防衛ライン
初ブックマーク\(^o^)/ どこのどなたか存じませんがありがとうございますm(_ _)m
国道158号線に沿うように流れている荘川は、牧戸交差点付近でS字型に蛇行している。
国道156号線は交差点を越えてすぐに荘川を越える為に牧戸橋という橋があった。
忠良達は牧戸交差点より158号線を高山市よりへ少し進んだ、Sの字の下の膨らみ部分が道に迫り川の反対側が山林となっている所に防衛ラインを設置した。
道の先には、忠良達と少し距離をとりアシガロイドの集団が対峙し、忠良達の後ろの交差点を脱出組の人々が通過していた。
「奴ら動かないな」
忠良が仁志に話かけると、仁志は動かない左腕を気にしながら答えた。
「このまま動かないなら助かるけど、恐らく増援を待っているんじゃないか?」
「増援を呼ぶならとっくに呼んでるだろ。それとも兵力がないのかもな」
「ん~あの赤武者5体で何とかなると思っていて、後手に回ってるのかも。こっちには規格外の強さの人間が3人いたから。予想外過ぎて、今頃慌ててこっちに増援を送ってるんじゃないか?」
忠良は暫く考えていたが、考えがまとまったのか仁志に提案した。
「なら今のうちに奴らを攻撃して、数を減らしておくか?」
「戦いたがりだねぇ。まぁそれも悪くないと思う」
「なら決まりだな。赤武者2体は俺が相手するから、他のアシガロイドが邪魔しないようにしてくれ」
「忠良さん、赤武者2体は大丈夫かい?」
「この超振動ブレードがあるからな。実際、赤武者なら鉈で熊を相手にした時よりも楽だったよ」
「いつのまにそんな事を・・・」
仁志は忠良の発言に思わず頭を抱えた。
しかし、忠良の思い通りにはいかなかった。
忠良達が進むとその分アシガロイドは後退し、戻るとその分前進する。アシガロイド達は徹底的に一定の間合いを保ちながら直接の接触を避けていた。
忠良はかなりしつこく敵と戦おうとしたが、どうにもならなかった。
「まいったね、これは」
「でもこれで、増援待ちは確定だよ」
仁志の言葉を聞いて忠良は後ろを振り返り、脱出組の状況を確認しようとしたがよく解らなかった。
「仁志さん、後ろの様子を見てきてくれないか?」
忠良の言葉に仁志が交差点の状況を確認しに行き、程なくして戻ってきた。
「もう少しかかるね。足腰が弱ってる者も多いから、集団の速さに付いていけずに列が間延びしてる。それと房江さん達がいた」
「何?明里ちゃんや、さやかちゃんもか?」
「ああ、三人揃ってた」
忠良が更に何か言おうとした時、アシガロイド達に動きがあった。
アシガロイドは道の左右に分かれ、開けた道の先から赤武者の集団が現れた。
「くそ!赤武者が多すぎる!!仁志さん、半分ほど連れて156号線の橋の所に行ってくれ。状況が悪くなったらそのまま殿を頼む」
「解った。忠良さん、ちゃんとこっちに合流しろよ」
「そのつもりだ!」
仁志が半数を連れて橋に向かうと、アシガロイド達それを追おうとするように一斉に忠良達に襲いかかった。
忠良は道の中央に陣取り奮戦し周りの人間も懸命に戦ったが、防衛ラインは崩壊した。
「全員逃げろ!郡上市を目指せ!!」
忠良はそう叫びながら赤武者を出来るだけ引き付け、牽制しつつ自身も後退した。
倒した人間を連れ去ろうとするアシガロイドの存在が敵の進撃速度を鈍らせ、その結果、防衛ラインの生き残りの何人かは仁志達に合流できたようだった。
しかし、多くの人間が敵に捕捉され乱戦状態になった。
忠良は仁志が見たという房江達の事が気になり、乱戦の合間を縫って交差点まで下がることに成功した。
忠良が交差点まで下がると、そこもすでに敵味方入り乱れての乱戦になっていた。
そしてその中に忠良は房江達を見つけた。
房江は丁字交差点の中央の信号機の根元辺りで胸を押さえながら座り込み、その房江にしがみつくようにさやかがいた。
そして、その二人を守る為に明里は鬼のように剣を振るっていた。
忠良はアシガロイドを斬り伏せながら三人に近寄った。
「何があった?もっと前にいたはずだろう?」
その忠良の問いに答えたのは房江だった。
「あなた、ごめんなさい」
