第6話 他所の子
「じゃあ、荷解きを始めるぞ。男共はテントの用意を。何人かは女達の手伝いをしてやれ。以上」
食事も終わり、街の外れとは言え大通りから一本道の空き地に集まる。
団員の男女の比率は四対一という割合で、低い声を上げ男共が返事をする。
「あの、コーニャさん。私は何を」
「レティーはー、アタシ達のお手伝いしてねー。今からここに張るテントは公演用のやつとー、それとは別にー、休憩所兼男たちの寝床のやつー」
「殿方だけ? 私達はどこで寝るんですか?」
「さっき食事したお店ー。あそこ元はただの食事処だけど、二階の部屋も貸し出ししててー、今はどっちかって言えば宿屋なのー。でも小さい店だから部屋数が少なくて、使うのは女性団員だけー。下の食事処は普通に営業してるけど、厨房借りる約束も取ってあるから、次の食事からは自炊になるかなぁ」
「なるほど! それで今から宿屋? ごはん屋さん? にコーニャさん達の荷物を運ぶのですね」
「そーう。レティーかしこーい」
「うふふ、褒められちゃいまいした」
頭を撫でられ、レティシアはふやふや笑う。
集まってすぐ他のメンバーへの通達をガレンが行ってくれたが、改めて女性メンバー達と挨拶を交わした。
皆レティシアより年上ばかりで、よろしく。何でも聞いてね。と優しそうな人達で良かったと、いつの間にかの緊張も緩んだ。
すぐに使わないストック用の重い荷物は男性が手伝ってくれ、レティシアは予備衣装の軽い物を受け持った。
遅れないようにと、最後尾をちょこちょことついて歩く。
婚約者であったノルマンに会いに行くため、何度か訪れた事がある町。訪れたと行っても馬車で通り過ぎただけだが、窓から覗く景色に一度降りてみたいと思っていた場所。
街の警備や維持は、領主が役場に資金を給付し行われる。そのため資金をケチる領主や、逆に役人が横領に手を染めるようであれば、それが顕著に町の雰囲気に現れる。レティシアは一歩大通りに出て、大きく息を吸い込んだ。
きちんと舗装された道に、不快にならない程度には清潔な街並み。行き交う人々にも活気があり、つられて足取りも軽くなる。
(知りませんでした)
あちらの世界を経験してしまったレティシアからすれば、食事は劣るし、勝手に開かない扉は不便に思う。それでも――
(この町は、こんなにも素敵な場所だったのね)
緩む口元を抱えている荷物で隠し、レティシアは跳ねるように足を早めた。
宿に荷物を運び終わったあと食材を買いに行く組と、テント張りの手伝いをする組に別れた。
レティシアは食材の良し悪しはよく分からなかったのでテント組に志願し、コーニャと一緒に空き地に戻ってきた。着いてすぐコーニャは別の団員に呼ばれどこかに行ってしまったが。
(そう言えば、ショーと仰ってましたが何をするんでしょう? 渚と入れ替わる前は部屋で本を読むしかなかったから、世間知らずと思われてしまうかも)
参加するには仕事内容をきちんと把握しておこうと、隅の方で座っている三人組に話しかけた。休憩中だったのか木の陰に隠れるように居た三人は、レティシアに声をかけられビクリと肩を震わせた。
「あのう、少しよろしいでしょうか?」
「な、なんだよ! 少し疲れたから休憩してただけだ!」
「今戻ろうとしてたんだよ!」
「え……あの」
「うっせーな。ちっ、いつまでこんなこと……。なのに団長も女引っ掛けるとか何考えてんだ」
「え? あ、あの……、行ってしまいました・・・」
引き止める間もなく、三人の男たちは作業へと戻っていく。
どこか苛立った様子の男たちにレティシアの眉も下がった。もしかして休憩の邪魔になったのだろうか。なんだか重たくなった足取りに、レティシアは駄目だと大きく頭を振った。
(しょんぼりしている場合ではないのです! しっかり働いて、お借りしている食事代と、しばらくの生活費を稼がなくては! ……ザーフィアスは素敵な町ですけど、ずっといるわけにもいきませんし)
出来るだけ距離を取りたい。
そのためにも旅費を稼ぐのだ! レティシアはくっと口をへの字に曲げ、気合を入れる。
「働か猿は食うべからずです!」
ふんすと鼻息荒く、忙しない男衆の中へと飛び込んでいく。
