981 大きいから閑古鳥という訳ではない
「アイツら、俺たちが思っている以上にハンマー好きだったみたいでなぁ」
「「「「「あー……」」」」」
納得したような呆れたような中途半端な空気が流れる。
「まあ、そういうこともあって少し話が長引いた訳だ」
そう説明すれば、後は追及されることもなかった。
「それで、どっちをプレイするんだ?」
一斉に指差されたのは誰も遊んでいない方だった。
『まあ、そうなるか』
空いている方にするという話だったし。
「キックビリヤードね」
何故か不人気である。
「ふむ」
思わず腕組みして考えてしまった。
『キックボウリングはボウリングで馴染みがあるからか』
馴染みのあるなしの差は大きいのかもしれない。
「何をしておるのじゃ、主よ」
シヅカが問うてきた。
それに反応するのが遅れたのはキックビリヤードが閑古鳥な理由を考えていたが故だ。
その隙に──
「大方、どうして誰も遊んでいないのかとか考えておるのだろうよ」
ツバキが己の推理を披露していた。
『う……』
見事に図星である。
「どうやら当たっているみたいですね」
エリスが俺の表情の変化を見逃さずに指摘してきた。
【千両役者】を使っていなかったせいで顔に出てしまったのは不覚である。
「バカねー。
つまんないことで悩んでさー」
「そうだよ。
どうでもいいじゃない」
マイカとミズキにはツッコミを入れられるし。
「悩むだけ無駄よ」
マイカが断言する。
「ハルくんの悪い癖だよ」
ミズキには「めっ」をされてしまった。
『俺は幼児か』
「皆で遊んでいれば、そのうち他の人も遊びに来るって」
そう言ったのはトモさんだ。
「そうですね。
今のうちに遊ばないと並ばないといけなくなるかもしれませんよ」
フェルトがそれを援護する。
「そんな訳だから早く遊びましょう」
ベリルママに手を取られキックビリヤード場へと引き込まれた。
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キックビリヤード場は広い。
縦が29メートル、横は16メートルで実際の十倍の面積がある。
バスケットボールのコートより一回り大きい程度と言った方が分かり易いだろうか。
使うボールはバスケットボールよりずっと大きいけどね。
直径だと倍以上ある。
「これを使うの!?」
リオンなどはボールを見て目を丸くしている。
「大きさは、すべて十倍だからな」
重さはさすがに変えてるけど。
「感触はテニスの硬式球みたいかな?」
手に持ったミズキが自信なさげに首を捻りながら言った。
「バスケのボールじゃない?」
マイカは違う印象のようだ。
「ボールという割には弾みませんね」
レオーネがボールを胸元の高さから落としたが跳ねずに転がった。
「ホントだー」
自分でも試すリオンだが、もちろん跳ねない。
そういう術式を刻み込んでいるからだ。
「フィールドに芝生が敷き詰められているからだけではないようですが?」
エリスが確かめるように聞いてきた。
確かにそれもある。
石畳だと、もう少し跳ねるはずだ。
ただ、芝生を使うのは他にも理由がある。
むき出しの地面だと削れやすいし。
芝生以外だと怪我をしやすくなるからね。
サッカーのような激しいプレーはしないけどさ。
あと、ラシャの色に近づける意味合いもある。
フィールド側の理由はそんな感じ。
ボールの方の理由は単純明快。
「単純にボールを大きくしただけだと事故の元だからな」
本物はボールが硬いし。
そのまま再現してしまうと怪我をしかねない。
だから重さや感触を変更したのだ。
ただ、安全性を優先しつつ本物に近い感覚でゲームができるようにはしたがね。
手玉と的玉がぶつかった瞬間の弾けるような音も術式を刻んで再現しているし。
「で、このキックビリヤードってキューは使わないのかい?」
トモさんが聞いてきた。
「そんなの考えるまでもないでしょ」
答えたのはマイカだった。
「キックって名前がついているくらいなんだから」
当然だろうと言わんばかりでドヤ顔をしている。
「それはどうかな、マイカちゃん」
すかさず水を差すミズキ。
喧嘩の気配を感じて事前に潰そうというのだろう。
『そんなことしなくても喧嘩にはならないと思うがな』
トモさんは、こういうのを躱す方だからね。
「なんでよー?」
唇を尖らせるマイカ。
思い込みが激しすぎるのも考え物だ。
