表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
951/1785

940 次のイベントへ

『それにしても……

 アイツら、露骨に視線をそらしているな』


 ダイアンとリンダのことである。


 ゲームコーナーの話題で盛り上がっている騎士たちの方を見てはいるのだけれど。

 その集団から微妙に距離を取っている騎士もいるのだ。


 約2名。

 ダイアンたちは視線をそちらの方へ向けようとしない。

 不自然に顔の向きをそらしているくらいだ。


 あからさますぎて意識しているのがバレバレである。


『芝居が下手なタイプだな』


 護衛騎士をまとめる隊長と副隊長として、それはどうなのかと思うのだが。


 まあ、友好国とはいえ他所の国のことだ。

 俺が口出しすることじゃない。


 え? もしダイアンたちがミズホ国民だったら注意するのかって?

 しないな。

 だって、面倒くさいじゃないか。

 実害がありそうなら話は別だけど。


 約2名の方を見る限り、そういうことはなさそうだ。

 ヒソヒソと内緒話をしているだけだし。


「妹がいるなんて羨ましい。

 私は一番下だったから」


 しみじみした様子で声を潜めて言うのはイケメン騎士の兄ちゃん、ヴァン・ダファルだ。


「いえ、下がいるというのも考え物ですよ。

 言うことを聞いてくれる訳じゃありませんし。

 むしろ身内だから遠慮がないと言いますか……」


 相手は姉妹騎士の姉、モリー・ハートランドである。


「いやはや、耳が痛いね。

 自分もそうだった記憶があるよ」


 苦笑するヴァン。


「いえ、決してダファル殿のことを言っている訳ではっ」


 慌てた様子で否定しつつも声は潜めているモリー。


「ハハハ、良いのだよ。

 それぞれに事情がある訳だし」


「恐縮です」


 朗らかな感じのヴァンに対して顔を真っ赤にしているモリーである。


『なんだかなぁ……』


 【遠聴】で聞いてみたけど、内緒話をするようなことだろうか?

 別に当たり障りのない普通の会話である。


 まあ、アデルが聞くとヘソを曲げるとかしそうな言葉もあったようだが。

 それにしたって何時までも根に持つようなことではない。


 むしろコソコソすることで悪目立ちしている気がするんだが。

 会話に割り込んでくるなオーラを発しているというか。

 仲むつまじい感じがするというか。


 ぶっちゃけ、イチャイチャしているようにしか見えない。

 当人たちにもその自覚はあるのだろう。

 だからこそヒソヒソしている訳で……


 おそらく周囲に気を遣っているつもりなんだろう。

 そこまで親密になるとか完全に予想外だ。


『あー、あの後どうなったんだか』


 謎である。

 何がどうなってこうなったのか確認がしたかった。


 が、勝負がついた後のことに構っている訳にもいかなかったしな。

 仕方あるまい。


 そしてヴァンとモリーのイチャイチャは続く。

 相変わらず当人たちは目立たないようにしているつもりらしいがね。


 どう考えてもダイアンとリンダは黙認している状態だろうに。

 あれでバレバレだと気付かない方がどうかしていると思うのだが。


『まあ、口を挟むのはよそう』


 彼らに残された時間を考えると邪魔者にしかならない。

 ダイアンたちもそれを考え口出しを控えているのだろう。


『この後の別れを思うと悲劇的だもんなぁ』


 明日になればお別れなのは間違いない訳だし。

 かといって迂闊にお節介も焼けない。


 それをするなら本人たちに意思確認する必要があるだろう。

 だからといって人前でそんなことをするもんじゃない。

 変にこじれたりしたら厄介だ。

 結果的に引っかき回して破局とかシャレにもならん。


『どうにかしたいとは思うがな』


 俺が動かなくても大丈夫だろう。

 ダイアンたちは気付いているようだし。

 上司や仲間がフォローすると信じよう。

 あまり期待できるような雰囲気ではなさそうだけれど。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ゲストたちが集まったはいいがガヤついている。

