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先頭集団

 貴文達の先頭集団は忠良達と分かれてから、10体以上の敵の集団に遭遇する事もなく、順調に進んでいた。


 「トテモ敵が少ないデスネ」

 「こちらの動きに合わせて、牧戸交差点に集結したのもあるでしょうし、郡上市の市境にも集結してるでしょうから、その二つの間はこんなものだと思いますよ」


 ジョージは偵察の為に先行せずに、貴文達と行動を共にしていた。主力が半分に減った先頭集団の戦力を、これ以上分散したくないという貴文の判断だった。


 「後輩ちゃん、郡上市側からは何か言ってきたかい?」


 貴文の呼びかけに、開戦初日から連絡・情報収集に従事していた村役場の若い女性が進み出てきた。


 「貴文さん、後輩に間違いないですけど、ちゃんと寺口真理という名前がありますから名前で呼んでください!何だったら下の名前を呼び捨てでもいいって、いつも言ってるじゃないですか」

 「はいはい。それで何か情報は?」

 「もう!え~と郡上市側からは攻撃を続行中とだけ。敵が多くてなかなか進めないようです。もう少し詳しい状況を知りたくて女子職員のネットワークで情報を集めたら、攻撃の初期に主力の岐阜県警機動隊を中心とする警察の部隊が崩れたそうです」


 貴文はその言葉を聞いて、思わず立ち止まって真理の顔を見た。


 「貴文さん、足が止まってますよ。今の私達には立ち止まる余裕はないのですから歩いて下さい」


 貴文は慌てて歩き始め、それを確認した真理は話を続けた。


 「崩れたといっても、脱落者は極少数で現在は回復を待っている状態ですね。機動隊って盾を持ってるじゃないですか。その盾でアシガロイドの攻撃を受けたら、盾を持っていた腕が麻痺して動かなくなってそれで崩れたみたいです。盾が邪魔になって仕方がなかった部分もあるみたいですが・・・」

 「・・・何だか話だけ聞くと少し残念な集団みたいに聞こえるけど、そうか盾は無意味かぁ。そういえば盾って考えなかったねぇ」

 「私達は開戦初日の、忠良さんや明里さんの無双っぷりが目に焼き付いてますから。この二人が盾を持ってたら考えたんでしょうけど・・・まぁおかげで無用の混乱は避けられました」


 そんな二人の会話を興味深く聞いていたジョージが、真理に話しかけた。


 「マリ、それで「寺口です」・・・ハイ?」

 「寺口です」

 「ア~O.K.それでテラグチさん、グジョウシはドコまで来てるのデスカ?」

 「市境を少し越えた辺りですね。機動隊が抜けた穴を高校の剣道部中心に埋めたようですけど、一進一退ですね」


 貴文は少し考えて真理に質問した。


 「高校って郡上市だけ?」

 「あ~それがよく解りません。岐阜市の高校やそのOB、OGが向こうでの戦いが始まる直前ぐらいに、自発的に東海北陸自動車道を使ってやって来たとかっていう話も聞きましたけど、どうなんでしょ?まだ混乱してる所も多い開戦二日目で自発的に来るのかなっと」

 「それは多分、明里さんがらみじゃないかな。あの人岐阜市の出身で向こうに友人も多いだろうし、今でも時たま部活のコーチをしてるって言ってたから」

 「そうなんですか?まぁどうでもいいですけど。それでこちらの位置とかの情報も郡上市側に伝えてますから、そろそろ詳しい連絡があると思い・・・来ましたね」


 真理はそう言うと携帯で話しながら、少し貴文達と離れた。


 「貴文さん、テラグチさんってちょっとコワイネー。顔が美人だからハクリョクがあるヨ」

 「え?そうかなぁ、そんなの感じた事ないけど。それよりジョージさんも盾は考えなかったの?西洋の人って日本人より盾ってイメージがあるけど」

 「フェンシングに盾術はナイネー」


 貴文とジョージがそんな会話をしていると、連絡を終えた真理が近づいてきた。


 「貴文さん、このままのペースで進んで欲しいそうです。私達がある程度近づいた頃合いで、もう一度攻勢をかけると言ってます。私達がこのまま進めば、近づいた頃には機動隊も回復しててちょうどいいんでしょう。あまり早すぎない方がいい口ぶりでしたよ」

 「了解!疲労もあるからこれ以上ペースは上げれないよ。しかし、素直に機動隊の回復待ちって言えばいいのにね」

 「最初につまづきはしましたが、機動隊が県内で最強クラスなのは間違いないですから、回復待ちはしょうがないですよ。それに素直に言ったら、さっきの貴文さんみたいに、足が止まっちゃう人が出てくるのを心配してるんですよ。こんな状況ですから、不安になる情報は伝えるべきかどうかをちゃんと考えているのだと思います」

