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902 晩御飯の後は……

 あたりが暗くなりつつある砂浜でイベントの準備が進む。

 講師陣の指示のもと、主に女子組が忙しく駆け回っている。

 妖精組がそのフォローについている格好だ。


「これって本当に、ここまで積み上げるの!?」


「物凄い炎になりそうなんだけど大丈夫?」


「危なくない?」


 驚きと困惑とが混ざり合った表情で女子組たちがあれこれと妖精組に聞いている。

 ウォークラリーの時には残っていた微妙な壁が消えていた。

 夕飯の時の班分けは良い結果をもたらしてくれたらしい。


「このくらいが丁度いいのよ」


「大きめの火にするのが目的だから、これで大丈夫」


「もちろん危なくないように万全の準備をするわよ」


 それぞれの質問に落ち着いて答えていく。

 そのお陰もあって女子組の不安感は質問に答えるごとに消えていった。


「でも、どうしてこの積み方をするんだろ?」


 不安がなくなっても次の疑問が湧いてくるようだ。

 まあ、女子組は初めての経験だからな。


「どういうこと?」


「大きな薪を使うイベントだっていうのは分かったけどさ」


「あー、確かに変だよね」


「これだと数時間とかからずに燃えつきるんじゃない?」


「言われてみればそうだねぇ」


 女子組同士で首を捻りつつ話し合っている。

 そして全員で妖精組の方へちょっと縋るような目を向けた。


『教えて妖精先生とか言いそうな感じになってるな』


 一斉に視線を浴びる格好になったケットシーが苦笑いする。


「それでいいのよ。

 あれは短い時間だけ燃やすことを目的としてるから」


「「「「「ええーっ!?」」」」」


 女子組一同が驚きの声を上げる。

 が、中には納得している者もいた。


「なんで驚くのよ」


 逆に不思議がっている。


「えー、だって焚き火って夜通し燃やすものでしょ」


「短い時間で燃えつきたら意味ないよ?」


「獣避けにすらならないって」


 不思議がっていた女子冒険者が苦笑した。


「これってイベントに使うものなんでしょ?」


「そうだけどさー」


「だったらイベントの間だけ派手に燃えればいいってことなんじゃないの?」


 その言葉を受けても女子組の大半は納得しかねるような顔をしていた。

 彼女らに付き添っているケットシーは見守るに留めているようだ。


「そんなに不思議がるようなこと?

 だいたい獣避けなんて必要ないでしょうに」


 女子冒険者がそう言った途端に他の女子組は「ん?」という表情になった。


「「「「「あっ!」」」」」


 皆も獣避けが必要ないことに気付いたようだ。

 すでに普通の肉食獣くらいでは脅威にならないレベルに達しているからな。


 ミズホ国じゃ危険な魔物も出ないし。

 今の女子組なら単独で対応できるはずだ。


 まあ、海に出れば話は別だけどね。

 それでも今いるオオトリの近海は俺の構築した結界システムに守られている。

 女子組が危惧するような事態にはならないということだ。


「どう、分かった?

 イベント用に短時間の焚き火でも問題ないでしょ」


 女子冒険者が再度、尋ねると皆も納得したように頷いた。


「はーい、質問ーっ」


 挙手する女子組がいた。

 まだ疑問があるみたいだな。

 ケットシーが頷いて先を促した。


「どんなことをするのぉ?」


「あ、それって気になるよね」


「雨乞いみたいな儀式かな」


『いや、それもイベントだけどね』


 思わず内心でツッコミを入れてしまったさ。

 楽しいことをしようって時に悲壮感の感じられるようなことはしないって。

 そもそも必要がない。


『あー、でもゲールウエザー王国は一部地域で干ばつになってるんだよな』


 宰相のダニエルからファックスで報告があった。

 さっそく使いこなしている。


 だが、それは導入初期につまらんことで何度も使い倒したからである。

 お陰でガブローにぼやかれたが仕方あるまい。

 いざという時に使えなくなるのは問題だからな。


 で、報告によると俺たちが奔走した時の対策が有効だったってさ。

 どうにか持ち堪えることはできるという言葉で締め括られていた。

 とにかく、雨乞いは必要ない。


「これはキャンプファイヤーと言ってね」


 名称を言っただけで女子組の一同がフンフンと頷く。

 みんな興味津々だ。


「親睦を深めるためのシンボルなのよ。

 だから大きな炎になるようにするの」


「「「「「おおーっ」」」」」


 女子組が驚き混じりで感心している。


「親睦を深めるってどんなことするの?」


「それは始まってからのお楽しみ」


「「「「「えーっ」」」」」


 不満の声が一斉に上がる。

 気持ちは分からんではないが、先に知ってしまうと楽しさ半減じゃなかろうか。


「というより私達も知らないわよ。

 知ってるのは講師と陛下だけじゃないかしら」


 ケットシーがそう言うと皆も納得せざるを得ない。


『頼むから俺の方に来ないでくれよ』


 下手にペラペラ喋ったら俺が奥さんたちに怒られちゃうからな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 みんながキャンプファイヤーの準備を進める中、砂浜の片隅でトモさんが正座していた。