 俺の話を聞くような状態にはなっていない。


 それでも無事に自由行動の終わりを迎えられて内心で安堵していた。

 色々と騒動があったからね。

 想定したものもあれば、そうでないものもあった。

 思い返せば楽しい出来事だったと言える。


『大変だったけどな』


 未だに続く皆の雑談を見て一息ついた。

 皆に喜んでもらえた証拠だからな。

 ミッションコンプリート。


 報われた気持ちにもなろうというものだ。

 まだ終わっていないので気を抜くわけにはいかないがね。


『さて、そろそろ時間だな』


「全員そろったな」


 少し声を張って呼びかけた。

 その事実については確認するまでもないのだが。


 これは皆の会話を中断させるための声掛けである。

 効果があるなら何でもいい。


 大きめの声を出した甲斐もあって場が静まり返った。


「それじゃあ次だ」


 俺がそう言うと、皆が怪訝な表情をした。


「これで帰るのではないのか?」


 クラウドが聞いてきた。


「自由行動が終わりってだけだぞ」


「まだ、何かあると仰りますか」


 爺さん公爵は少し目を丸くしている。


「楽しみだね。

 何があるんだろうな」


 カーターは平常運転で次のイベントに向けて期待感を口にしていた。


「叔父様、気が早いですよ」


 苦笑しながらフェーダ姫がたしなめる。


「ハルト様は、まだ何も仰ってないじゃないですか」


「そうなんだけどね」


 緩んだ頬をしたままのカーターが返事をする。


「ハルト殿が用意してくれるものだよ。

 期待しない訳にはいかないじゃないか」


 何気にハードルを上げてくれる発言だ。

 その言葉を受けて、他のゲストたちも瞳を輝かせ始めた。

 ますますハードルが上がってしまったようだ。

 こちらとしては苦笑するしかない。


「あまり過剰な期待はしないでくれよ。

 ちょっと豪華なディナーに招待ってだけだ」


 その言葉だけでクールダウンできたのは、やはり期待値が高かったからだろう。


『やれやれ』


 俺は心の中で嘆息した。

 皆を落ち着けるために約1名のテンションを上げてしまったからだ。

 クラウドであることは言うまでもあるまい。


「豪華なディナーだとぉう?」


 興奮しているせいか語尾が巻き舌になってしまったようだ。

 ムプーと鼻息を荒くしかけたところでダニエルに襟首を掴まれてしまった。


「ぐえっ」


 そのまま締め上げられてしまう。


「─────っ……」


 瞬く間にクラウドが落ちた。

 見事な絞め技である。


『これが初めてって訳じゃないな』


 つまり似たような状況になったことが度々あるということだ。


『食い意地さえ張ってなきゃなぁ』


 ダニエルの苦労が忍ばれる。

 とはいえ失神させるのは、やり過ぎだろう。


「何もそこまでしなくてもいいんじゃないか?」


「いえいえ、この小僧に騒がせる訳にはまいりません」


 ダニエルが神妙な表情で返してきた。


「夕食の時間には些か早いですからな。

 何か催しのようなものがあるのでしょう?」


 さすが大国の宰相を務めるだけはあるといったところか。

 即座にそこまでの答えを導き出されてしまった。

 今のやり取りだけで、サプライズが効果半減になりそうだ。


「まあ、そんなところだ」


 俺としては内心で苦笑するばかり。

 俺の発言が元なので文句も言えないので、しょうがない。


「ならば、小僧が騒ぎ出すのは目に見えているでしょう」


 クラウドは花より団子だろうしな。

 ダニエルが危惧するのも当然と言えた。


「お菓子でも食わせておきゃいいんだよ」


 食べている間は静かにするはずだ。


「肝心の夕食が食べられなくなって騒ぎそうですが」


 食い過ぎをセーブできないとか、まるで子供である。

 が、クラウドならあり得る話だ。


 というか前科があるからな。

 根性で晩飯も平らげたけどさ。


「だったら飴だな」


 少ない量で長時間楽しめるお菓子としては、これ以上のものはないだろう。


「舐めずに噛み砕いて、あっと言う間に食べ尽くすでしょうな」


 そうなれば、おかわりを要求してくるだろう。

 出さなければ駄々をこねると。

 明確に想像できた。

 それこそ既に起きたことを思い出しているかのように。


「八方ふさがりも同然だな」


 唯一残されたのがダニエルの取った手段。

 締めて落とすしかなかった訳だ。


『ダニエルの一手は最善ではないだろうが最適だったんだな』


 溜め息しか出てこない。


「……いい判断だ」


「恐れ入ります」


 この話の流れを見て周囲の者たちは苦笑している。

 クラウドの食いしん坊ぶりは完全に浸透してしまったようだ。


 それを見てもダニエルは落ち着いていた。

 もはや諦めの境地に達しているのかもね。


 ともあれ、いつまでもジッとしている訳にはいかない。

 ダニエルに対する同情だけで油を売っている暇はないのだ。


「じゃあ、ついて来てくれ。

 迎賓館は通り抜けるだけだから、そのつもりでな」


 俺は先導するべく歩き始めた。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