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第一章 覚醒編 魔術戦士

森の中を疾走する。

木漏れ日が心地よさそうだ。

魔獣の森ほど鬱蒼としていない。


もちろん森林浴を楽しむ余裕なんてない。

皆が稼いでくれた時間。

それを無駄にすることなんてできない。


助けを呼ばなきゃ。


大事となることに村長たちはおそらく嫌な顔をするだろう。

知ったことではない。

このままだと被害は私たちだけでは済まないと思う。


ヒロが来てくれれば心強い。

が、あの人は今「赤級クエスト」で留守だ。

しっかり状況を説明すればクラスパープルを派遣してくれるだろう。

できれば聖魔法使いが来てくれればなおのこといい。


どれだけ時間がかかるかな。

ミレニアムからここまでトラックで2時間かかった。

どんなに飛ばしても1時間はかかると思う。

村からみんなのところまで20分といったところだろうか。


泣きそうだ。

でも泣く訳にはいかない。


応援を呼ぶ。これも重要な任務だ。

やりきる。やりきらなきゃいけない。


キシャアアアアア!!!


「えっ!?」


ドォオン!!


急に木の陰から現れた巨大なネズミ。それが人間よりも大きな岩を投擲してきた。

間一髪避ける。


フェラシアラット


魔獣だ。

そうだった。

ブリッケンの加護の影響で魔獣が寄り付かなかっただけで、いる。

こんな時に…

でも魔獣と遭遇したということは、ブリッケンとは距離をとれたという事か。


「縄張り荒らしてごめんよ。急いでるんだ」


そう言って走る。

フェラシアラットはどうやら鈍足らしい。

追いかけてはきたが、いつぞやのグレズリーほどではなかった。

まぁあの時はあちこち骨折してたし。


少しずつ距離が離れていく。


シャアアアア!!!!


悪寒。

真後ろを巨大な何かが横切った。

振り向くと巨大なネズミはそこにはもういなかった。

ヌメヌメッとした質感の巨大な円筒状の物体が横たわる。

全身鳥肌が立つ。

蛇だ。

フォレストサーペント。直径1.5m、全長不明の超巨大な蛇。以上。

走る。超走る。


今私はこの森林の中において、食物連鎖最下位だということだ。


硫黄の臭いがツンと鼻を刺激した。

村は確実に近づいている。


でももう一つ近づいているものを私は察知している。

近づいてくるものからは何も感じない。

音や殺気はおろか気配も感じない。

魔物の気配が消えた。

それだけでソレが近づいていることが分かる。


予感。

―大気魔法・空揺探知(ソナーディテクション)―

空気の動きから周辺の動体を察知する魔法だ。


不自然な空気の揺らぎ。


左後ろ上方。木から木へ移動してる。

移動速度、私とほぼ同じ。

様子を窺うように少しずつ距離を詰めてきている


補足されてる。

仕掛けてくるタイミング…

揺らぎ。


今!

―気操魔術・辻斬り(ヴァキュムスラッシュ)―


真空で不可視の刃が衝撃波を両断し散らす。

音はしない。


「なに?!」


木の上にホムラ…の姿をした悪魔ブリッケンが、驚いた表情で立ち尽くす。

―辻斬り―を数発撃ちこむ。

距離があると威力が大きく落ちるけど、不可視の刃は良いけん制になる。

私は再び村へ向かって走りだす。


向こうも追って移動を再開したようだ。

また揺らぎ。さっき細く速い。


ヒュン…トスッ


足元に鉄芯の矢が突き刺さる。

…ジャックのだ。

また揺らぐ。


魔力をステッキに流す。

ステッキに埋め込まれている魔石が光る。

魔力が通ることで魔石が微細に振動し、魔法を増幅させる役割を持っている。


増幅振動数は魔法の属性ごとに違う。

私のステッキに埋め込まれている魔石は"大地ノ時雫"

土魔法、土操作魔術系の増幅石。


ベルトルッチに魔術を教わった時に貰った。

そしてベルトルッチに教わった魔術

―偉大なる(グレート)守護者の(ガーディアンズ)盾(シールド)―

地面が隆起し、人ひとりを覆えるほどの大きな盾となる。


ガァン!


鉄芯の矢が大きな音を立てて弾かれる。


そして私は地面から生えた盾に手を添える。


―炎操魔術・大地爆散弾(ガイアショットガン)―


強烈な爆発によって岩の盾は砕け、無数に散り飛んでいく。


「んぐぅ!?」


うめき声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

爆音で耳鳴りがひどいんだから。


相手がどうなったか気にすることなく村へひた走る。

役目を果たすんだ。




ブリッケンの誤算は続く。

今回依り代候補としてやってきたパーティーの中で、一番弱いと断じた少女。

道中の会話、ミストとの戦闘、ブリッケンとの戦闘においても、大したことのできない普通の少女にしか見えなかった。

権能因果で補強されていた矢を魔術で一瞬でも止めた。

この時に警戒をするべきだった。

そして今、楽にとどめを刺せると思い、最後は元狩神らしく狩りのスタンスで殺そうとした。

気付かれずに近づき、気付かれることなく狩る。


少女は気付いていた。


狩神としての権能である、”殺息”を看破した。

そして驚くほどに機転の利く戦闘。

今、少女は救援要請をするべく村へ向かっている。

ブリッケンと正面切って戦うわけにはいかないはずだ。

だから抵抗として、あっても移動阻害系の時間稼ぎしかしてこないだろうと思っていた。

だが彼女は的確な防御を行い、明確な攻撃をしてきた。

サポート系魔術師じゃない。

立派な魔術戦士だ。


だが脅威ではない。

威力一つ一つが弱すぎるのだ。

押し通せば倒せる。


―権能因果・約束された神矢―


必中の因果に神だった頃の残滓を乗算させた。

名を捨て神性反転し悪魔となったブリッケンだが、捨てたあのは「メイリューク・ハイズ」で、ブリッケンの名は残っている。

彼は既に悪魔だが、その一節の名前に残る神の残滓が残っている。

その残滓を乗算させた矢は、「狙った獲物を逃さない」という狩神の因果が付与されていた。


モニカはとっさに偉大なる守護者の盾を展開する。

しかし神性因果が付与された矢は、盾をいとも容易く破壊し、彼女の胸を貫いた。

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