5 収束する関係
ここから本編続きます!
すっかり歩き慣れた館の中をはしたなくも駆けながら、涙がぼろぼろと溢れだしてくる。
使用人が主に生活している棟に来たところで、息が上がってきた。
サキにもらった眼鏡をはずし、ぐすぐすと涙をハンカチで拭いながら歩く。また、ふーっと息を吐いて呼吸を整える。
「…逃げてきちゃった、なぁ」と自分の弱さに嫌になり、再び涙が目に溜まってくる。ユリウス様は私がここにいるのを分かっているようだった。どうしてそこまでして追ってくるのだろう。マリアという女性と、うまくいっていないのだろうか。それともマリアさんが、元妻の死体がないと信頼できないとでも言ったのだろうか、
いや、流石にユリウス様が惚れた女性が、そこまで過激な人だと思いたくない。理由が分からないという不安が、悲しさに拍車をかけてくる。思わずうずくまっていると、サキとジルが走り寄って来てくれた。
「レイ〜!!大丈夫!?」
「お腹痛いのか!?部屋まで送ろうか!?」
「サキ…ジル…うわぁああん!」
2人の心配する顔を見ると安心してしまい、思わず抱きつく。サキはよしよしと頭を撫でてくれ、ジルは両手を上げて無実を証明するようなポーズを取っていた。それを見てサキがまた「何をしてんのよ、あんた」と冷水を浴びせるものだから、思わず笑ってしまった。
それから私は、部屋に戻りつつ2人に事情を説明した。元々グリーンランド伯爵家に生まれ、叔父に進められて出会ったことや、新婚生活では帰ってこなくなったこと、名前を呼ばれたことさえないことなど…二人は親身になって話を聞いてくれた。
それから、色んな男性やネルソン様に何度か話しかけられて、揶揄われたり、浮気している噂を何度も耳にしていくうちに、彼はきっと恋人がいたのに無理やり爵位のために結婚せざるを得なかったのだろうと考えるようになった、ということも話した。ここに来てからのネルソン様からのお声がけも全て話した。
やっと心の中を誰かに打ち明けられて、私はこんな時であるにも関わらず、心がほぐれていくのを感じた。話終わって、二人は少しの間絶句していた。
そして、絞り出すように、まずサキが「ネルソン様の声のかけ方きっしょい…」と唸るように吐き出した。
ジルはジルで、「え…騎士団長様ってそんな薄情な人だったのか…」なんてショックを受けた顔をしている。
部屋で3人で紅茶を飲む。この3人で集まる時は、いつも私の部屋で紅茶を飲むのがいつもの流れだ。私もようやく気持が落ち着いてきたころ、遠くからバタバタと足音が聴こえてきた。いくつかのドアを開けているらしい、その足音がどんどん近づいて来るので、私たちは顔を見合わせて身構えた。
「ここか!?」と、扉勢いよく開かれる。ドアを開いたのは、先程まで応接室にいたはずのユリウス様。彼は私の顔を見ると、突然力が抜けたように座り込み、下を向いてしまった。
そして、「生きてた、生きててよかった…」と呟いたのである。
「ゆ、ユリウス様…?」
あんまりにも血相を変えて現れたユリウス様が心配になり、思わず声をかけた瞬間、後ろから息も絶え絶えなネルソン様が走り寄ってきた。
「かい、かいちょっ、あなたねえ、ぜぇ、はぁ、どういう脚力してたら、はぁ、わた、私を、追い抜けるんっ、で、すかっ、はぁ、はぁ」
ネルソン様が走るところを見たことがなかった私たちは、これは一体何事だとますます疑問符が頭を支配した。
それから暫くして、サキが取り仕切るまま何が起きたのかを聞くことになった。
ネルソン様は初めこそ「どうして私が使用人の言うことを聞かないといけないのです?」と言っていたが、サキのギロリと睨む気迫に押されたのか、大人しく席についた。(足りない椅子は隣のサキの部屋から持ってきてくれた)
かくして、このけして広いとは言えない使用人室の中で、私とサキとジル、ユリウス様とネルソン様というへんてこな5人が円形に机を囲む、という不思議な構図が生まれたのであった。
読んでいただきありがとうございます!!
ようやく再会できました




