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982 決定したら始めよう

「ちょいと待った」


 ここでトモさんが割って入ってきた。


「皆で遊ぶなら隠し球も忘れてはいけない」


「えっ、何それ!?

 そんなのあるんだ」


 今度はミズキが驚いている。

 皆でという部分に食いついたようだな。


「クジ引きで決めた番号を伏せてプレイするのが隠し球だよ」


「へー」


「自分の番号のボールを最後まで残すことができた人が勝ちになる」


「だから隠し球なんだね」


 なるほどと頷いて感心しているミズキ。


「そういうことみたいだね」


「面白そうね。

 駆け引きが必要になりそうじゃない」


 まだプレイもしていないのにマイカが不敵な笑みを浮かべる。

 さっそく、やる気になっているようだ。


「そういう要素は多分にあるかな。

 一番の特徴は1回ボールを撞いたら次の人に交代することだから」


「えー、ポケットにボールを落としても続行できないのぉ?」


 トモさんの説明にミズキが驚きを露わにしている。

 ビリヤードのイメージとギャップがあるのだろう。


「隠し球は、そういうルールなんだよ。

 その方が皆で楽しめるだろう?」


「言われてみれば、そうかも」


「確かに、それだと人数が多くても待たなくて良さそうね」


 ミズキに続いてマイカも頷いている。


「上手い下手に関係なく誰でも手軽に遊べそうだし」


 だからこそトモさんも提案したんだろう。


「ルールは単純だし隠し球でいいかもな」


「賛成ーっ!」


 元気よく手を挙げるマイカ。

 諸手を挙げてといった感じだ。


「私も賛成かな。

 でも、皆に聞いてからにしないと」


 ミズキは同意しつつも慎重である。


「そうだね。

 自分で提案しておいて言うのも何だけど」


 トモさんも慎重派みたいだ。

 押しつけにならないように気を遣っているのだろう。


「そのあたりは、ちゃんとリクエストを聞くさ」


 皆で楽しむのが目的なんだし。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「隠し球もチェックしたかな?」


