901 シェアして晩御飯で罰と罠
結局、カレーのシェアリングにはフェルトの班も加わった。
近場にいたからミーニャが真っ先に声を掛けていたようだ。
それ以上は増えなかったので許容範囲だとは思う。
「すみませんすみませんすみません」
ペコペコ頭を下げるフェルト。
増量になったことにかなり恐縮している。
シェアの相手は近隣3班だけだと思っていたらしい。
『まあ、普通はそう思うよな』
トモさんの提案だってことで真っ先に声を掛けられたんだし。
で、集まってきた面子を見て愕然とした訳だ。
その直後にペコペコマシーンになってしまったのには苦笑させられてしまったけど。
無理からぬことだとは思う。
「誰も悪くないだろうに」
そう声を掛けて、ようやくペコペコが止まった。
「そうだよ、フェルトは悪くない。
それに皆で分け合うなんて素晴らしいと思わないか」
トモさんが説得を始めたので俺はそろりと退散する。
リア充夫婦のラブラブ空間には巻き込まれたくないのでね。
こんな所にトラップがあるとは想定外だったさ。
「陛下ー」
背後からシェリーの声が聞こえてきた。
「どしたー?」
返事をしながら振り向く。
「こんなの作ったよぉー」
トテテと砂浜を駆けてくる子供組。
全員が頭上に平べったい何かを掲げていた。
魔物樹脂を使っているようでカラフルに仕上げられている。
「ランチプレート?」
断定できずに疑問形になってしまったのは皿と言うには大きすぎたからだ。
仕切りが無ければファーストフード店なんかで使われるトレーだと思ったことだろう。
「「「「「そうだよー」」」」」
子供組の一同が楽しそうに答える。
どうやら俺の考えた答えは間違っていなかったようだ。
「2段5列のランチプレートって初めて見たな」
しかも少し深めだ。
カレーが混ざらないように配慮した結果だろう。
「これなら同時に食べ比べができるの」
ルーシーがドヤ顔で言ってきた。
他の面々も一緒になってドヤ顔をしている。
まあ、子供らしい無邪気さの方が勝っているんだけどね。
『そんなに食べ比べが楽しみなのか』
思わず苦笑しつつも、モフりたくなったのは内緒である。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「並べー、並ぶのニャー」
妙にノリノリでミーニャが場を仕切っていた。
「皆、もう並んでるよー?」
コテンと首を傾げながらツッコミを入れるシェリー。
シェリーの言うように行列ができている。
その先頭では流れ作業のようにランチプレートへ御飯とカレーを盛りつけていた。
そして10個分のスペースがすべてカレーで埋まると並んでいた者に手渡される。
そこには秩序があった。
間違っても並んでいないとは言えない。
「この間、見た動画の真似なのー」
ルーシーが疑問に答えている。
「「自主製作の映画だってー」」
ハッピーとチーが元ネタを暴露したが……
「細かすぎて分からんわ」
何を見てるんだか。
たぶん元ネタの元ネタがあるとは思う。
それが何であるかは知らんがね。
なんにせよ、並んでいた皆がカレーを受け取っていく。
子供組考案の大型ランチプレートに盛りつけられたカレーは圧巻だ。
仕切りごとに盛りつけられたカレーは少量だが、思った以上に迫力がある。
全部で3皿分くらいにはなるから当然なのかもしれないが。
「よもや、このようなことになるとは思わなんだわ」
苦笑するツバキが近づいてきた。
ランチプレートを手にしている。
ミーニャがシェアリングを提案した班にいたようだ。
「いいんじゃないかしら。
こういうのは楽しいし沢山食べられるから歓迎するわ」
リーシャが続く。
自称、狼系ラミーナの彼女は食い気の方が勝っていると思うがね。
それを指摘すると不機嫌になるので、あえて言うようなことはしない。
「こんなに沢山だと食後しばらくは動けなくなりそうです」
マリアがツッコミを入れてくるけどな。
「相変わらず小食ね」
リーシャには苦笑交じりで普通に返されたけどな。
「違う、リーシャの燃費が悪いだけ」
まだカレーを貰ってきていないノエルにツッコミ返しされていた。
並んで待つより適当に時間を潰す方がいいと判断したようだ。
ちなみに時間の潰し方は俺のそばにいること。
俺も最後に貰うことにしていたから理に適っているとは思う。
ただ、特に何かをする訳ではない。
そんな訳で最初からマリアとリーシャのやり取りを見ていた。
そして、燃費悪い発言である。
なかなか的確に急所を突いていると思う。
それでいて食い意地が張っていると言わないあたりに気遣いを感じた。
「うっ」
現にリーシャも返事に困っている。
相手が年下のノエルだからとか、そういうことではない。
「そのあたりは人それぞれなんじゃないでしょうか」
苦笑しながら助け船を出すクリス。
「そうですね。
良かったら少し手伝ってもらえませんか」
それに便乗したマリアがリーシャに提案していた。
「いいの?」
