876 内緒でつくってみた『入国審査門』
ジェダイトシティに到着するまでの道中はバフのお陰か大きな騒ぎにならなかった。
それでも馬なしでマイクロバスが動いたことには驚かれたし。
その速さにはもっと驚かれた。
『バフ使ってなかったら……』
考えたくないことになっていたかもしれない。
時間をかけて土下座から頭を上げさせたかと思ったら再土下座。
そんな悪夢のような展開が待ち受けていたかもしれないのだ。
まあ、定員ギリギリの状態でどうやって土下座するのかという話もあるけどな。
それでも降りた途端にということもあり得るから油断はできない。
実際はバフの効果もあってか、そういうことはなかったが。
用心のために門から離れた場所で降車したのは無駄になったかもしれない。
『そうでもないかな』
ジェダイトシティに出入りしている面々からは大いに注目されていた。
門の手前だったら騒ぎになったかもしれない。
いや、既にアレは何だと喚いている商人がいた。
デップリしててテカテカの頭頂部が覗くバーコード頭なオッサンだ。
見るからに強欲そうである。
「売れとか言ってきそうだな」
後ろが待っているから早く行けと促されても門衛の指示に従わない。
「大丈夫でしょうか」
フィズが懸念を口にする。
「ああいうのは必ずトラブルを起こす」
ウィスは断定していた。
「俺もその意見には賛成だ」
念のために鑑定してみたが……
「完全にアウトだな」
「「「どういうことっすか?」」」
3人娘が前のめりになって聞いてくる。
「あの喚いている商人は犯罪者だってことさ」
「そんなこと分かるんすか!?」
目を丸くしてローヌが聞いてきた。
ナーエもライネも同じように驚いている。
いや、ウィス以外は程度の差はあれ全員が驚いていた。
ウィスは斥候としての経験と勘でバーコードを犯罪者と睨んでいたようだ。
「今から門衛に内密で指示を出す。
調査をすれば嫌でも判明するさ」
俺は門衛たちに向けてメールを送信した。
[その頭が寂しい商人の馬車を通すな。
屋根の上と馬車の下から再検査しろ]
メールを受信した門衛たちに緊張が走る。
俺から直接命令が下されるとは思っていなかったからだろう。
だが、畏縮することなく即座に行動を開始する。
「再検査だ」
バーコードに冷たく言い放つ。
「何度でもどうぞ」
絶対の自信があるのだろう。
バーコードは余裕で返事をした。
ネットリ感のあるニタニタした笑みを浮かべている。
見ているだけで嫌悪感で頭の中が一杯になりそうだ。
『その余裕も後わずかだからな』
衆人環視の中で門衛が屋根の上に飛び乗る。
「「「「「おおっ」」」」」
ドワーフらしからぬ身軽さに周囲が驚きの声を上げていた。
当人は意に介した風もなく、すぐにしゃがみ込む。
『見つけたな』
誰も上に乗らないだろうという先入観からか屋根の方が偽装の作りが甘い。
間近で見ればデザインで誤魔化していた部分がフタであることに気付くのは容易かった。
そうなれば開けて調べない訳がない。
「不審物を発見!」
屋根に上った門衛が布袋を掲げて下にいる仲間に見せる。
一瞬だがバーコードが顔を顰めた。
その後は何食わぬ顔に戻っていたが。
かなり図太い神経の持ち主らしい。
『いつまで平然としていられるかな?』
下にいた門衛の1人が懐中電灯のような魔道具を取り出した。
周囲がざわつき始める。
主に街へ入るための審査待ちで並んでいる冒険者たちだ。
「赤になりそうだな」
「おっ、賭けるか?」
「俺は赤ね」
「俺も、俺も」
「俺もだ」
『この連中は前に見たことがあるようだな』
アレは違法な物品であるかを判定するための魔道具だ。
懐中電灯のように光を照射すると反対側のランプが点滅する仕組みになっている。
違法でなければ青、違法なら赤だ。
「青はいないのか?」
誰も応じない。
つまりバーコードが無実だと思っている者は皆無ということだ。
「誰も青には賭けないと思うぞ」
「そうそう」
「あの禿げを応援することになるもんな」
などというやり取りがあって賭けは不成立に終わった。
その間に馬車の下に潜り込んでいた門衛が──
「不審物を発見!」
下に潜り込んだまま袋を突き出してきた。
そして上から順にも魔道具の光が当てられる。
ランプが赤く光った。
「「「「「赤だっ!」」」」」
冒険者たちだけが盛り上がる。
下も同様の結果になった。
「「「「「下もだっ!」」」」」
この後、バーコードは御用となった。
罪状を言い渡されても往生際が悪かったけどね。
そのあたりは門衛の仕事なので俺は関知しない。
だが、問題点は浮き彫りになった。
『チェックをすり抜けるのが出てくるか』
今までと違って人の出入りが多くなったせいで変なのが来るようになってしまった。
ガンフォールを怒らせた話で寄り付かなくなったような連中までね。
今後も悪知恵の働く奴らが出てくるだろう。
それに出入りが多くなると言うことは検査をする側の負担も増す。