レティシアは最初に目についた、木材を運んでいる男に声をかけた。
「何でもやります! 私に出来ることはございますか?」
レティシアの身長よりも長い木材を運んでいた男は一瞬目を丸くしたあと、ここはいいから別のとこ行っておやり、と困った顔をさせてしまった。
ならばと大きな布を綱引きのように引く集団に同じことを問えば、先ほどと同一の返事をされ、さらに力仕事は無理だからとも付け足された。
となれば、荷馬車に積んでいた木箱を下ろし、中身を点検しているところへ寄っていくも、大事な商売道具だから慣れていない人にはちょっととお断りをされる。
「なんということでしょう……」
手伝うどころか、むしろ邪魔になっている。声をかける度に、眉を下げ逸らされる視線が申し訳なかった。
忙しそうに動き回る人々を、せき止めているのはレティシアだった。
レティシアは俯き、邪魔にならぬよう流れの外へと出る。そして僅かに顔を上げ、食い入る様に人の流れを眺めた。
木材を運ぶ者、それを組み立てる者。荷を解き仕分ける者に、何か紙束を持ち話し込んでいる――。
「あそこです!!」
キランとレティシアの目が光り、向かって行った先は空き地の中央から奥まったところにいるトマの元。先程からトマは作業に参加するわけではなく、紙の束を挟んだバインダーを持ち、そんな彼に入れ替わり人が話しかけに行く。
「トマさん、少々お時間よろしいかしら!!」
「え? レティーちゃん!? ど、どうしたの??」
「お仕事の指示を出していらっしゃるのは、トマさんですよね? 何か私に出来る事は無いでしょうか? 私暇です! すっごく暇しておりますので、なんでもやりますよ!!」
「わ、わかったから一旦落ち着こ? 近、近いから! ね!」
両腕を掴んで押し戻され、期待の眼差しでトマを見上げる。
ランランと輝く瞳は、主人の命令を待つ子犬のようでなんともむず痒くなる。
「えーと、そうだな。なら、出来る範囲でゴミをまとめてもらってもいいかな? 木くずとか、破損して使えそうにない木箱はあとで燃やすから、それは別にしておいてもらえると助かるよ」
「御意、です! 私、お母様より分別は厳しくお教えいただきました。是非ともお任せ下さいませ!!」
「ん? うん、よろしくね」
「はい!」
嬉しそうに返事をしたレティシアは、ようやく困り顔でないよろしくを貰えた。
「やるな、泣かなかったぞ」
「うわー。団長いじわるぅ。最低ぇ~。クズー」
空き地と隣接する建物の陰。
少し足を引けば死角になる場所で、コーニャの言葉がガレンを刺した。
「も、戻ったタイミングが遅かっただけで、断じてわざとではない! それに、お前が一人にするから」
「だって団長が勝手に人数増やすからー。若手が検問所と上手く交渉出来ないって言うしぃ、様子見に行ってたんですけどー」
「……それはすまない」
「で、なんでしばらく見てたんですかー? そういうご趣味が? やーん、だんちょーの変態ー」
「……滅多な事を言うな。誰に聞かれているか分からないぞ」
「だいじょーぶですよー。近くに知らない気配ないしー」
「それでも、だ」
ガレンは鋭い目つきでコーニャを睨む。
突き刺さる威圧にコーニャが戯けて謝罪を口にし、ガレンは大きなため息をつきレティシアへと視線を戻した。
「ただの世間知らずという訳でもなさそうだな」
「わぁはー」
コーニャはくふくふと口元を緩ませ、目を細めてにんまりと笑った。
「今後が楽しみですねー」
「そうだな」
「ふふふー」
「?」
「ちなみに団長ー」
「なんだ?」
「レティーのお部屋ーアタシと同室にしときましたぁー。うふふ♪」
「はあ!? 余分にひと部屋取っていただろう!?」
「あれはー、もしもの怪我人とかー急な病気ようでーす」
「だからって……おま」
「アタシ、かーいー子なら、なぁーんでもだぁーい好き」
「!!!?」
「じゃあ、そろそろ戻りまーす」
「待て! 早まるなよ! 他所様の娘さんだぞ!? ぜぇったいに早まるなよぉ!!」
「はいはーい」
「本当にわかっているのか!」
ガレンの大声は不要の麻縄を回収していた少女まで届き、レティシアがとぼけた表情で顔を上げた。




