4 真実への最近接領域
楽しんでいただけると幸いです!
ネルソン様は尚も不遜に、ユリウス様に向かって嫌味を垂れていたが、渋々従うことにしたようだ。
「それで、捜査って何を協力すればいいんですかねえ。限度ってものもありますけどねえ」
「……協力感謝する。ではまず貴公が雇われている使用人履歴を見せていただきたい」
「何のために?」
「無論、私の妻が使用人として雇われていないかを確認するためだ」
「やだなぁ、どこの貴族が、伯爵家を使用人として雇うんですか?ここにはせいぜい男爵家までですよ」
ユリウス様は基本的に冷静で、紳士的な振る舞いをされる方だ。その柔らかな笑顔が崩れたところを、私は見たことがなかった。少し年上なので、学園時代に校内でお見かけすることはあったが、その時も常に穏やかな笑みを浮かべていらっしゃった。
そのユリウス様が、今、非常にイライラしておられる。そしてネルソン様の言葉を受けるにつれて、その怒りは高まっているように感じられた。
「いい加減にしないか、ネルソン。既知の者として言うが、調べはついているんだ。今日ここには証拠を押さえに来ただけだ」
「そちらこそいい加減にしてくださいよ、ジルコニアート会長。証拠もないのに調べがついてるとは?そんな曖昧な基準で押し入ってきて、とんだ迷惑ですよこちらは」
「ネルソン、お前、私の妻に要らぬことを吹き込んだだろう」
その言葉が出てきて、私はドキッとする。その瞬間、ネルソン様がユリウス様に気が付かれないほど自然に、ドアの向こうでみんなで覗いている私の方を見るものだから、なおさらだ。
ネルソン様は面白そうに笑って、「要らぬこと?とんでもない、私は何も言っておりませんよ」と言った。どう見ても煽っているが、ユリウス様はそのことにも気がついていないのか、苛立ちを募らせる。
「馬鹿を言うな!パーティーに妻が参加するたびに話しかけているお前の姿を見たと、部下も言っていた。…良からぬことを考えているのではと思ったが、こういうことだったとはな」
今にも逮捕しそうなユリウス様の物言いに、私は思わず飛び出しそうになった。このままではネルソン様が誤解で逮捕されてしまう。私が勝手に、この家の好意に甘えているだけなのに。
だが、隣のサキとジルがぐっと私を抑え、同時にネルソン様もひらひらと右手をこちらに振って、来なくていいと言っているようだった。
「それはあなたが奥方を一人にしていたからでは?ジルコニアート会長、いえ、今は…第一騎士団長様、でしたよねえ」
「一人にさせたくてしていた訳では無い!お前が仕事をしないせいでもあるだろう!!」
完全に神経を逆撫でされたユリウス様がそう怒鳴りつける。私はその様子をハラハラしながら見つめているが、ユリウス様はネルソン様と同僚、という新事実に驚きが隠せない。
そういえば最初にパーティーで自己紹介された時に、同僚と名乗っていた気もする。ということはネルソン様は騎士団…?引きこもりなのに??
そんな頭の疑問が解消されないまはま、話はどんどん進んでいく。
「そんな忙しいくらいで夫婦関係が破綻するものですかねえ、そういえば会長、あなた、気が多い噂も立っておりましたが?」
「…は?」
「マリア…と名乗る、確か学園時代からの親しい仲の方がいらっしゃるとかどうとか」
「どうしてそこでマリアが出てくる」
ズキッと心が痛む。彼が気安くマリアと呼ぶことに、私が傷ついているのは他でもない、私が結婚以来ただの一度も、名前で呼ばれたことがなかったからだ。
「大変ご執心でいらっしゃるとか?夜遅くまでお二人で何をしておられるんですかねえ」
……やめて、聞きたくない。
「噂では、2人で深夜の騎士団の一室に消えていく姿を見たものもいるとか、なんとか」
もうやめて、いやだ、いやだ、聞きたくない。
ユリウス様が何かを言おうと口を開いた瞬間、
気がつくと私は自室に向かって走り出していた。
そのため私は、知ることができなかったのだ。その直後にユリウス様が、
「その噂を広げたのもお前だし、そうなるよう仕事を押し付けてきたのもお前だろうが!!!」と怒りのあまりに叫んでいたことを。
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