間章 日常
魔神騒動から3日後、ヒロが任務から帰還した。
もっと時間がかかると予想されていたが、拠点への緊急連絡で教え子たちの話を聞き、任務を強行突破で終わらせ車を飛ばして帰ってきたという。
難しい任務で、情報を集めてから確実に仕留めるべきものだったはずだが。
そしてギルド長室で彼らに説教をした。
一通り説教が終わると、彼らを抱き寄せ無事を喜び労った。
彼らの危機にまた助けられなかったと、ヒロは自身を責めている。
随分と大人になったものだ。
ともあれ教え子たちの無事を確認したヒロは、彼らを帰すと本題に入る。
・紫級の依頼が青級として処理され、掲示板に張り出されたこと。
・クラスイエロー同伴のクラスブルーが青級任務を受けれる管理体制だったこと。
・村での過剰な歓迎と不十分な説明。
この現状にこの男は本気で怒っていた。
そしてその怒りは全てギルドの最高責任者である俺、「ベネディクト・スロイアノフ」へと向けられる。
正直に言おう。
めっちゃ怖い。そして胃が痛い。
さらには依頼を受理した者が見つからないときた。
ここまでずさんな管理体制だったかと頭を抱えるしかない。
言い訳のしようがないほどにギルド長である俺の責任だ。
あぁ…気楽に冒険者として各地を放浪していたころが懐かしい…
スワンが入ってきてフォローしてくれなければ、ヒロにぶん殴られていただろう。
人類最強に殴られれば命の危機だ。首の骨が折れるくらいは覚悟しなければなるまい。
会議の結果、依頼を受理した者は内部でも外部であっても、裏で危険な思惑が働いているという意見にまとまった。
二人が退室し、背もたれにもたれ掛かる。
防音のしっかりしたこの部屋は恐ろしく静かだ。
コッコッと大きな時計が時を刻む。
大きなため息。
この3日間まともに寝れていない。
昔はこんな難しいことを考えもせず突っ走ってきた。
面倒なことは全部丸投げし、やりたいことだけをひたすらに。
ふと自分のデスクに目が行く。
山積みの書類の横にある写真。
古い写真だ。
おんぼろの小屋の前でポーズをとる男女5人。
薄く色がついていたはずだが、経年劣化でセピア色になっている。
ロングローブに身を包みつつ、腰に手を当て足を肩幅に広げる見るからに気の強そうな淑女。「スワディーテ・ホワイトレイク」
厳つい金属とドラゴンの鱗で造られた鎧に身を包み、剣を両腰と背中に背負って、ニカッと歯を見せ笑う屈強な青年。「ヒロ」
自身の槍に恥ずかしそうに身を隠す美しくきめ細やかな金髪の美少女。クォーターエルフの「マリン・シヴレラ」
茶色のくせ毛と当時かっこいいと思って生やした髭。大ぶりな剣を腰に下げ、きざなポーズのガキ。「ベネディクト・スロイアノフ」
武器は持たず、動きやすい革製の装備に、茶色みの強い金髪をオールバックにして、真ん中で腕を組むオッドアイの青年。「ニグラード」
ギルド「パシフィック」誕生の瞬間だ。
懐かしいな。
最初は仕事が入らず困ったもんだ。
昔ニグラードが助けた旅人が行商人になっていて、そのツテで護衛の仕事を請けた。
噂は広がって仕事は早い段階で軌道に乗り、規模が大きくなって、クラス分けや部門分け、新しいメンバーの雇い入れを行っていく。
あの頃も忙しかったし、分からないことばかりで右往左往していたっけ。
何よりあの頃は自分自身で依頼をこなしていた。
楽しかった。
…
いかん。歳を取ると昔を懐かしんでいけない。
…
疲れているのかな…
歪んでいく天井を見つめ、目を閉じた瞬間ストンと眠りに落ちた。
―――
「アンタ。最近大人になったと思ったけど、まだまだガキね」
「うっせぇ。いつまでも若々しい俺に嫉妬してんのか?」
「精神がガキだって言ってんのよ」
口をとがらせそっぽを向く仕草なんかも子供っぽさだ。
ヒロと出会ったのは今から32年前。
ベネディクトと私は冒険者だった。
当時は今のように明確にランクが分かれておらず、私たちは身の丈に合っていないモンスターの討伐任務を請けていた。
