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第一章 覚醒編 ジオ

ジオ。目つきの悪い少年。

本名ジオライト・ブラッドムーン。

父親はロイド・ブラッドムーン。母親はミーシャ・ブラッドムーン。

二人とも冒険者。フリーで活動していたロイドが、ミーシャのパーティーに誘われたことが出会い。

かわいらしい妹のジュリ・ブラッドムーン。

ブラッドムーン家の長男のジオライトは活発で、明るく近所からも愛される子だった。

片田舎の農村にいた一般的な幸せな家庭だった。


そんな村が悪魔に襲われた。

ネームレスを従えた権能持ちの悪魔だ。

父と母は冒険者だったため、村の戦力として駆り出された。

しかし、悪魔たちの強さと数は、村の戦線を瓦解させるのに十分だった。

少年は妹を護るために、父親の予備の剣を手に取り悪魔と戦った。

彼は11歳にして6体のネームレスを殺した。

しかし、所詮は子供。

長く続くはずもなく、7体目との戦いで後れを取ってしまう。

少年を壁に投げ飛ばし、とどめを刺そうとする悪魔。

少年は最後まで妹の前に立つ。


悪魔は両断された。

少年は助かったのだ。

そこに立っていたのは屈強な髭面の男。

左二の腕に巻かれた赤いスカーフが目に焼き付いた。


この人が自分たちを助けてくれるんだと、少年は思った。

しかしそんな思いとは裏腹に、男は少年をわき見見て去っていった。


冷たく突き放すような恐ろしい目だった。


すぐに8体目の悪魔が来た。

そして少年は成す術なく吹き飛ばされ、植え込みに突っ込み気を失った。


大人が呼ぶ声で少年が目を覚ます。

権能持ちの悪魔が倒されたことで、全て終わったと大人たちは言う。


少年は辺りを見回す。

妹は?父と母は?


少年が問うと大人たちは憐憫の表情を浮かべ、彼らの死を告げられた。

父の遺体は大きく欠損していた。母は苦悶の表情を浮かべ息絶えていた。

妹は二つに分かれていた。


子供たちにデレデレで、威厳ある父親を演じようとするといつも空回りする父。

怒るときは厳しく怒り、それでいて愛してくれた母。

お兄ちゃんと慕い、どこに行くにもついてきた可愛い妹。


それが一瞬で奪われた。

なぜこんな目に合わなきゃいけないのか。

自分がもっと強ければ。


そう自責していた少年の目に映ったのは、権能持ちの悪魔を打ち倒し、村人たちに感謝される男。

竜種の鱗でできた鎧に身を包み、赤いスカーフを腕に巻く髭面の男。


自分と妹を見捨てた男。


だが恨みはしなかった。

あの時、自分たちにあの男が付きっ切りになれば、それこそ村は全滅していただろう。

自分の力不足だ。と言い聞かせた。


時が流れて少年はガーディアンになった。

人々を護るため。自分と同じ思いをする人がいなくなるように。


そこで再び出会った。

赤いスカーフを腕に巻いた髭面の男。

その男は「人類最高峰」と評されている。


少年は彼の下で修業すれば力を手に入れられると思った。

自分の指導役になってほしいと懇願した。

周りはみんな少年を応援してくれた。説得もしてくれた。

しかし男が首を縦に振ることはなかった。

「弟子を取る気はない」と言われた。

だが違った。

「アイツの目が怖い」

風の噂で男の言葉を耳にした。

家族を失ってから鏡を見ていなかった。

そこに映ったのは悪鬼のごとき恐ろしい顔。

少年は落ち込んだが納得した。


それから1年後。

その男に弟子ができたと聞いた。

生意気そうな少年とオドオドした少女。

俺の時は頑なに首を縦に振らなかったのに、指名してまで弟子を取る理由が分からなかった。


だが今は分かる気がするな…

アイツらの目は本物だ。ずっと先を見据えるジャックと、広く様々なことを見ているモニカ。

俺は目の前。自分の足元しか見ていなかったんだ。

今俺は足がすくんでいる。

マオを一撃で消し飛ばしたブリッケンに。何をしても効かないブリッケンに。

そんな敵を前にしてジャックは戦っている。

時間稼ぎだ。

俺たちじゃどうにかできる相手じゃないのに。

モニカはベルトルッチを安全な場所へ連れていき、助けを呼びに行った。

あぁ。

俺はまた誰も護れない…


このままでいいのか。

いいわけがない。

剣を抜く。

が足が動かない。

クソッ…


バァアン!!!!


すぐ近くで激しい閃光に轟音。

雷鳴だ。

ジャックが戦っている。

いつまで木の陰に隠れてるんだ!


「う…うおおおおおおおお!!!」

「むっ。もう一人残っていたのか。つまらんなぁ」



―魔術回路(マジックサーキット)起動(アクティベイト)・血操魔術・二倍流速(ダブルベロシティ)―


魔術回路を起動した瞬間、心臓に大きな力が加わる。

心拍数が倍に、呼吸も荒くなる。


世界が遅くなる。



ブラッドムーン。

それはまだ二世代しかない家名。

ジオの両親が結婚する際、両家の反対を押し切ったため、二人とも勘当されている。

そこで新しく家名を作ったのだ。

母ミーシャの血操魔術と父ロイドの剣術…


月静本流・三日月


血操魔術によって高められた身体能力と剣術が合わさる。

目にもとまらぬ剣筋。

残るのは三日月の残像。


残像はブリッケンの胸を通っていた。


「ぐぅ!?」


ジワリと血がにじむ。

刃が通りきらなかったか。


「今のでやっと貫通かよ…」


普段であれば今の一筋で心臓を切ることができるはずだったのだが、衣服と皮膚を少し切るにとどまった。

魔套鎧に斬撃が防がれている。とてつもない硬さ。尋常じゃない。


ヒロ並みかそれ以上の防御。(ヒロは魔套鎧に加えて鋼破龍ノ鎧を着こんでいる)

そんな化け物級を相手にしていると再認識し、また身が震える。


ダメだ…恐怖に飲まれるな…!