検査漏れとなることも充分に考えられる。
今回も俺が鑑定していなければ、そうなっていただろうし。
『検査用の門を作るか』
通るだけで全体をスキャンして鑑定する大型魔道具だ。
これなら何処に隠そうとしても逃れようがない。
入国審査に穴が無くなる訳だ。
ついでに罪状も全部出力されるようにしておこう。
いちいち取り調べなんてしていたら時間がかかって仕方がない。
犯罪者のために時間を割くなんて勿体ないからな。
どうせなら犯罪者は別の出口から放り出されるようにすると楽でいいな。
罪の重さによって出口を変えるのもいい。
コソ泥は入国禁止で放り出すだけでいいだろう。
再度、列に並ぶかもしれんが絶対に入国できなければ諦めるだろう。
変装しても高度な鑑定の魔法にかかれば無意味だ。
何処かの荷馬車に紛れ込んだ時は取り調べ用の出口に回せばいい。
極刑ものの重犯罪者は出口から出さずに収監するのが良さそうだ。
で、罪状を吟味して処置すると。
他にもあれこれ仕様を煮詰めていく。
考えれば考えるほど大型化していった。
仕様通りに頭の中でササッと設計するが……
『これはもう門じゃないな』
短めだがトンネルだ。
入国審査のための門には見えない。
アトラクション施設と言った方が良さそうだ。
まあ、重犯罪者にとっては地獄への片道切符なんだが。
『なかなか面白そうなものが出来上がってしまったな』
つい、勢いで作ってしまった。
もちろん倉の中で。
え? なぜ作ったのかだって?
面白かったからに決まっている。
テヘペロというか反省はするけど後悔はしない的な心境だ。
『問題は設置とその後なんだよなぁ……』
今すぐは無理だ。
人の流れを止めてドーンとやっちゃうことはできる。
だが、それをすれば大混乱なのは目に見えているからな。
うちの面子は新入り以外であれば平気だろうけど。
「またですかぁ?」
とか呆れた感じで言われるのがオチである。
「使い方が分かりませんが?」
などと質問されることも考えられる。
それについてはマニュアルを門衛担当者たちにメールで流すだけだが。
そんなことより混乱を起こさずに設置する方法である。
ハッキリ言ってない。
無いからといって設置しないとはならんがね。
『……………』
少し考えて、門衛担当者たちに丸投げすることにした。
深夜の時間帯なら人目もないので設置した瞬間の混乱は最小限になるだろう。
門衛には直前にメールで新しい検査用の門だと説明を入れると。
とはいえ後で舞い戻って設置するのは面倒だ。
故に転送魔法の術式を弄って自動で設置されるようにした。
もちろん安全確保も術式に組み込んである。
そのあたりの判定は自動人形の動作術式からの流用だ。
既にあるものを利用するのでパパッと完了である。
その間にも【多重思考】で用意したもう1人の俺は引率の先生状態で頑張っていた。
頑張ると言ってもゾロゾロと引き連れて先頭を歩くだけだけど。
で、内壁の門の前まで来たところで、もう1人の俺とバトンタッチ。
「よーっす、おつとめ御苦労様」
門衛たちに呼びかける。
「「「「「お疲れ様です」」」」」
一斉に返事が返ってきて女子冒険者たちがビクッと反応した。
ハッキリ言ってビビっている。
威圧感のある物々しい重装備ドワーフが何人もいれば当然というものだろう。
こうしないと内壁の内側に興味を持った連中が引っ切りなしに押し寄せて来るからね。
威圧的な見た目だけで十分に効果的である。
「そちらの方たちが連絡のあった新しい国民ですね」
身内との応対は物腰も柔らかなものになるんだけど。
どうやって身内と判定したかと言えば、事前に流していた顔写真の情報である。
これにより面倒な審査の手間が省けるという訳だ。
まあ、俺が同行しているから必要ないとも言えるんだが。
「そうなる」
俺が返事をする前から威圧的な雰囲気は消えていたのだが。
風と踊るの面々はともかく女子冒険者たちは余力がなかったからな。
が、彼女らは穏やかな物腰で門衛たちに頭を下げていた。
ビビったのは一瞬だけだったようだ。
俺の心配など杞憂に過ぎなかったらしい。
「ふむ、大丈夫なようだな」
無意識に漏らした呟きにウィスが反応した。
「土下座は大事」
「どういうこと?」
妙な一言に思わず聞き返していた。
「あれで皆が落ち着いた」
俺としてはバフを使ったからだと思っていたのだが。
それを知らないウィスからすると何か思うところがあるようだ。
「言わば通過儀礼」
「なんだ、そりゃ」
訳が分からない。
「土下座をすると気持ちが楽になる」
「よく分からんな」
「そういうものだから仕方がない」
そんな風に言われると、どうしようもなくなる訳で。
だが、分かったこともある。
ウィスの言うことが正しいとすると、これからも土下座は必須となりそうだ。
俺の胃に優しくない事実に憂鬱な気分になった。
読んでくれてありがとう。