リーシャは遠慮気味に聞いていたが、尻尾はユラユラしている。
ハリーと同じで読みやすい。
「この後に何もないなら無理をして食べるのですが」
ちょっと困ったような顔をして助けを求めるマリア。
「そんなこと言っても大したことしないじゃないですかー」
「そうですよー。
キャンプファイヤーくらいなら大丈夫ですって」
そんな風に横槍をいてきたのはアンネとベリーである。
『また、話のややこしくなることを』
ちょっとは空気を読んでくれと言いたい。
と、思ったのだが……
「是非とも分けてください、マリアさん」
リーシャが焦ったように懇願し始めた。
『押してダメなら引いてみなってことか?』
別にダメになりそうだった訳ではないがね。
ABコンビが反対側に誘導するように思わせて誘い込んだのは間違いない。
「もちろん、こちらの方からお願いします」
お互いに頭を下げ合って交渉成立。
『やるな、2人とも』
2人とはもちろんABコンビのことである。
だが、もっと強かな者がいた。
隅っこに行こうとする班がいると言っては俺に声を掛けさせたり。
いつものごとく言い争いをするアニスとレイナの仲裁を依頼してきたり。
あちらの班は静かすぎるから心配だと言ってきたり。
とにかく、俺が皆と話を続けるように仕向けてきた。
そうやって行列から意識を外させた時点で仕掛け人の目的は達成されたも同然だった。
「ハル兄の分、貰ってきた」
俺が気付いた時にはとっくに行列はなくなっていたのだ。
もともと大した人数じゃない上に流れ作業で給仕が行われていたからな。
「お、すまんな。
サンキュ……」
ノエルは確かに2人分のランチプレートを持っていた。
が、分量が明らかに違った。
「……ノエルさん」
「なに?」
「これ、極端に量が違うよね?」
わざわざ聞くまでもない。
一方は明らかに少なく見える。
まあ、それも特製ランチプレートのせいだろう。
全部をひとまとめにすれば普通に1皿分はあるはずだ。
逆にもう一方は減らした方の分を追加で盛りつけている。
どう見ても5人分はありそうだった。
「ん、少ない方が私」
しれっと、そんなことを言ってくるノエルさんである。
「貰ってきてくれるのは嬉しいが、別にてんこ盛りにしなくても……」
まるで何かの罰ゲームである。
「ハル兄は働き過ぎ」
「え?」
「だから働けないようにする」
「えーっ」
無茶苦茶である。
食い過ぎに追い込んだら働けなくなるなんて子供の浅知恵レベルだろうに。
消化してしまえば動けるようになることくらい分かっているはずだ。
となると、やはり罰ゲーム感覚で言っているのだろう。
「今回はオブザーバーだから仕事してないぞ?」
「オブザーバーという仕事をしている。
そもそも臨海学校の立案はハル兄だった」
「……………」
ここまで言われてしまうと返す言葉はない。
何を言っても屁理屈で返されてしまうだろう。
もちろん意図的にヘンテコな屁理屈を繰り出してくる訳で。
こうなると切り返しようがないから厄介だ。
どうあっても、この罰を受けるしかなさそうだ。
ノエルは言い出したら聞かないからな。
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そんな訳で、特盛りカレーライスの実食中です。
俺はフードファイターじゃないんですがね。
10個の山を、ひと口ごとに食べていく。
「ぜんぜん減っていく気がしねーっ」
味が異なるのだけが不幸中の幸いである。
スパイスの配合は同じなんだが、みんな色々と工夫したらしい。
当たり前のように甘口にしたり辛口にしたりしている。
『甘口は微かに果汁の風味を感じるな』
辛口の方は香辛料を追加投入しているのが分かる。
「ってか、なんだよっ!?
この暴力的な辛みはぁっ」
舌どころか口腔内粘膜にまでビリビリとした痛みをもたらすレベルの辛さだ。
俺が文句を言ったところで不意にトモさんがガバッと立ち上がった。
「ヴゥワァーニィング!」
声優の綿本盛男さんばりの巻き舌で吠えている。
どうやら「バーニング!」と叫んだようだ。
「殺人カレーの世界へようこそ、フハハハハ」
「……たしかに綿本さんが言うと似合いそうな台詞だけどさ」
「うん、そうだね」
急に素に戻るトモさん。
「どんだけ香辛料を投入したのさっ?」
「ひと瓶だけだよ」
言いながら指で大きさを示してみせる。
どう見ても小瓶サイズだ。
「嘘つけぇーっ」
唇がひりつくほどの辛さにしておいて、鍋にひと瓶はあり得ない。
「千倍に濃縮したやつだけど」
「「「「「おいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」」」」」
痛くて当たり前だ。
俺だけじゃなく皆が絶叫ツッコミを入れる訳である。
「シェアリングしようと言ったのは、このイタズラが目的なんだな?」
「よく分かったね」
「「「「「分からいでかっ!」」」」」
読んでくれてありがとう。