おまけにモンスターとパーティーの相性が悪く、あっという間にパーティーメンバーは殺され、私とベネットももうダメだと思った時、一人の青年がモンスターの腕を切り飛ばした。
それがヒロだった。
当時私が15か16歳で、ヒロが20歳くらいだっただろうか。
今でこそ髭面だが、当時は清廉な好青年だった。
とはいえ今でも髭さえなければまだ20代と言われて違和感はない…それはないか。
とにかく、この男の凛々しい顔立ちは当時からほとんど変わっていない。
童顔だと悩んで髭を生やし始め、今では貫禄すらあるが、外見以上に内面は全く成長していないようだ。
「まったく。エルフの血でも入ってんのかねぇ」
人種長耳属エルフ。
大昔には不老不死の種族などと呼ばれていたが、実際は人間よりも老化スピードが凄まじく遅いだけで、老いて死ぬことも当然あるらしい。
そのエルフと人間が結ばれ生まれる子供は、人間としては長寿でエルフとしては短命となる。
ビルドの部門長マリンも母親がハーフエルフのクォーターエルフだ。
そんな感じで血が混ざりあうことで長生きする人間がいる。
「それはねぇよ。俺にゃ精霊は見えねぇし、何よりエルフって見た目じゃねぇだろ」
エルフは美しくきめ細かい金髪で、体は男女共に細く、顔は美形だ。
耳が長く、精霊と会話ができるらしい。
人間には見えないので、虚空に話しかける危ない種族と思ってる者も多かった。
ヒロを見れば、太くガサついた黒髪に、体は全体に分厚く、髭の生えた顔は厳つくエルフっぽさは皆無。
誰が見てもエルフとは結び付くまい。
単に歳が外見に出ないだけで、内面のガキっぽさが加算されて若く見えるのかもしれない。
その一方で私の白髪はヒロが面倒を起こすたびに増えたし、眉間のシワはヒロが問題を起こすたびに深く刻まれていった。
コイツの分まで私が歳取ったという事か……?
そう思うと妙に苛立つ。
「痛ッ。え、何?」
おっと。滑った足がヒロのくるぶし辺りに当たってしまった。
いけないいけない。気をつけねば。
「足元おぼつかないの?危ないよ。お婆ちゃん」
ッ!!!
―――
交易都市ミレニアム。第二区の住宅地区。
元堀の運河に面した通りにあるテラスドハウス。
その三階からはキラキラと太陽の光を反射する運河と、第一地区にあるギルドや神殿などの大きな建物が見える。
出窓に頬杖をして物思いにふける少女。
彼女は先日仕事でルールを破り、死にかけるもなんとか生還した。
仕事仲間はその仕事で文字通り生と死の淵を彷徨った。
とても危険な仕事だった。
そして今回彼女は痛感した。
「火力不足」を。
敵に対する対処は的確にできていただろう。
しかし、こちらからの攻撃は決定打となりうるものではないと悟った。
仲間の一人はテクニックで敵を翻弄し、隙をついて効率的に攻撃を行っていた。
一人は魔術でスピードと攻撃力を強化していた。
一人は的確に隙を狙って、一人は見方を援護しながら味方の作った時間で強攻撃を放っていた。
そしてもう一人は伝説に語られる魔法の使い手であり、それの使用に耐えうる魔法適正を有している。
「…はぁ」
大きなため息が出てしまう。
本気で自分には才能があると思っていた時期が懐かしい。
実際私は人より飲み込みが早いだけで、特別な力もなければ、突出した才能もない。
むしろ火力が足りないなんて。
私の魔法適正はB-。
魔力容量がA。吐出能力がC-。魔素吸収効率がB。
魔力を魔法や魔術として出力する能力が低いのだ。
大きい酒樽に小さい蛇口。
どんなにたくさんのお酒が入っていても、ちょろちょろとしか出てこない。そんなイメージだろう。
ホムラの場合、底が抜けた酒樽か。
ドバッと出すことができるので、高出力の魔法や複雑な魔術も行使できる。
ただ、魔力容量と吸収能力は伸ばすのは難しいが、吐出能力は伸ばす余地があるらしい。
そう言えば、ブリッケンの権能因果を帯びた矢を魔術で止めたとき、私の吐出能力ではありえないはずの魔力欠乏が起きた。