「おじいちゃん、おばあちゃんが胸が痛いって・・・」
房江の謝罪と、さやかの言葉で忠良は悟った。
「明里ちゃん達には、何度も私を置いて先に行くように言ったんですが、聞いてくれなくて・・・」
「お義母さんを置いていくなんて出来ません!」
明里が寄ってくる赤武者を牽制しながら答えた。
忠良も赤武者や通常タイプを相手に斬り結び、房江とさやかに敵が近づかないようにしていた。
「明里ちゃん、さやかちゃんを連れて脱出するんだ!道は俺が切り開く!!」
「そんな!先生、お義母さんを置いていくんですか?」
「房江は心臓に病気を抱えてるんだ。最近は良くなっていたんだが・・・この状態になったら下手に動かせん。このままじゃ全員いずれやられるぞ。そんな事になったら智行に会わせる顔がない」
明里はとても辛そうな表情で剣を振るっていた。そんな明里に房江が声をかけた。
「明里ちゃんは母親なんだから子供を守る事を優先しなさい!私はこんな事になる可能性も覚悟してました。その為にほら、忠良さんのライフル銃を持ってきたんだから」
房江はそう言うと足元に置いてあった、長い黄色の袋の中からライフルを取り出した。
「房江、持って来てたのか!それなら話が変わるな。明里ちゃん、房江は俺が守るから二人で行くんだ」
「先生!!」
「銃を使用すると、周りの人間を無視して銃を使用したものに殺到する話は聞いたな?その隙に行くんだ!このアシガロイドの中を切り開いて、牧戸橋までいくよりも確実な方法だ。それに銃を使用した者が倒されない限り続々と集まるそうだから、俺が房江を守って時間を稼ぐ」
既に忠良達の周りに人の姿はなく、アシガロイドで埋め尽くされていた。戦いが続いているのは牧戸橋で殿を務めている仁志達の所と、156号線の白川村方面で脱出組の最後尾として村の旗を掲げている副村長の所だけであった。
忠良は赤武者を一体斬り捨てそれで出来たわずかな時間を使い、強い眼差しで明里を見つめた。
「・・・わかりました」
「明里ちゃん、さやかちゃんを頼んだぞ!」
房江は泣いているさかやを宥めて明里のそばに行かせると、ライフルを構えた。
「房江、出来ればアシガロイドに当ててくれ」
「アメリカで二人で銃の試し撃ちをした時の成績は、私の方が良かったんですよ。しかもこの数です。当てますよ」
そして房江はライフルの引き金を引いた。
変化は劇的だった。ターーーンという発射音が響き渡ると、全てのアシガロイドの注目が房江に集中した。
明里はさやかを片腕に抱きかかえると、目の前のアシガロイドを斬り捨て駆け出した。
周りのアシガロイドは、明里達が見えていないかのように無視して房江に向かった。
しかし数が多い為、アシガロイド達は渋滞を起こし自由に身動きができない状態の中、明里は邪魔なアシガロイドだけを斬り伏せ、牧戸橋へひたすら走った。
走る明里の背中から忠良の声が聞こえてきた。
「パワーが上がっても戦いの癖が一緒なんだよ!」
そしてさらにターーーンという発射音がもう一度響き渡った。
明里がアシガロイドの集団を抜け、橋に辿り着くと橋の向こう岸側に仁志達がいた。
「明里ちゃん、こっちだ!急いで!!」
明里達が合流すると仁志が聞いた。
「あの銃声は忠良さんのライフルの音じゃないのか?」
「先生とお義母さんが・・・」
「そうか・・・この時間を無駄には出来ない!すぐに移動しよう」
仁志が移動の指示を出そうとすると、一人の男が指差しながら声を上げた。
「仁志さん、民家の間から人が!」
仁志達がそちらを見ると、100人程の人々が白川村の村旗を掲げ現れた。
「副村長!早く!!」
副村長達の最後尾が合流して、仁志達は移動を始めた。
「副村長、よく無事でしたね」
「あの銃声の隙に、民家の間の脇道を抜ける事が出来た。あの音は忠良の・・・」
「えぇ、そうです」
「そうか・・・」
人々は疲れ果て足取りは重かったが、前に進む意思は失わず郡上市へ向かって出来るだけ先を急いだ。
そんな人々と共に明里は唇を噛みしめ、さやかの手を握りしめながら前だけを見つめ歩みを進めていた。
人々の無事を祈るかのようにさらにもう一発、ライフルの銃声が山々に響き渡った。




