905 キャンプファイヤーで踊ってゲームして
ダニエラの歌声が心地よく響く中での盆踊りは清々しい気持ちになれた。
スポーツで一汗かいた後のような爽快感だ。
「それじゃあですねー、もう1曲いきますよ~!」
櫓の上でそんなことを言ったかと思うと浴衣の肩のあたりに手をかける。
バッと振り払うように腕を振るうと浴衣からカウボーイスタイルへ服装が変化した。
まるでアニメとかで見るような演出だ。
リアルでこんな真似ができるのは変身の時に使う技術を応用しているからのようだ。
上はカウボーイハットに始まり上半身はネッカチーフにカウボーイシャツ。
ガンベルトを腰に巻いているが、ホルスターの形状はマイクに合わせられている。
で、下はジーンズとウエスタンブーツ。
上も下も半袖なのでカウボーイ風と言うべきかもしれない。
ダニエラは女の子だからカウガールか。
そこまでこだわる意味はないのかもしれないが。
ファッション自体がテイストを取り入れただけのなんちゃってだからな。
「そう来たか」
櫓上の他の面子も同じように服が替わっている。
服装に合わせるかのように楽器も別物だ。
キースの太鼓は大型の打楽器つながりでティンパニになった。
ほぼ同じ大きさのものをいくつか並べるタイプのやつな。
メリーとリリーの篠笛はピッコロに。
フルートの派生楽器だな。
軽快な感じの音が出る楽器である。
使っていた篠笛の長さに合わせた選択のようだ。
『それにしたって選び方が凝ってるよな』
ニャスケの尺八はクラリネットに。
縦笛つながりという単純な選択だろう。
ニャンゾウの締太鼓は……
『何故それを選んだ』
ブラジルの打楽器クイーカだ。
片側にしか皮が張られておらず、裏には細長い棒がつけられている。
その棒をこすることで独特のコミカルな音が出る風変わりな楽器だ。
締太鼓とは大きさくらいしか似ている部分がない。
まあ、それを言うと他の皆が選んだ楽器も音色とかが全然違うけどさ。
『フォークダンスとサンバを勘違いしているんじゃないだろうな』
そうでないと思いたいところである。
そしてニャタロウの三味線。
『ニャタロウ、お前もか……』
弦楽器というだけしか共通点のない選択。
太く低い音が出るコントラバスだった。
弓を使うのは三味線のバチの代わりという解釈ができるとしてもだ。
根本的に大きさが違う。
全長だけでも人の身長ほどもあるんですが?
よくチェロと間違われるが、なで肩でもっとデカい。
『それを選ぶなら、どうしてバンジョーにしなかった』
形も大きさもそっくりとは言えないが近いものがある。
音色もコントラバスよりは遥かに近い。
どう考えても、ニャンゾウともども奇をてらったとしか思えないのだが。
そしてカントリー調の曲の演奏が始まりダニエラが歌い出す。
「結局、フォークダンスはやるんだな」
楽器のインパクトに比べれば大したことはない。
この選曲をするなら、なおのことバンジョーにしないのは何故かと言いたくなったが。
お遊びでやっていることに目くじら立てても仕方ないとは思うけどね。
現に元日本人組でツッコミを入れる者は誰もいない。
「これくらいは、ね」
ミズキが苦笑する。
何にせよ、いきなり曲調が変わって面食らう一同。
が、古参組はすぐに対応して踊り始めた。
もちろん盆踊りではなくフォークダンスだ。
何のことだか分からない女子組は困惑したままだったけどな。
ただ、しばらくすると女子組の様子も少し変化があった。
古参組が踊る様を観察するようにじっと見ていたかと思うと輪の中に加わり始めたのだ。
そして見様見真似で踊り始める。
盆踊りの時とはまるで違う反応だ。
明らかに積極性があった。
これがもし最初からフォークダンスだったとしたら……
女子組はリズムやタイミングを合わせることにばかり意識が向いていたことだろう。
楽しむどころじゃなかったと思う。
盆踊りの場合は見た目にちぐはぐな感じがしてしまうことに目を瞑ればいいだけだ。
誰かと組む訳じゃないのは大きい。
そこで慣れさせてフォークダンスに切り替える。
盆踊りで積極性が上がっていたことで馴染むのも早い。
まあ、最初は面食らっていたけどな。
そこもマイカの狙いだったのだと思う。
どれだけ女子組が馴染んだか見極められるからな。
『あんにゃろ、わざと盆踊りから入ったんだな』
根っこの部分では真面目なことを考えているんだよな。
思いつきでふざけたことをしているように見えるけどね。
まあ、それは照れ隠しもあるのだと思う。
面と向かって感謝されたりするのに弱いし。
なんにせよマイカの手腕に唸らざるを得ない。
そんなことを考えながらもキャンプファイヤーの火を中心に俺たちは踊る。
女子率が高いので女子同士の組み合わせばかりになるんだけど。
野郎同士になるよりは遥かにマシだと思う。
『ウゲッ』
想像したら悪寒が走った。
BL趣味はないのだよ。
そんなことを考えている暇があるなら楽しく踊るべし。
カントリー調の曲のお陰で心も弾む。
踊りも弾むような感じになるんだよな。
お陰で目の保養にもなる。
『女子率が高いのはいいですなぁ』
しかも俺は全員と踊る流れになっているようだ。
ただし野郎は除く。
そんな訳で古参組も女子組も一通り踊るまで曲はエンドレスで続くのであった。
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そして踊りの時間は終わりゲームへと変わっていく。
ここでまたしても司会が変わるようだ。
「ほな、ビンゴ大会はじめるでー!」
アニスがノリノリで拳を突き出しながら呼びかけると──
「「「「「おおーっ!」」」」」
皆から返事があった。
主に古参組からだったが、女子組も混じっている。
ワンテンポずれて同じように返事をする面々もいたので全員が応じたようだ。
「ビンゴ大会か」
「そう言えば、こっちに来てから初めてかも」
ミズキがそんなことを言った。
「俺なんて日本にいた頃でも覚えがないぞ」
伊達に選択ぼっちだった訳じゃないのだ。
「悲しくなるようなこと言わないでよね」
「別に悲しくはなかったが」
慣れっこだったし。
嘘ではないのだがレオーネに哀れむような目で見られてしまった。
「まあ、向こうの世界じゃ色々あったんだよ」
苦笑が漏れる。
ますます悲しそうな目をされたさ。
誰だ、うちの奥さんを悲しませる奴は?