あの体の内側が焼ききれそうな感覚は吐出能力を無理やり広げたせいだろうか。
思い返せば、最後のほうに使っていた土操魔術や爆操魔術の出力が上がっていたような。
「よし!」
無理やり限界を超えるような出力を出せば、少しずつ能力が上がるんじゃないか。
そう思い立てば後は行動あるのみ。
階段を駆け下り、玄関を出る。
外に出ると道路へ降りる階段。扉が少し高い位置にある。
理由は半地下があるからだ。
スロープで半地下へ降り、青のペンキで塗られた扉を開ける。
すると外の明かりが入り、中を照らす。
小さいタイヤを前後に持ち、丸いヘッドライト。風防と外装はかわいらしい黄色に塗装され、赤のストライプが一本入る。
私のバイクだ。
充填機から蒸気タンクを外し、バイクのシート下に挿入。プシュッと蒸気が一瞬漏れる。
タンクを時計回りに回してロック。
車体横に畳まれている金属の棒を起こし、それを力いっぱい体重を乗せて蹴り下げると
シュッパタパタパタパタ
エンジンが回り始める。
タンクから放出される蒸気がピストンを動かす。
蒸気式はスピードは出ないし、航続距離もお世辞にも長いとは言えない。
けど魔導式の乗り物は乗り手の魔法適性に大きく左右されるから、私には少し不安がある。
まぁ魔導式でもよかったんだけど、この蒸気式を譲ってもらえたのでこれを使っているわけだけどね。
パタタタタタ
子気味いい振動と共に街の外へ走り出す。
―――
ギルド「パシフィック」
魔神騒動はあっという間にギルド内に広がった。
食事の話題はそれで持ち切りだ。
何よりもその騒動の渦中にあった人間がギルド内の掃除などの雑務を言い渡されているのだ。
直接根掘り葉掘り聞けるのだから盛り上がらないわけがない。
「バッハハハハ!ソイツぁ災難だったな!」
「よく生き残ったじゃねぇか。大したもんだぜ」
「デュフォ!そっそっそれはさっささ災難でしたなぁ。あ、もう言われてる?あ、すぅー……」
「無事でよかったわ。それはそれとしてしっかり反省なさいな?」
ギルドはいつも通り賑やかだ。
一通りイジり倒せばみんな次の依頼を探しに行ったり、作戦会議を始めたりしてまた別の賑やかさ。
ただそんなギルドの中でいつも通りではない者たちがいる。
受付嬢たちだ。
いつもなら笑顔でギルドメンバーと雑談でもしながら手続きをしているが、ここ数日受付嬢たちは張り詰めた表情で仕事をこなしている。
例の騒動の発端である、依頼の受注の不手際。
それを厳重注意されたことから気が張っている。
というのもあるだろうが、大きな要因はもう一つある。
それはもう一人のいつも通りじゃない者。
ヒロだ。
いつもなら愛想よく豪快に笑いながらギルドメンバーと談笑している彼だが、任務から帰還してからはギルド長と言い争い、誰とも話さず葉巻を吹かしている。
人類最強の怒気は普通の人間には失禁ものだが、その怒りが彼女ら受付嬢に向けられているともなれば気が気でないだろう。
おまけにモコの証言では、防音がなされているギルド長室の外にいても聞こえるほどの音で机を叩いていたという。
その話も相まって彼が身動きするたびに全員身を強張らせる。
実際にはヒロの怒りは彼女らに向けられているわけではない。
ギルドの管理体制、首謀者、そして己に向けられている。
とはいえ彼の放つ凄まじい怒気が周りに影響を及ぼしているのは間違いあるまい。
「ふぅ。床掃除完了!」
「こっちも食器洗いひと段落着いたぜ」
「俺もトイレ掃除終わった」
クラスブルー「シーガル」
マオ、ベルトルッチ、ジオの三人だ。
「まったく、掃除してても話聞かせろってしつこいんだもんなぁ」
「そうなるだろうと思ったから俺たちは皿洗いとトイレ掃除選んだんだわ。な?」
「あー!そういう事だったのね!やけに素直に面倒くさいの選んだと思ったら」
任務を受けられず、掃除屋として働いている。
