第一章 覚醒編 ベルトルッチ・マキャベリ
……クソ…
後輩にいいとこ見せようって張り切った結果がこれかよ。
最近入ったばかりで魔法が使えない後輩は悪魔に乗っ取られ、生意気で優秀な魔術回路を持った後輩は頼りにならねぇ先輩たちの代わりに戦い、呑み込みが早くて優秀な魔術師の後輩は頼りねぇ先輩を抱えて…
ベルトルッチ・マキャベリ。
父クランク・ピドマリー・マキャベリ。母フューリー・ピドマリー・マキャベリ。
由緒正しい魔術師の家系、マキャベリ家。本家ピドマリーの三男。
上に兄2人と姉1人。下に弟と妹1人ずつ。
優秀な長男は10歳にしてマキャベリ家に代々伝わる魔術すべてを習得。次期家長は確実だろう。
奔放な次男は興味のある魔術だけを習得したが、それを極め、回路の効率化と高出力化を実現させた。
勤勉な長女は王立の学校を主席で卒業し、王宮の文官として勤めている。
したたかな四男は友人をたくさん作り、王族の子息ともコネクションを作っている。
4歳になる次女はマキャベリ家にとって新しい系統の適性がありそうだということで、5歳になったら英才教育が始まるそうだ。
三男のベルトルッチ・マキャベリ。
彼はピドマリーの名を持たない。
出奔したのだ。
優秀な兄弟姉妹に囲まれ、息の詰まるような教育漬けの日々。
彼は決して落ちこぼれだったわけではない。
むしろ一族の中で最も思考が柔らかく、応用を利かせることができる。
長男と次男の良いところ取りのような子に、親や分家の親戚まで彼に期待をした。
しかし、起きている間は勉強の時間。自由はなかった。
そして彼は壊れた。
不眠症から自律神経が狂い、自分では立つことができなくなった 。
情緒が不安定になり、暴れるようになった。
かと思えば遠くを見てすべての感情が抜け落ちたかのように座っていたりもした。
妹の1歳の誕生日。
一族が一か所に集い、盛大に祝った。
ベルトルッチは自室で寝ていた。そう、なぜかこの日は寝れた。
泥のように。
こんなにしっかりと寝るのは何年振りだろうか。
彼が目を覚ましたのは瓦礫の中だった。
マキャベリ本邸。崩壊。
多くのけが人が出た。
マキャベリ家に対する攻撃として騎士団とガーディアンが出動し、救助活動と犯人探しが行われた。
それもそうだ。
末妹の誕生祝いにほぼすべてのマキャベリ一族が一か所に集まっていた。
恨みのある者の仕業だと考えるのが普通だろう。
ベルトルッチだけパーティー会場から離れた自室にいたため、救助隊が見つけるのに時間がかかった。
彼を見つけ出したのが後の指導役、ガーディアン・クラスパープル「アサガオ」のローレル・ファジルスコ。
本邸崩壊の中心にいたベルトルッチを発見した。
少年が寝ている間、マキャベリ家相伝の魔術―物操魔術・分解―が暴発し、建物を崩壊させてしまったのだ。
しかしこれをローレル他ガーディアン達は隠蔽した。
この少年は一人だけ離れたところにいて、目にクマを作り、ゲッソリしていて、焦点もあっていない明らかに危険な状態。
彼らは少年を保護した。
家族は思いのほかあっさりと別れた。もはや彼らにとってベルトルッチは役立たずのお荷物だったのだ。
ガーディアン諸兄は憤りを感じつつ、少年を連れ帰った。
それからベルトルッチは自由を手に入れた。
好きな時に好きな魔術を学び、好きな時に実践する。いやな時はやらなくていい。
彼は行き苦しい生活に壊れたのであって、魔術が原因ではない。むしろ好きだった。
彼はガーディアンとなり、ローレルに戦い方を学んだ。
が、依頼はほどほどに受けてあとは魔術の研究に没頭していた。
俺がガーディアンとなった特別な理由はない。
助けてくれたローレルがガーディアンだった。その程度のもんだ。
そしてマオと出会って彼の人生は大きく変わった。
外に出て、戦って、研究の成果をまとめる。
充実してたし、後輩が来て魔術を教えてほしいと言ってきたときは舞い上がったもんだ。
それがこのざまだ。
ベルトルッチは血を吐いた。
ブリッケンが氷の封印を爆散させたときの破片が肺を貫いていた。
それだけではない彼の脇腹は大きく抉られていた。
これも氷の破片だ。
そんな彼に肩を貸し、応急処置魔術で回復させながら逃げるモニカ。
「死なないでください!しっかり意識を!」
あぁ…死にかけてんのか…俺…
気ぃ失って昔のこと思い出して。
年下の女の子が泣くほどに心配かけて、運ばせてる俺ダセェわな。
俺を運びながらじゃアイツから逃げきれない。
「ゴポッ…モニカ、俺を置いて逃げろ」
「嫌です!見捨てない!助けるんです!!」
強情な子だな。
「一人で村まで走れ…通信機がある…それでギルドに応援を呼ぶんだ…」
「…嫌です」
「幸いミレニアムからそんなに離れてない…車がある奴なら1時間で着くはずだ…」
「喋らないでください!治癒が利かない…」
「もう魔力少ないんだろ…無駄だ…頼む…」
「……………」
「1を捨てて10を助ける……行ってくれ…」
いつだったかヒロが言ってた言葉だ。
非情さと同時に言葉の重みがあった。
「それ…違いますよ…捨てるのを前提にしてたらガーディアンじゃない…」
あぁ…まだ子供なんだな…
ここでお前まで死んだらそれこそ全滅だというのに…
ふと俺は降ろされた。
大きな木の露出した根が人ひとりを匿うような窪みを作っている。
体力の限界か。
しょうがないさ。
「ここで待っていてください」
何をする気だ?
まさか戦う気じゃないだろうな?
「私は…10を助けた後に1を助けに戻ってきます」
そういって少女は走り去った。
全く…強情な子だよ…
なら俺はここで待ってないとな。