「マイカちゃんはキューのような細長いものを蹴ることはないと思ってるのよね?」
「そうよ」
「でも、だからといってボールを直接蹴るとは限らないわよ」
「うっ」
「キューに変わるものを蹴って遊ぶかもしれないじゃない」
「ぐっ」
「決めつけは良くないってことだな」
「悪かったわ」
特にふて腐れることもなくマイカが謝った。
「別に気にしてないけどね」
『やっぱり、こうなったな』
トモさんが気にしているのはキューの有無だ。
「最初はハンマーをキュー代わりにしようと思ったんだけどな。
的玉を撞くって感じにならなかったから採用しなかったんだ」
ハンマーだと撞くより打つって意識になってしまうんだよな。
なかなか真っ直ぐ打てないし。
そうなると右利きと左利きでボールの軌道が変わってくる始末。
こうなるとビリヤードでなくなってくる。
仕方なくハンマーは不採用となった訳だ。
もし採用されていれば、ゲームの名称はハンマービリヤードになっていただろう。
「それで直接蹴るようになったと」
「スピンとかもハンマーじゃ掛けづらいしな」
ビリヤードの場合、手玉の撞く位置によってボールの動きが変わる。
クッションでの跳ね返り。
的玉に当たった後の手玉の進行方向。
これらに影響するので無視することはできない。
「ああ、なるほど。
再現性が高そうだね」
うんうんと頷いている。
「とりあえず、やってみれば分かるよ」
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「どのルールでやるかだけど」
ほとんどの面子がスマホでビリヤードのルールを確認中だ。
残っているのはベリルママと元日本人組だけという有様である。
『こういうのが不人気の理由なんだろうな』
やはりすぐに遊べるかどうかは選択を判断するときに大きく影響するみたいだ。
「ナインボールがいいんじゃない?」
マイカが提案してきた。
「そうだね、ローテーションは時間がかかるし」
ミズキも乗ってくる。
『時間重視か』
その考えは分かる。
キックビリヤードに時間をかけすぎて、これだけで終わりというのは寂しすぎるもんな。
ゲームコーナーに限った話ではない。
乗り物にも乗ってみたいと思うし。
そんな訳でプレイ時間を重視するならボウラードは論外だ。
ビリヤードでボウリングを再現しようってのが無茶だと思う。
『連続してポケットに落とした数がスコアって、間怠っこしすぎるよな』
プレイヤーの技術を確認するにはうってつけなんだけど。
初心者だと比較的短時間で終わってしまうが、それでもナインボールの比ではない。
もちろん、スコアはボロボロになる。
下手をすれば本物のボウリングよりもスコアが悪くなるからな。
『時間がかかる上にスコアでも微妙な感じになるんじゃ厳しいね』
プレーしたうちの何人が楽しめるのか疑問が湧いてくる。
誰も楽しめないなんてことはないだろうが、少ないのは確実だろう。
そもそもボウラードは基本的にソロプレイ用のルールだ。
同じフィールドで何人もプレーしようものなら……
『きっと気が遠くなるほど待たされるぞ』
ボウリングのようにはいかないからな。
となれば皆で遊ぶゲームとして採用できる訳がない。
そこまで時間が掛からないがエイトボールも難しいだろう。
あれは受け持ち分の7個のボールを先に必ず落とさないといけないからな。
途中で8番を落とすと負けになるルールが時短を阻む枷となるのだ。
「実はそれくらいしか知らないのよね」
マイカが俺の方を見て来た。
「他にもあるんでしょ?」
「ネオナインとか初心者向けかな」
「何それ!?」
マイカの反応が過剰だ。
「名前が格好いいわね」
そう言われると、マイカらしいと思ってしまうから不思議なものである。
「日本で独自に考案されたルールみたいだな。
基本はナインボールと同じだよ。
ただ、9番以外はどの順番で落としてもいいんだってさ」
「確かに初心者向けね。
いいんじゃない?
ナインボールより時間短縮できそうだし」
マイカが素直に賛同した。
『邪道とか言いそうな気がしたんだがな』
さすがに穿った見方をしすぎか。
それよりも、この様子だとネオナインで遊ぶことになりそうだ。
まだ皆の意見は聞いてないから何とも言えないけど。
仮に意見が割れても他のフィールドに振り分ければいい。
どうせ、ひとつのフィールドで全員が同時にプレーできないからね。
読んでくれてありがとう。