肉体労働なのは変わらないので体力的には問題ないようだが、任務ごとに同じことをしない仕事から、ルーティンでやることが決まっている仕事になったことが一番効いているようだ。
「…」
「どした?ジオ」
「いや、ヒロが最近機嫌悪いだろ?それでギルド内の雰囲気が少し…」
「確かに重いというか、なんか息苦しさはあるわな」
これだけ大きいギルドになると、だれか一人の機嫌が悪いぐらいじゃ全体の空気は変わりはしない。
が、ヒロほどの影響力を持てば話は別だろう。
いつもと変わりなく賑やかだったが、少しだけ空気感が違った。
「まぁ私たちがどうこう言える立場じゃないしね」
マオが肩をすくめながら苦笑いする。
彼女たちは今罰を受けている身であり、ヒロが機嫌が悪い原因の一つに入っているため、この問題に非常に首を突っ込みづらい状況。
「まぁな。どうしようもねぇんなら考えても無駄だぜ」
「…あぁ」
「あの人ってああいう子供っぽいところがチョイチョイあるのよねぇ」
シーガルの三人は掃除用具を片付け、事務所へと戻り事務仕事へと移る。
この後掃除が甘いと呼び戻されるのだが、彼女らはまだ知らない。
―――
バチバチバチ
「はぁはぁはぁ…ッうおぉぉぉぉ!!!」
バリバリバリ
ジャックの魔術「雷装」は筋肉の摩擦によって発生する微弱な静電気を魔術で増幅させる。
発生した電気による筋肉の痙攣でまた増幅される。
増幅に増幅が重なっていくと、今度は筋肉が耐えられなくなり、筋繊維が切れてしまう。
なので力を制御しなければならない。
制御がままならないのに高出力化は危険だから。
「ウグッ!」
魔神騒動から三日が経つが、その時に使った雷装による炎症。つまり筋肉痛が全然治らない。
「休んでた方がいいんじゃないのか?」
近くで魔法の練習をしているのはホムラだ。
あの一件以来、魔法を使う感覚を取り戻すために繰り返し練習をしている。
二人がいるのはミレニアムの外側。
南側の草原「トブト草原」
広くて魔物も滅多に出ない穏やかな場所。
魔法や魔術の練習にはもってこいだ。
距離をあけて別の冒険者の一行が模擬戦のようなことをやっているのが見える。
「はぁはぁはぁ…あの時の感覚を…忘れないうちにもう一回やって…体に覚えこませるんだ…休んでる暇はない…」
先の戦いでジャックは限界を超えて力を使った。
限界を超える瞬間の感覚が力の制御へつながると考えて今訓練している。
しかし限界まで魔術を行使するということはまた筋肉を痛めていくという事。
動けなくなることを考え、ホムラを連れてここへ来たのだ。
「ん?」
「…?なんだよ」
「いや、あれってモニカじゃないか?」
少年二人の目線の先には目立つ黄色に赤のストライプが入ったバイク。
パタタタと子気味いい音をさせながら青空の下、壮大な草原の中を疾走している。
ヘルメットとゴーグルで顔は見えないが、服装はモニカで間違いないだろう。
遠くて聞こえないが、体をメトロノームのように揺らしながら歌っているようだ。
ルンルンで走る彼女を二人が目で追っていると、バイクに乗っている少女がこちらに気付いた。
とっさに目をそらす二人。
知り合いに見られたくない部分だったかもしれない。
そんな気遣いだった。
キキ―ッ!
視界の外でブレーキ音。バイクが止まったのだろう。
5秒。
何も起きない。
ジャックとホムラはゆっくりとバイクが止まったであろう方向へと顔を向ける。
そこには顔を真っ赤に染めてプルプルと震え、こちらを睨む少女がいた。
―――
「怪しい動きはないですね」
「そうねぇ。いい男ってこと以外分からないわ」
「腰くねらせないでください。怪しまれますよ」
「それはもう時すでに遅すぎって感じじゃないから?」
「そうですけど…」
「もう一人は?」
「いませんね…もう半年以上姿を見てません」
「私はまだ一度もあったことないんだけどねぇ」
「タイミングが悪かったんでしょう。とりあえずは彼の監視を続けないと」
「了解♡」
―――
「んぅぅ…」
頭いてぇ…
割れそうだ…
…いや、もう割れてんのか!?
