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875 まずはジェダイトシティへ行こうとしたんだけど……

 どうにか朝食を済ませた後は定番となった住民登録の届出書の出番である。

 風と踊るの面々の時に気付くのが遅れたマルチプルメモライズは最初から使った。

 で、女子冒険者たちに書類を書いてもらって受理完了。


「それじゃあ、まずはジェダイトシティに移動だ」


「「「おーっ」」」


 3人娘がノリ良く拳を突き上げて応じた。

 女子冒険者たちが胸元あたりに拳を上げかけた状態で所在なげにしている。

 こんなだから声なんて出せる訳もない。


 まあ、微笑ましい光景ではあるけどね。


「強制なんてしないさ。

 したいようにすればいい」


 そう声を掛けると、皆一様にポカーンとした感じになっていた。


「今は1人の冒険者で賢者様としての立場。

 王様に接していると思っていると失敗する」


 ウィスが皆にそう声を掛けてくれた。

 戸惑った様子を見せる一同。

 いいのかなという声が聞こえてきそうな空気が流れていた。


「冒険者でないときも賢者に対するぐらいの感覚でいいんだぞ」


 フォローするつもりで発言してみたのだが……

 結果は惨敗。

 一斉にブルブルと首が振られた。


 そう簡単には慣れてくれない。

 風と踊るの面々は割と早めに馴染んでくれた気がするのだけれど。


『何故だ?』


 内心で己に問いかけるが答えはない。

 ここにトモさんがいたらなぁとは思ったよ。

 それならば問いかけも声に出していたさ。

 例の台詞を聞けただろうからね。


 疑問を解決できないフラストレーションの解消に一役買ってくれたはずだ。

 ちょっとだけショボンとした気分になった。

 そんな時である。


「徐々に慣れていけばいい」


 ウィスが女子冒険者たちに声を掛けていた。


「そんなこと言われても……」


 1人の女子冒険者が自信なさげに反論を口にした。

 普段はもっと元気なタイプのように感じられるのだが、今は声も態度も弱々しい。

 怖じ気づいたような雰囲気すら感じる。


『一晩クッションがあってこれなのか』


 風と踊るの面々とは大違いである。

 何が違うというのか。


「とにかく今は賢者様」


 別に大声だった訳ではない。

 険しい表情をしていた訳でもない。

 それでもウィスの一言は有無を言わせぬ何かがあった。


 圧倒されたようになった一同は言葉もなく頷くだけ。


「ああ、そんなに畏縮しなくていい」


 俺がそう言っても効果は薄そうだ。

 彼女らは何か吹っ切れていない感じがするのである。


「それこそウィスが言ったように徐々に慣れてくれればいいから」


 だから、こんな風に言うと呆気にとられる訳で。

 実に気疲れする状況である。


 まあ、いつまでも同じ場所で喋り続ける訳にはいかない。

 宿はチェックアウトしないといけないし。

 ここで喋る時間をロスするくらいなら帰りの道中で喋ればいいのだ。


「とにかく出発だ」


 今度は返事や反応を待たずに部屋を出た。

 黙々と階段を下り。

 チェックアウトした後は再び黙々と歩く。

 門の外に出るときに衛兵と必要な会話だけをして徒歩でブリーズの街を出る。

 しばらく歩いて倉庫からマイクロバスを出した。


「「「「「────────っ!?」」」」」


 うわーとか、キャーとかいう大きな悲鳴があったはずだが、そこは風魔法で封じた。

 街からそれなりに離れたとはいえ、誰かに聞きつけられると面倒だ。

 幻影魔法でマイクロバスが俺たち以外からは見られないようにしているし。


「いや、すまない。

 いきなり大きな物を引っ張り出したんじゃ驚くのも無理は──」


 ないよな、とは言えなかった。

 風と踊るの面々以外が一斉に土下座したからだ。


「何故だっ!?」


 思わず声に出てしまったさ。

 別に例の台詞を期待した訳じゃないぞ。


「えー、これのせいじゃないっすか」


 ローヌがマイクロバスの方を指差して言った。


「そうそう、賢者様が自分で言ってたじゃないっすか」


 ナーエが追い打ちとも言えるツッコミを入れてくる。


「そうっすよ、自分らも今のタイミングは驚いたっす」


 ライネが追随するように同意。

 俺に恨みでもあるのかと言いたくなるような連係プレイだ。

 当人たちにそんなつもりは微塵もないのは表情を見れば分かるが。


「こうなると長いんだよなぁ……」


 つい溜め息が漏れてしまった。


「そんなに長くならないと思う」


 ボソリとウィスが呟いた。


「どういうことだよ?」


「皆の土下座は昨日の余韻みたいなもの」


「は?」


 訳が分からん。


「昨日、土下座を止めさせたことで皆の中に負い目のような感情があった」


「なんでだよ」


 ますます訳が分からない。


「何故かは私にも分からない」


『ウィスにも分からないのかよ……』


「じゃあ本人たちに聞いた方が手っ取り早いな」


「意味がない」


 すかさずウィスのツッコミが入った。

 もう何がなんだかな状態である。