 いや、させられていたと言うべきだろう。

 カレーのシェアリングに参加したチームの班長たちに囲まれている。


「反省しなさい!」


 特にフェルトがお冠だった。

 自身も被害を受けたからかとおもったのだが、そうではないらしい。

 まったく無いとは言わないだろうけど。


 それよりも皆に申し訳ないと言っていた。

 トモさんの仕業と判明した時点で参加した班員たちに謝って回っていたからな。

 それこそ泡を食ったようにペコペコマシーンになっていたさ。

 実にフェルトらしいと思う。


 まあ、無理からぬところはある。

 唇が腫れ上がる面々が続出したからね。

 もちろんトモさんも含まれている。


 知ってて千倍に濃縮した香辛料を使うってどうなのって思ったけど。

 それでもトモさんなら自分だけ助かろうとはしないのも分かっている。


 とにかく騒ぎになった後は治癒魔法やポーションで対応した。

 トモさんも自分の治療を後回しにして皆に治癒魔法をかけていたね。


 ちなみに古参組の中には自分で治癒魔法をかけながら最後まで食べる面子もいた。


『お残し厳禁なんだってさ』


 そう言われると俺も残せなくなってしまったさ。

 まあ、治癒しながらじゃなくて辛み成分だけを魔法で抽出させてもらったけど。

 根性で食うこともできたけど、ノエルが責任を感じかねなかったからな。

 これくらいは食べ物を粗末にしたことにはならないと思うのだが……


 俺があれこれ考える間もフェルトの説教は続く。


「聞いているんですかっ」


「はい」


 トモさんも何も言わず正座と説教を受け入れていた。

 あ、ひとつだけ最初に言っていたな。


「これを提案して実行したのは俺だから」


 要するに班員は悪くないという主張をしているのだ。

 それが事実であるなら確かに班員たちは悪くない。

 下手をすれば、とばっちりで叱られることになりかねなかった訳で。


 できれば、そこまで考えてほしかったね。

 とは思うものの……


『変だなぁ』


 何がかと言えば、トモさんらしくないのだ。

 いくら何でもやり過ぎだったからな。


「ちょっといいかな」


 フェルトの説教に割り込みをかける。

 振り向きざまにキッとキツい目を向けられてしまった。

 人妻にそんな表情されるとドキッとするじゃないか。

 もちろん心臓に悪い感じのビビりたくなる方向でね。


「うひぃ」


 だから、こんな悲鳴が出てしまってもしょうがないのだ。

 情けなく思いつつも自分にそう言い聞かせる。


「あ……」


 一瞬でキツい表情は鳴りを潜めたのは心臓にはとてもありがたい。


「申し訳ありません」


 ショボンとするフェルト。


「あー、気にしないでくれ。

 割り込んだ俺が悪いんだし」


「いえ、熱くなりすぎでした」


 フェルトが、ふぅと息を吐き出した。

 少し落ち着いたように見える。


「本当に申し訳ありませんでした」


 ペコリと頭を下げられてしまった。

 まあ、土下座されるよりは遥かにマシである。

 すぐに顔を上げてくれたし。


「陛下に止めていただかなかったら言い過ぎていたと思います」


 感情で喋るとそういうことあるよね。

 まあ、それを止めにかかった訳じゃないんだ。


「とりあえず終わりかな?」


「はい」


「じゃあバトンタッチということで」


 フェルトと入れ替わってトモさんの前に立つ。


「この件で聞きたいことが幾つかあるんだよね」


「はて、何だろうね?」


 正座したまま首を傾げるトモさんである。

 複数と言われると心当たりがないのだろう。

 まあ、関連することなんだけどさ。


「濃縮香辛料って液体だったりしないか?」


「よく分かったね」


「でもって色がすごく薄かったり?」


「薄いというより無色透明だね」


「それは他の濃縮倍率のものも同じ?」


「そうだね。

 抽出の過程で色が抜けるんだよ」


 濃縮するからだ。

 思わず、そうツッコミを入れるところだった。


「保存のために使った瓶はどれも同じ形でラベルも貼ってなかったね?」


「なんで分かった!?」


「分かったんじゃなくて推理したんだよ」


「いやぁ、驚きだね」


 わざとらしく目を見開くトモさんである。


「ハルさんは世界一有名な名探偵の生まれ変わりかい?」


「んな訳ないっての。

 あれは外国の医者が創作した架空の人物だから」


「そうだっけ?」


「そうなんだよ」


 トモさんはこういう時でもマイペースだ。


「なんにせよ事件の真相は想像がついた」


「ぬわにぃ?」


 そこで岩塚群青さんを出してくるか。


読んでくれてありがとう。

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