が堂々巡りになり始めたことをきっかけに、横でイライラしながら聞いていたサキが口火を切る。
「あなたたち!…いい加減にしなさいよ!!何よさっきから聞いてたら、ここには何しに来たの!?レイに謝りに来たんじゃないの!?
ネルソン様はわけのわからないことを言って責任転嫁し始めるし、ジルコニアート様は煮えきらないことしか言わないし、何しに来たわけ!?」
思わずサキを止めようとするが、「ここは私に任せて!」とサキはどんどん言葉を重ねていく。
しかし、それに黙っているネルソン様ではない。
「私は別に責任転嫁はしていませんよ。私の罪は罪、それはそれとして騎士団長殿にも原因はあると言っているのですから」
そうするとユリウス様も黙ってはいない。
「そもそも貴様が何もしなければ、このような自体にはなっていないと言っている。妻を追い詰めてしまって申し訳ないと思っているが、私が原因だと言う前に、ネルソンは誠心誠意我々に詫びるべきだ」
するとサキが口を挟む「申し訳ないと思っているならまず二人してレイに謝りなさいよ…!」
ユリウス様がそれに応じて謝ろうとすると、ネルソン様が口を挟む。
「ああそうだ、騎士団長殿も私に謝ってください?」
「は?何故私が貴様に…」
意味がわからない、といった表情をするユリウス様にネルソン様はこれまた爆弾を投下した。
「だって、君の子飼いのジル君を、警察に突きつけることなく雇い続けてあげたんですから」
「え…?」
私とサキがジルを見ると、ジルは冷や汗をだらだらと流しながら、「レイ、サキ、ほんっとうにごめん…!!」と謝った。
混乱しているうちにも盤は進む。ネルソン様が続けて話す。
「ほら、この諜報員もどき。ジルコニアート家の使用人でしたっけ?しかし諜報員にしてはお座なりな人間ですねえ。わざわざジルと名乗って、自己紹介ですか?」
「い、いや、これは別の名前で呼ばれるよりは反応しやすいかと思って…」
ジルが途切れ途切れに弁明をするが、裏切られたという想いがサキの中で高まったのだろう。サキの顔がとんでもないことになっている。鬼が背後に見える気さえする。
見かねてユリウス様がジルに助け舟を出す。
「…ジルはもしも何か情報があれば、私に知らせるようにと送り込んだ者だ。ジルに責任はない、全て私の責任だ」
「待ってください、ユリウス様!俺は本当に二人のことを友人だと思って…」
その言葉を遮るように、サキが怒鳴りつけた。
「…ジルあなた…!何が友人よ!?ずっと騙してたんじゃない!!レイが行方不明の令嬢だって察してから、内緒にしようって約束したわよね!?あれも嘘だったってわけ!?」
「ち、違う!嘘じゃない!俺はユリウス様以外には誰にも言ってない!!」
「言ってるじゃないの!!」
二人の剣幕の合間に、ネルソン様が「そうだそうだ〜」と楽しそうに野次を飛ばす。
それを見てユリウス様が「お前がこの元凶だと言うことを忘れるな!お前は何がしたいんだ!!」と怒鳴りつける。
そこからは全員が喧々囂々としていた。
ネルソン様が「だからあ、私は私の罪を認めると言っているではありませんか。けれどそれはそれとして、騎士団長殿が何の咎もなくミレーナ嬢と仲良くするのは腹立たしいんですよねえ」と言う。
ユリウス様がそれに対して「意味のわからないことをこれ以上言わないでくれないか。彼女と私の関係性に、ネルソンは関係ない」と返す。
しかしネルソン様は「でもそんな関係のない私ごときの策略で、2人はまんまと仲違いされていますよねえ、それって本当に私だけの責任ですかねえ」と返す。
「ネルソン、貴様は私と彼女が話すのを邪魔したいのか、それとも謝らせたいのか、一体何なんだ」とユリウス様が呆れつつも返す。
「私はねえ、ミレーナ嬢が不幸になるのは許せないんですが、幸福な彼女の隣りに騎士団長殿が立っているのも嫌だし、その不幸に騎士団長殿が関わっているのも嫌なのですよ。分かりますかねえ、あなたにこの私の繊細な気持ちが」
「分かりたくもない、良いからもう関わらないでくれ」
「お断りですねえ。だってあなたが…」
そのやりとりの横では、怒ってジルを責めるサキと、弁明しようとしては墓穴を掘っているジルの声が聞こえる。
そんなわーわー、と眼の前で繰り広げられる怒気に当てられてか、私も段々と腹が立ってきて、それに悲しくなってきた。
ジルSideの話もそのうち書きたいなぁ、と思ってます!楽しんでいただけると幸いです!