「当人たちもパニック状態だった。

 あの時の心境を説明できるとは思えない」


「そんなに酷かったのか?」


 コクコクと頷きが返される。


「一晩おいた今の方が……マシ?」


 何故か疑問形なウィスの発言。


「いや、俺に聞かれても分かる訳ないぞ」


 こんなの本人か似たような経験をした者にしか分からんだろう。

 俺は土下座なんて……


『畳の部屋で神棚に参るときは同じ状態だな』


 だが、お参りと萎縮した状態での土下座は別物だ。

 分かる訳がない。

 それはウィスも分かるのだろう。

 無言で頷いていた。


「どっちにしても聞くのは無理」


「どうしてだ?」


「今も混乱しているから土下座している」


「はー……」


 溜め息しか出ない。

 いきなりバスを引っ張り出した俺が悪いのは確かだ。

 だけど、話くらいはできる状態だろうと思ってたんだよ。


 彼女らの混乱ぶりを甘く見すぎていたってことだな。

 別に腰を抜かすほどの大魔法を使った訳じゃないんだが。


『どんだけ混乱してるんだよ』


 俺は別に神様って訳じゃないんだと言いたくなった。

 が、よくよく考えたら俺の半分はベリルママから提供されている。

 鑑定すると人間種となるんだけどね。

 それでも今までルベルスの世界に存在しなかったエルダーヒューマンだ。


 その事実にとてつもなく嫌な予感が湧き上がってきた。

 できればしたくないが【諸法の理】に質問する。

 エルダーヒューマンに神格はあるのか、と。


[その質問に対する答えはイエスです。

 本来、存在しなかった理由は神格が得られなかったからです]


 生まれ変わって3年目にして衝撃の事実であった。

 そして、ちょっと待てと言いたい。


 ベリルママが言っていたはずだ。

 神格を得ると瞳が薄紫になるのだと。


 俺の瞳は濃紺に銀が混じった色だ。

 それは、この姿になってから変わっていない。


[正確には神格の片鱗を得た状態です。

 神となるには魂という器に神格を満たす必要があります。

 この差はヒューマンがヒューマン+に進化するより大きいです]


『……………』


 驚けばいいのか安心すればいいのか分からない。

 まあ、俺が神になることだけはないようだ。

 そうそう神格を得たりはしないだろうし。

 こんなこと言ってるとフラグが立ったりするんだが、さすがに神格は得ないよな?


[半神化しているというお墨付きをもらったことをお忘れなく]


『…………………………』


 そういやエリーゼ様と話したときに聞かされたな。

 限界を突破し続けなきゃ神化したりしないとも言われたけど。

 今のところ限界を突破したことなんて……


『あるよ、とびっきりのが』


 惑星レーヌに降り立った直後に使った錬成魔法。

 あれは間違いなく限界を突破していた。


[該当する唯一の事例です。

 片鱗程度ですので蓄積は微々たるものです]


 思わず安堵の溜め息をつきたくなった。

 半神化しているという返答で冷や冷やさせられた後だと、ついね。


『まったく……

 結局どっちなんだよ』


 愚痴も言いたくなるというものである。


[老婆心による注意喚起と現状報告です]


『………………………………………』


 思うところはある。

 だが、これ以上考えるのは精神衛生上よろしくなさそうだ。


 俺は現実に戻ることにした。

 これだけ現実逃避しても数秒と経過していない。

 【多重思考】スキルに含まれる【高速思考】が仕事をしているからなんだが。


 こういう時は嬉しくない。

 時間経過が混乱した面々を落ち着かせることがあるからな。

 悪化するなら魔法で眠らせるとかするんだけど。


『あ、魔法使えばいいんだ』


 とはいえ眠らせる訳ではない。

 スリープメモライズで事情の説明も同時にするという手もありだとは思う。


 その場合、移動ができなくなってしまうが。

 眠らせている間に運んではいけないという決まりはないけどな。


 それをすると彼女らは人生初のバス移動というイベント中に寝続けることになる。

 驚きと感動を味わう瞬間を奪いたくはないのだよ。


 という訳で使ったのはバフである。

 精神状態を安定させれば混乱から回復復帰することができるはず。

 その思惑は間違っていなかった。


 バフをかけて数分とかからず女子冒険者たちの土下座解除である。

 飛び上がって喜びを表現したくなったさ。


『次からはこの手で行こう』


[状況によりますが成功率は低いです。

 もしくは成功するにしても回復に時間が必要です]


 【諸法の理】に即答された。


『なんでさ?』


[今回のケースは彼女らが事実を知ってから時間経過があります。

 しかも充分に睡眠もしているため精神的に安定しやすい状態でした]


 好条件が揃っていたということらしい。

 現実はそんなに甘くないって訳だ。

 まあ、いつもの土下座攻撃よりはマシだったし良しとしておこう。


読んでくれてありがとう。

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