906 キャンプファイヤーで成功を確信する
3人娘のナーエがアニスにビンゴしたシートを渡す。
それを確認してアニスが笑みを浮かべた。
「おめでとー、見事にビンゴや。
皆も拍手したってやー」
アニスに促されて皆がパチパチパチと拍手する。
もちろん俺も拍手した。
「ありがとうっす。
自分、やったっすよー」
バンザイポーズで拍手に応じるナーエ。
「せやけど、まだ終わりやないで」
「えっ!?」
ビクッと動きを止めたナーエがアニスに振り返る。
そこへノエルが上面に穴の空いた箱を持ってきた。
「この中のクジを1枚引く」
「え?」
「ビンゴしたら、もれなくクジが引けるんや。
その結果しだいで景品も変わってくるんやで」
「あ、そういうことっすか」
なるほどとしきりに頷くナーエ。
「はやく引く」
ノエルがズイッと箱を突き出す。
有無を言わさぬ迫力にビクッとナーエがたじろいだ。
「了解っす」
ナーエが箱に手を入れた。
ゴソゴソと動かすことしばし。
「じゃあ、これっす」
そう言って箱から出した手には1枚の折り畳まれた紙片があった。
「ほな、広げてんか」
アニスに言われるまま紙片を広げて見せる。
そこには×印が書かれていた。
「残念! 大ハズレやー」
「ええーっ!?」
目も口も開ききって固まるナーエ。
ドッと周囲から笑いが起きた。
「どどどどういうことっすか?」
ナーエが慌てた様子でアニスに詰め寄った。
「このビンゴゲームは、そないに甘ないねん。
ビンゴしても引くクジの内容によっては、こういうことがあるんや」
「なんてこったーっ」
大袈裟に仰け反って驚くナーエ。
まあ、驚きよりショックの方が大きいのだとは思うが。
「あ、せやけど何にもなしやあらへんで」
アニスの言葉にナーエがガクッとずっこける。
そこで再び皆が声を出して笑った。
「先に言ってくださいよぉ」
ナーエは情けない声を出しながらも、どうにか復帰してきた。
「そういうリアクションを期待してたから無理やな」
にべもない返事をするアニス。
「ううっ」
恨めしそうな顔で涙目になるナーエであった。
「おいしいとこ見せてもろたで」
ニカッと笑ってアニスが手のひら大のものを取り出した。
「ほい、これが景品や」
ポンとナーエに手渡す。
「何すか、このクニュッとしてるの?」
「洗い物用のスポンジや。
それ使て洗い物したら汚れがよう落ちるねん」
アニスの説明にナーエの表情が何とも言えないものになる。
少なくとも嬉しいという感情は見られない。
『タワシじゃないのか』
仮にタワシだったとしてもナーエの反応は同じだったとは思うが。
「はいっ、景品ゲットのナーエに拍手やー」
「ちくしょーっ、やったっすーっ!」
自棄クソで無理やり喜ぶナーエに皆が大声を出して笑った。
拍手も割れんばかりに起こっている。
「このビンゴ、辛口だったんだね」
ミズキがそんな感想を漏らした。
「確かに辛口のようだな。
アニスが大ハズレとか言ってたし」
「もしかしてハズレもあるということでしょうか?」
不安げな表情をしてレオーネが聞いてきた。
レオーネはこの企画にも加わってないらしい。
「アニスが企画したんなら、そういうことだろうよ」
「当たりの方が少ないかも」
「ええっ!?」
そこまでは予想していなかったであろうレオーネが目を丸くして固まってしまった。
「皆の笑いを取るか当たった者を喜ばせるか、どちらに重点を置いてるかだろう」
「でも、程々になるんじゃないかな。
笑いを取ろうとし過ぎて引かれると一気に冷めちゃうし」
「そうだな」
俺も同意したが、その予想は裏切られる結果となった。
ビンゴ大会が終わってみれば、ハズレはナーエのみだったのである。
「初っ端で笑いの大当たりを引いた訳か」
ある意味、強運だと言える。
あのリアクションも良かった。
きっと皆に名前を覚えてもらえたことだろう。
「ちょっと可哀相な気もしないではないけど」
ミズキが苦笑する。
「これも、いい思い出になりますよ」
レオーネも困ったような感じで苦笑いだ。
が、できれば本人に言った方がいいかもな。
相手にもよるが、ナーエなら慰めの言葉になると思う。
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そして最後は歌でしめくくる訳だが。
特に奇をてらうこともなくオーソドックスな感じのカラオケ大会だった。
こういう企画は古参組の独壇場になるんじゃないかと思ったのだが。
女子組も西方で歌われている民謡を合唱したりして盛り上げてくれた。