逆に考えろ。

せいぜいヒロくらいの防御力。人間と変わらないじゃないか。

そうだ元神だからって絶対勝てないわけじゃ……

……………

ヒロって神レベルなのか?


「危険だな。雷野郎より先に殺すか」


馬鹿なこと考えてる暇はない。

俺に向き直ったブリッケンが剣を抜いた。

コイツ遠距離だけじゃないのかよ。


「この体は具合がいい!みなぎってくるぞぉ!」


知り合いの顔で変なテンションでしゃべるな。

違和感で変になりそうだ。


ガキィン!


ブリッケンは力任せに剣をふるう。

乱暴な剣だ。

何のひねりもないし、避けれない攻撃じゃない。


「ジャック!!手を貸せ!!」

「あいよ!」


血操魔術は心臓への負荷が半端なくでかい。

だから何回も使えないし、長引くなら出力も抑えなきゃならない。

さっきはあれで仕留めるまではいかなくても、しばらく再起不能になることを望んでたが駄目だった。


でも二倍で貫通はできる。

魔套鎧を切ったということは、それに供給する魔力量を上回る攻撃が入ったということだ。

あれだけの魔力開放ができる魔力吐出能力を上回ったということだ。

相当量の魔力を消費させたということ。

ならジャックの援護込みで戦えば、魔力切れを誘うことができるはずだ。



―血操魔術・一半倍流速(ワンハーフベロシティ)―


―――


ジャック、ジオは左右に散開する。

当然ブリッケンは、自分に傷をつけたジオを警戒する。


ジオのほうが間合い的に近いのもある。あと一歩半詰めれば間合いの中。

自然にそっちに意識が傾く。

しかし、もう一人はまた別で厄介だった。


ヒュン

ガキィン


遠距離攻撃。

当たっても魔套鎧によって刺さりはしない。

が、当たることで手元が狂いかねない。

さらに知ってか知らずか、ジャックは鉄芯の矢を使い始めた。

重い矢だ。足に当たれば体制を崩すことができるだろう。


矢を剣ではじいた瞬間、ジオが間合いを詰めた。


ドンッ


範囲を絞った魔力開放。ジオの頭を狙う。

命中した。

しかし、ジオもまた斬っていた。

ブリッケンは少し焦る。

今度は魔套鎧は貫通しなかったが、魔力がゴッソリ消費されたと認識した。


ジオは頭を打ち抜かれ、意識が遠のく。


「寝んじゃねぇ!」


ジャックの放電。

バチッ


ジオの意識が戻ってくる。


「あぁ!起きてる!」


二本の矢の矢が放たれている。

ブリッケンがジオに気を取られた隙に放たれていた。


「クソッ」


一本は身をよじって避けた。

もう一本も剣で弾ける…


!!


鉄芯の矢じゃない。雷矢だった。

剣で触れた瞬間、体中に電撃が走る。


「ぐぅ!?」


体が硬直する。


ブリッケンは正直油断していた。

乗っ取られたとはいえ、身内を殺すのに躊躇するだろうと。

誤算だった。

少なくとも目の前の二人は殺す気でいる。

自らを浄化できるものがいないのは道中の会話で把握していた。

自分が滅びる可能性はない。が、せっかく手に入れた依り代。

しかも内包される魔力量、吐出能力の高さはまさに神代の魔導神に匹敵するだろう。

ソレを失うのは惜しいと考えていた。


ズババッ


硬直したブリッケンにジオの剣が見舞われる。

一撃目は魔套鎧で防がれたが、二撃目は左二の腕を半分切っていた。

刃は骨で止まった。


「チィッ」


ブリッケンはすぐに回復する。

吐出能力を上回った攻撃が来ただけで、魔力が空になったわけではない。

それでもゴッソリ消費している。


パリパリパリッ


空気が電気を帯びる。


パァン!


一撃。


パァン!


二撃。


パァン!


三撃。


ブリッケンは視認できなかった。

そのすべては魔套鎧を貫通するほどのものではなかったが、速度が乗った打撃は骨にひびを入れた。

おかしい。前はこんなに速くなかったはずだと。


見るとあちこちに鉄芯の矢が突き刺さっていた。

避雷針だ。

体から放電し続けるジャックとその避雷針たちが常につながっている。

当てる気がなかったのは、周辺にこれを配置したかったからだった。


「なかなかやるじゃないか」


ブリッケンは感心した。

事実、綺麗な連携とは言えなかったが、しっかり自分を追い詰めれるだけの攻撃を喰らわされている。


最早手を抜く余裕はなくなっていた。


ドォン!!


広範囲への魔力放出。

ジオ、ジャックが吹き飛ばされる。

衝撃波の中心には当然ブリッケンがいた。


「ぐっ!」

「ガハッ!」


木に激突し、呼吸ができない。


「死ねぇ!ガキ共ぉ!!」


二人に手を突き出し、惜しみなく魔力を込める。

範囲を絞り、狙いを定める。

吐出能力を最大限使って確実に殺す。


ズバァ!!!


魔力は霧散した。


大量の魔力を溜めていた両腕がなくなっていた。

使える魔力をすべて回したため、魔套鎧もなくなっていた。

そうなればただの肉と骨。


腕を切り飛ばしたそれはフーッフーッと獣のような息遣いでブリッケンを睨む。


「マオ!」

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