 一通りどんな遊び方があるのか確認した皆に聞いてみる。

 だいたい半数くらいが挙手をした。


 残りは気になったゲームのルールを見ていたのだろう。

 とりあえず簡単に隠し球の説明をしておく。


「という訳で、皆にはどのゲームをプレーするか選んでほしいんだ」


 15人以上いるから、ひとつのテーブルではプレイできないんだよね。

 まずは手間のかかりそうなのから聞いていく。


「ボウラードがしたい人」


 念のために聞いてみた。

 変わり種だし、もしかしたら遊びたいという面子もいるかもしれない。


 が、手を挙げる者は皆無であった。

 何人かは無反応って訳でもなかったから興味はあるようだけど。


『帰ったら本物のビリヤード場を作ってもいいかもな』


 前に作ろうかと考えて、それっきりだったことは秘密である。


「ローテーションがしたい人」


 これも手を挙げる者はいない。

 やはり時間がかかるのは不人気なようだ。


『もしかしてプレイ中に俺たちが他の場所に行ってしまうとか考えてるのか?』


 そういうのを危惧しているかは不明だ。

 一緒に行動したいなら途中でプレーを終わらせればいいだけのことなんだが。

 それはそれで決着がつけられなかったことを気にしてしまうのだろう。


 そんなこんなで隠し球を選ぶ者は半数以上いた。

 俺の説明で後から興味を持った面子もいるようだ。


 他の面子はネオナインかナインボールを選んでいる。

 手を挙げなかった者たちもいたが、これは誰かを応援するためみたい。


 俺は隠し球を選択した。

 隠し球は希望者が多いので最初に組み合わせをクジで決める。


「俺はA組か」


「おっ、奇遇だね」


 そう言って俺のクジを覗き込んできたのはトモさんだった。


「ほほう、旦那と同じ組か」


 ツバキが自分のクジを見せながら歩み寄ってきた。


「私達もです」


「お願いします」


 続いてレオーネとリオンが来た。


「A組ってここですか?」


 クリスが姉たちを先導する格好で歩いてきた。


「そうだよ」


 俺より先にトモさんが答える。


「よろしくお願いします」


「はいはい、お願いされました」


「クリス、頑張りなさい」


「応援してますよ」


 エリスやマリアは見学することを選んだみたい。

 見ているだけでも楽しいということのようだ。


「ハルトくん、頑張れー」


 ベリルママもその口である。


「ハルくーん」


 ブンブンと手を振るミズキ。


「あーっ、ミズキの薄情者ぉー!」


 別のテーブルでプレイするマイカがなんか吠えてるぞ。


「頑張って……」


 そのせいで気恥ずかしそうに応援する約1名の声はかき消され気味だ。

 が、応援された側はそれをちゃんと聞き届ける耳を持っているものである。


「任せろー」


 間延びした声でトモさんが約1名に振り返った。

 もちろん応援しているのはフェルトだ。


「燃えますなぁ」


 嫁の応援を受けてニヤけている。

 トモさんにとっては、これだけで充分に遊ぶ甲斐があるというものだろう。

 まあ、それは俺もなんだが。


「それじゃ始めますか」


「順番は誰からだい?」


 トモさんが聞いてきた。


「6人じゃあなぁ……

 バンキングって訳にはいかないだろう」


 確かにトモさんの言う通りだ。

 バンキングはビリヤードではお馴染みの先攻後攻を決める方法だ。


 2人でボールを撞き、勝った方が決定権を持つ。

 撞く位置はブレイクショットと同じ。

 クッションで跳ね返ってきたボールが手前のクッションにより近い方が勝ちとなる。


 これを6人でやるのは無理がある。

 フィールドの幅が狭いのだ。


 一応、6人でボールをセットして蹴る分には問題ないように思える程度の幅はある。

 前に蹴り出すだけなら難しくはないと感じるかもしれない。


 が、クッションに当たった後まで真っ直ぐかどうかは微妙なところだ。

 中心から微妙にズレた位置を蹴っただけで軌道が微妙にずれたりするからな。


 そうなると誰かのボールと接触してグチャグチャになるのは容易に想像がつく。

 2人だと気にしなくていいことも、これだけの頭数になるとそうはいかなくなる訳だ。


「適当でいいんだよ。

 それこそ、クジかジャンケンで決めればいいさ」


「しょうなのぉ?」


 久々に荻久保清太郎さんの物真似が入りましたよ。

 とりあえず、それについてはスルーしよう。


「隠し球なんてパーティゲームだからね」


 素で返事をしたんだが。


「しょうなのぉ?」


 まさかの連呼である。

 久々だからリアクションが欲しいのかもしれない。


『それとも「大事なことだから2回言いました」パターンか?』


 別に大事でも何でもないと思うのだが。

 そんな訳でスルーである。


「ジャンケンでいいよな」


 他のメンバーに確認を取る。


「良いぞ」


「そうですね」


「問題ありません」


「えっと、お姉ちゃんに同じです」


 トモさん以外から了承が得られたので、そのまま進めることにする。


「そりゃないぜー、兄弟」


 という呟きもスルーだ。

 そんなこんなでジャンケンの結果、トップバッターは俺になった。


 必勝を期した訳ではない。

 ひたすらグーを出し続けた結果、勝ち抜いてしまったのである。


 多人数だから勝者が先攻後攻を決めるという訳にはいかない訳で。

 必然的にジャンケンの勝者から始めることになる。


『適当に誰か勝てばいいと思ったら、これだよ』


 世の中ままならぬものだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 順番が決まればボールをセットする。

 普通のビリヤードならラックと呼ばれる三角形の木枠を使うところだ。


 しかしながら十倍のサイズとなると、そう簡単にはいかない。

 そのためフィールドに術式を組み込んでおいた。


 スマホのアプリを立ち上げ、このフィールドでプレイヤー登録をする。

 隠し球でゲームを選択。

 あとはプレイ開始ボタンを……


『ポチッとな』


 それだけでフィールドの所定位置が下がっていった。


「「「「「おおーっ」」」」」


 魔道具を色々と見慣れているうちの面々でも、いきなり動作すると少しは驚くようだ。

 そしてボールをセットして迫り上がってくる。


「手間がかからなくていいですね」


 クリスが感心している。


「全自動の雀卓みたいだ」


 同じく感心しているトモさんだが……


『台詞のせいで真面目に言ってるのか、ふざけてるのか分からんな』


 それと雀卓のように切れ目は見えないんだけどね。

 ボールの挙動に影響を与えないよう注意しているのだ。


 その点についてはトモさんも分かっているだろう。

 だから、とやかくは言わない。


 問題とすべき点は別にある。


「それを言って通じる相手がどんだけいるんだよ」


 ということだ。


 こればかりはツッコミを入れておかないとな。

 が、トモさんは動じない。


「ハッハッハ、1人でも受ければ良いのだ」


 むしろ胸を張って答えた。


『そういうことか』


 相変わらずサービス精神が旺盛というか。

 細かなことにも全力投球してくるね。


読んでくれてありがとう。

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