踊りやビンゴ大会で充分に馴染んでいたお陰なんだろう。
本当に良かったと思う。
「臨海学校、大成功だな」
そんな呟きが漏れるのも自然なことだった。
「まだ終わってないよ」
クスクスとミズキが笑った。
「でも、言いたいことは分かるかな」
「そうですね」
ミズキだけでなくレオーネも同意してくれる。
「みんな楽しそうです」
レオーネが優しい視線を向ける先で女子組の何人かが歌っていた。
俺の知らない曲だが優しい感じが伝わってくる。
それは聴いている側の皆の表情を見ても分かった。
「それだけじゃないわ。
女子組もすっかり馴染んでる。
臨海学校を提案したハルくんの手柄ね」
「それを言うなら皆の手柄だな」
俺1人で成し遂げることなど決してできなかった。
どんなに強くても1人でできることなんて、たかがしれているんだ。
「言うよね、ハルくん」
「まったくです」
2人が皮肉っぽく言うが嫌みは感じられない。
ミズキもレオーネも俺と同じ考えだからだろう。
「なんにせよ楽しまないと損だ」
「そうだね」
「はい」
話はここまでにして歌に聴き入ることにした。
ちなみにカラオケ大会とは銘打っていたが、得点付けなどはしていない。
もちろん審査員もいないから誰が優勝なんてこともなかった。
とにかく皆で歌って楽しければオーケー。
それがキャンプファイヤーの火が小さくなるまで続いた。
『意外にみんな持ち歌があるんだよな』
パピシーは演歌を好む傾向にあるようだ。
ハリーだけはアニソンだったけど。
それも長く続いている小学生の女の子が主人公のアニメの主題歌だ。
「ハリーって普段は寡黙で渋い感じのする子よね」
マイカが聞いてきた。
「まあ、口数は多くないかな」
「それであの曲を歌うのって違和感が凄いんだけど」
言いたいことは分からなくもない。
低音主体で歌うと別の曲のように聞こえるからな。
だが、ハリーの選曲自体は変だとは思わない。
「教えてなかったっけ?
妖精組はかなりのアニメ好きだぞ」
「ええっ、そうなの?」
「何処かのイタズラ好きな亜神様のせいで忍者系のアニメとか見せられまくったからね」
「そうなんだ」
ケットシーはジャンルを問わず賑やかな曲が多かったと思う。
そしてダンス付きだ。
「知らない間に色んな動画を見てるんだな」
「見せてるのはハルくんじゃない」
「俺は定期的にまとめてアップしてるだけ」
見るのは皆の自由だ。
そんな中で子供組は──
「「「「「群がる悪を皆殺しーっ」」」」」
ノリノリで元気よく踊りながら歌っていた。
「出たわね。
得意のあの曲が」
苦笑するミズキ。
「あれは止めた方が良かったのでは?」
レオーネが心配そうに俺の方を見てきた。
「女子組に悪影響があるって?」
「はい」
そんなことを話す間にも物騒な歌声が聞こえてくる。
「「「「「死にたい奴からあの世行きぃ」」」」」
「始まった以上は止めようがないな」
事前に申請とかされてチェックできたなら話は別だったかもしれないが。
「仕方ありませんね……」
「「「「「「我ら忍精戦隊ぃ~ヨウセイジャ─────ッ!」」」」」
子供組が歌いきると大きな拍手が巻き起こった。
主に古参組からだったけど。
女子組はちょっとキョトンとしていた。
「思ったほどショックではないようだな」
「アクロバティックな振り付けに目を奪われたのかしらね?」
「子供組の見た目とのギャップがありすぎて混乱しているのでは?」
ミズキやレオーネが色々と推測を口にするが、女子組の本音は不明だ。
「なんにせよ、これくらいで自主規制がどうとかいう精神性はしてないんだろ」
現代日本と比べれば遥かに過酷な環境で生きてきたんだし。
悪党が死ぬ分には何の問題もないという認識のようだ。
「「それはそうかも」」
「まあ、ああいう歌もありってことだ」
誰もが楽しめる歌でなければならないなんて縛りを入れたら、きっとつまらなくなるし。
そんな訳で俺も下手なりにアニソンを歌ったよ。
そしたら元日本人組の面子が加わってきて踊りながら歌うことになっていた。
皆が仲良くしてくれればという思いを込めて選曲したから邪険にはできないんだよな。
そういう歌詞もあることだし。
踊りながらは、さすがにちょっと恥ずかしかったけど。
面子が少ないのを気にした子供組が飛び入りしてきたから拒否できなかったさ。
トモさんは人数合わせとか言って抜けたけど。
『裏切り者ぉ~っ!』
歌ってなかったら絶対に叫んでたね。
それと皆が喜んでくれなかったら俺も逃走していたと思う。
読んでくれてありがとう。