『……俺だな』
このまま同じ会話を続けるのはよろしくない。
俺は話題を切り替えることにした。
「そんなことよりビンゴ大会だ」
些か強引すぎるが、これくらいしないと引き戻される恐れだってあるしな。
丁度、レイナがビンゴ抽選器を引っ張り出すところだった。
ズシーンと砂浜に下ろされるそれ。
地響きまでするくらい巨大だ。
「お、大きいですね」
レオーネも面食らっている。
「ホントだねー」
ミズキは同意しながら笑っていた。
何にツボったのかは分からんが、面白かったらしい。
「中の玉がバスケットボールほどもあるんじゃないか?」
「大勢の前でやるには、いいかもしれませんね」
「そうだね。
数字も見やすいし」
「そんなの幻影魔法で拡大してみせればいいだろうに」
苦笑するしかない。
玉の入ったカゴを回転させるのに自転車をつなげているし。
後輪を浮かせてシャフトドライブから回転動力を得ている。
こんな大掛かりなことをするということは、ツッコミ待ちなんだろう。
俺は入れないけど。
「シートを配る間にルール説明するさかい、よー聞いときやー」
アニスの説明の間にシートが配られてきた。
「紙製シートとは、こだわるなぁ」
スマホのアプリでやればすぐ始められるのに。
それを言うなら抽選器もだけどね。
「風情ってものがあるでしょ」
ミズキにそう指摘されてしまった。
「む、そうかも。
やったことないから分からんものだな」
こういうのは経験者でないと雰囲気とか分からんしな。
納得がいったので頷いているとレオーネからの視線が気になった。
振り向くと、またしても同情的な目だ。
何気ない一言が俺のぼっちぶりを意識させてしまったらしい。
「ほらほら、始まるぞ」
そう言って無理やり見る方向を変えさせた。
これ以上、可哀相な相手を見る目を向けられるのは御免被る。
俺の心の平穏が遠ざかってしまうからな。
「ほな、始めるでー」
アニスが言うとレイナが自転車を漕ぎ始めた。
やや不満そうな表情なのはクジかジャンケンで負けた結果なんだろう。
カゴがグルンと回転して玉が転がり落ちた。
小さく跳ねたところを見ると重めのボールのようだ。
それをアニスが真上に蹴り上げる。
全員に見せるためなんだろうがパフォーマンス付きとは思わなかった。
『まさか、これをするためにこのサイズにしたんじゃないだろうな』
ないとは言い切れないのが怖いところである。
「ハズレだ」
「私もー」
「私もです」
俺たちと違って所々で歓声が上がっている。
最初からシートに穴を開けられるとはラッキーだな。
それとも俺たちがアンラッキーなのか。
「だが、まだ始まったばかりだ」
「そうだよ、次こそ」
「ですね」
意気込んで2回目以降の結果を待つ。
が、こういうのって勢いとかあるんだよね。
あれよあれよと抽選が進んだ5回目。
「これってリーチってやつっすか?」
アニスのところに進み出たのは3人娘のナーエだった。
そして7回目で──
「やったっすよぉ!」
見事にビンゴした。
「マジかー。
俺なんて穴はひとつしか開いてないぞ」
「私はふたつだよ」
「わたしは全然つながらない所に4個です」
そんなことを言うレオーネのシートを見たが、確かにバラバラだ。
「これはこれでレアだな」
「そうだね」
「幸運ではないですけどね」
俺たち3人は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
こういう楽しみ方もあると言ってしまうのは、捻くれているだろうか。
読んでくれてありがとう。