チクショウ…どこの魔王だ…
「おい。起きなおっさん。もう店閉めたいんだが?」
あぁ…なんだ…飲みすぎか。
クソ。
店の外へ出ると真っ暗だ。
夕方くらいに飲み始めた気がするんだが。
「酒クソ弱ェのにペース速いからだ。2杯で潰れやがって。体大事にしろよ」
…
店主には悪いことしちまったな。
今度は飯だけたらふく食うことにすっか。
にしても流石蒸気都市というにふさわしい。
夜になっても蒸気が噴出し続け、湿気と熱気でサウナの中にいるようだ。
冒険者としてしばらくの飯代稼いで、飲んだくれて。
金がなくなったらまた次の依頼を受ける。
いつまでこんな生き方してりゃいいんだろうな。
蒸し暑いベン=ドレーでフードを深くかぶり、おまけに手袋までした中年の男。
最近やってきた冒険者をやっている旅人。
一人で難易度の高い仕事を請け負い、日銭を稼いでいるという。
腕は立つようだが誰とも組むことはない。
「アイツが噂の"片手袋"ってやつかい?」
「さてな。酒には弱いし、面もあんまり強そうには見えなかったがな」
いつしか付いた二つ名だ。
男は手袋を両手にしてるのに"片手袋"と呼ばれている。
おそらく一人身であることをかけているのだろう。
どうせしばらくしたら街から消える。
彼を奇異な目で見ている街の人間はそう思っていたし、実際翌月には姿を見なくなった。
任務で死んだか、酒の飲みすぎで死んだか。
そんな噂まで立つ頃、男は結局交易都市ミレニアムへ向かっていた。
「結局ここか…」
俺は訳あって王都には行けない。
行きたくないというのが本心だが。
交易都市ミレニアムはたくさんの行商人や各地の冒険者なんかが集まるため、お互いのことを一々詮索したりはしない。
そういったところで居やすい場所だった。
そんな街であっても気の進まない理由。
総合ギルド「パシフィック」
この街には冒険者ギルドがここを合わせて四か所しかない。
この規模の街なら東西南北に大きめのギルドが散らばり、その間に小さめのギルドが何個か点在するのが一般的だ。
しかし、この街では「パシフィック」の規模が大きすぎるのと、信頼の高さ、対応できる依頼の幅が広くて便利だと言うので、依頼がここに集中してしまっている。
ここに依頼するほどでもなくて最寄りのギルドが別にあるっていう奴くらいが残りの三か所を使う。
そのせいで小規模ギルドには稼ぎの良い仕事が回ってこない。
蒸気都市からの移動で旅費が想定以上にかかって金がない。
気は進まないが、当分の金を稼ぐには致し方あるまい。
会いたくない男も忙しくてそうそう帰ってこないはずだ。
「金はいる…」
そう言って男はギルドの扉を開け、中へ入っていくのだった。
―――
「休みの日はしっかり体を休めろと言ったはずだぞ」
「ふぁーい…」
ミレニアムの外。トブト草原。
呆れた表情の男の言葉に、力の抜けた返事を帰す満身創痍の少年少女。
軽いチョップを見舞われたが、それ以上の叱責はなかった。
ホムラは魔力の限界に挑戦して魔力欠乏。
モニカはホムラの魔法をレジストすることで、魔力吐出能力向上させる訓練で魔術回路が暴走。こちらも魔力欠乏。
ジャックは、怪我の度合いにランク付けするなら『神級の筋肉痛』で身動きが一切取れなくなっている。
「ほら。帰るぞ」
大きなオフロードタイプの車に、モニカのバイクを括り付け、三人を車へ運び入れる。
見方によっては身動きの取れない子供をさらう人攫いだ。
「全く手のかかる子供たちだな」
ヒロは、やれやれといった感じで肩をすくめ、車を走らせた。
後部のベンチシートに寝かせられた三人は既にぐっすりと眠りに落ちている。
夕日が真っ赤に染める道を行く。