 「いやーあちらの担当者は優秀だねー」


 足を止めてしまった貴文は居心地が悪そうに答えた。

 そしてそんな少し砕けた空気を振り払うように、貴文は真面目な顔つきになりジョージに要請をした。


 「ジョージさん、もう少し行くと旧荘川村の中心部と繋がっている道があるんだ。偵察をお願いしたい。ここまで見た感じだと、制圧した地域の小さな脇道には少数の警戒要員しか配置していないみたいだから、多分大丈夫だと思うけど念のためにね」

 「リョーカイ!元気なのナンニンか連れて行ってくるネ」


 ジョージ達から通常のアシガロイドが3体確認できただけで、それ以外は見当たらない事とその3体を倒した報告が貴文に入った頃、真理の所に最後尾の副村長から連絡が入った。


 「貴文さん、副村長からの連絡で最後尾は牧戸交差点を通過しました。ただ、その・・・行方不明者がかなりいるようです」

 「脱落者がでるのは覚悟の上だよ。それで最後尾に敵は食らいついてるの?」

 「いえ、今のところ敵は影も形もないそうです」

 「ん?どういうこと?」


 真理は少し逡巡したあとに貴文に告げた。


 「忠良さんが銃を使って囮に・・・交差点付近にいた全ての敵を引き付けて、その後のことは解らないそうです」

 「なんだって!!それは本当の事なのか?」

 「はい。副村長から直接聞きました。赤武者の集団が現れて、防衛ラインは崩壊。忠良さんが敵を引き付けてくれたおかげで、最後尾は牧戸交差点を通過できたと言ってました」

 「そんな・・・そうだ、この事を明里さんに伝えないと」

 「それが明里さんも今は、最後尾辺りにいるようです。どうして子連れの明里さんがそんな後ろにいるのかは解りませんが、副村長も明里さんから話を聞いたようでした」


 貴文は一度後ろを振り返り、それから呟いた。


 「全然気づかなかった・・・」

 「貴文さんは前を向いて進むのが仕事です!後ろの個人の事まで気にする余裕はないと思います。気づかなくもしょうがないですよ。それに、今は前の事だけに集中して下さい!!」


 貴文は真理の言葉に大きく深呼吸すると、前方を鋭い目つきで見つめた。


 「そうだな、忠良さんもいないんじゃ僕がしっかりしないと。諸々の事は郡上市に無事に辿り着いてからにしよう」



 貴文達はジョージ達と合流すると、そのまま国道156号線を南下した。

 途中の集落には、人間もアシガロイドの姿もなくとても静かだった。


 「アシガロイドがイナイデス」

 「そうですね。この辺りのアシガロイドは全て市境に集結済みって事だと思います。それにそろそろ郡上市側から、攻勢をかける頃だと思います」


 貴文はそう言うと真理を見た。


 「確認してみます!」


 「それからジョージさん、もう少し行くと左手にゴルフ場があるから、その辺りまで先行偵察をお願いします。状況次第ではもっと手前まででも構いません」

 「O.K.ネ」


 郡上市と連絡を取った真理が、貴文に報告した。


 「郡上市側は一度、市境まで下がって立て直してますね。今から機動隊を中心に再攻勢をかけるので、白川村は敵を後ろから挟撃してくれと言ってきました」

 「解ってはいたんですが、楽はさせてもらえませんね。僕の希望としては、高山市内で味方と合流したかったんですが、その要請では市境辺りか下手をしたら強引に敵を突破して、郡上市に逃げ込むことになりそうです」

 「郡上市側も、最初は高山市内の156号線を北上して迎えるつもりだったようですから、今度は頑張ってくれると思います。向こうの戦力を聞いたら、機動隊以外にも自衛隊の生き残りでレンジャー持ちもいるそうですよ」


 貴文は自衛隊のレンジャー持ちという言葉に首を傾げた。


 「航空自衛隊員もレンジャーって持ってるの?」

 「何、言ってるんですか?陸上自衛隊だけですよ。空自の岐阜基地の隣りに分屯地がありますよ。知らなかったんですか?」

 「そうなんだ。知らなかったよ。でも岐阜県民で空自の基地は知ってても、分屯地の存在まで知ってる人ってそんなに多くないんじゃないかな。よく知ってたね?」

 「それは前にコンパでって、そんな事どうでもいいじゃないですか!それよりほら、電話鳴ってますよ」


 貴文が電話にでると、先ほど偵察に出たばかりのジョージからだった。


 『貴文さん、ゴルフ場マデ行けなかったヨ。スゴイ数のアシガロイドで赤いのカナリイルヨ。アイツラ山の中にもカナリイルヨ。ハナレタ所から戦いの音もキコエテクルネ』

 「解りました。合流しますからその場で待ってて下さい!」

 

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