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866 宣伝を軽視してはいけない

 ボーン兄弟の店を出て屋台で遅い昼食を取ることにした。

 というか屋台で買い食いだけどな。


 ソーセージとホルモン焼きの店のオバちゃんは今日も健在である。

 いつの間にかダンジョン棒とダンジョン焼きの名称が改められているのには驚いたけど。

 どうやら名称変更はうちの面子の仕業らしい。


「こっちの名前の方が売れるんだよ」


 不思議だねぇと笑いながらもオバちゃんの手は止まらない。

 ガンガン焼き上げていく。

 そして焼いていくそばから売れていく。

 オバちゃんの言葉通り繁盛しているようで何よりだ。


「そりゃ良かった」

 返事をしながらも、うちの国民の関与を感じていた。

 ちょっと口出ししたくらいで別に叱るつもりはないけどね。

 俺も前にアドバイスしたしな。


 とにかく立ち上る煙と共に周囲を漂う匂いからして旨そうである。

 いや、実際にホルモン焼きを食べているが旨い

 味もコッテリした感じが薄まって、いい塩梅になっていた。


 間違いなく、うちの面子がアドバイスしたな。

 行列のできる繁盛店になっているのも頷けるというもの。


 脇に避けて見ているんだけど、客が絶える気配がない。

 ズラッと並んでいる感じじゃないんだがな。


 その辺は客の方も往来の邪魔にならないようにしているようだ。

 あちこちに分散して待機している感じである。

 中には他の店で買い食いして待っている奴もいた。


『そうまでして食いたくなる店になったか』


 感慨深いものがある。

 初めて見た時はやる気があるのかないのか分からん状態だったというのに。

 変われば変わるものだ。


 とはいえ、いつまでもこの場にいるのはよろしくない。

 商売の邪魔になるだろう。


「じゃあ、また来るわ」


「あいよぉー、毎度ありー」


 オバちゃんは板についた挨拶で送り出してくれた。

 ぶっといソーセージを歩きながら食う。

 これぞ買い食いの醍醐味だ。

 ホルモン焼きの方は既に胃の中である。

 刺さっていた串は倉の中へポイしてから分解の魔法で処分した。


「さて、暇になったな」


 ソーセージをモグモグしながら呟く。

 集合時間までまだまだ時間がある。


『こっちのダンジョンに行くか?』


 自問するがピンと来ない。

 行ってもいいが行かなくてもいい感じ。


『宿屋にこもって何か作るか?』


 これもピンと来ない。

 作りたいものはいくつかあるんだけどね。


 飲食系だと鯛焼きとノンアルコールビール。

 組み合わせて考えると微妙だが作りたいものであることに違いはない。


 道具系だとパソコンもそろそろ用意するべきかとは思う。

 セットでプリンターやスキャナも必要になりそうだ。


 もっと単純なものなら筆記用具かな。

 鉛筆と消しゴムがあれば紙も今より売れそうな気がするし。


 ただ、何というか気分が乗らないのだ。

 こういうテンションで物作りをしても納得のいくものはできないだろう。


 どうして低空飛行な気分になってしまったか。

 しなければいけない用事を片付けてしまったせいだと思う。

 終わったと思ってしまったせいで気が抜けてしまったのだ。


 そういう意味ではボーン兄弟のところで張り切りすぎたのが良くなかったのかもな。


『ボーン兄弟の所で時間を潰すか?』


 いや、それはやっちゃいかんだろう。

 単に居座るだけじゃ商売の邪魔だし。


 保存食がどうなっているか気にならない訳じゃないがね。

 とはいえアレはすぐに売れるものじゃないはずだ。

 袋で包装して売るという西方では新しい概念で売り出してるからな。


 利便性が周囲に認知されるまで時間がかかるだろう。

 その時間を短縮するための工夫というか仕込みはしてある。


『言うほど大したことじゃないけどな』


 単に箱の蓋を裏返すと商品パネルになるってだけの話だ。

 そこには商品名をデザイン化したものとデフォルメした絵が描かれている。


 商品名はPバー。

 Pはプリザーブドフードの頭文字だ。


 それならPFバーとすべきなんだろうが呼びにくいので省略。

 客に覚えてもらいやすい名前でないと拡がらないからな。


 覚えやすさで言うなら補給棒でも良かったんだが。

 少しだけ迷って却下した。

 某駄菓子を連想してしまって保存食をイメージしにくかったからだ。

 まあ、西方人には関係のない話なんだが。


 絵の方は食べ方を図解しているので、どういう商品かは直感的に理解できるはずだ。

 商品の包装も同じものがプリントされている。

 小さいので表に商品名で裏がデフォルメ絵だ。


 最初、絵の方はボーン兄弟に理解されなかったけどな。


「分かり易いのは良いのですが……」


「どうして図解の絵柄が可愛らしい女の子なんですか?」


「「勇ましい感じがまったくしません」」


 決まりきったことに疑問を抱く兄弟だ。


「勇ましい?

 冗談、言っちゃいけない」


 この兄弟は分かっていない。


「KA・WA・I・Iは正義だからだっ」


 俺は右手の拳を眼前で握りしめて力説した。

 が、兄弟の反応は芳しくない。


「「はあ……」」


 完全に生返事だ。

 おまけに理解不能と言わんばかりに「なに言ってんだ、コイツ」の目をしてくれている。

 まるで俺が滑ったみたいじゃないか。


「いいか?

 今から俺の言うことを想像して、よく考えてみろ」


「想像ですか?」


 兄のマシューが不思議そうに首を傾げている。


「分かりました」


 弟のロジャーは返事をしていた。

 が、此奴も兄と同様に微妙な雰囲気を感じる。

 嫌な予感を感じつつも俺は説明を始めることにした。


「諸君らは、この店に初めて入った客だ」


「いえ、店主ですが」


 マシューが素で返してきた。


「誰がボケろと言った?」


 条件反射的にツッコミを入れてしまう。

 言ってから空振りを確信したがね。


「ボケてはいませんが」


 案の定、真顔で返事をされる。

 なんというツッコミ殺し……

 またしても滑った感を味わってしまった。


「なお悪いわ。

 想像しろと先に言っただろう。

 頭の中で俺の言う設定を再現しろと言ってるんだ」


「「おお、なるほどっ」」


 今頃になって理解したようだ。

 西方にはロールプレイという言葉はないらしい。


 まあ、2人にやらせようとしたのは厳密に言えばロールプレイではないがな。

 その前段階みたいなものだ。

 そこで躓いたことに、ちょっとゲンナリした。


「えーっと……

 確か初めての客でしたね」


 マシューが確認すべく聞いてきたので俺は頷きを返した。

 それを受けて考え込み始める。


「大丈夫です」


 さほど待たずしてうんうんと頷いたマシューはそう言った。


「いけます。

 次、どうぞ」


 ロジャーも続く。

 2人の発言が本当であってほしいと思いながら俺は説明を再開することにした。


「店主に新商品を勧められて、この商品パネルを目にする。

 その絵柄がむさ苦しいオッサンだったときの印象はどうだ?」


「「うっ……」」


 2人が引きつった顔で呻いた。

 好印象の訳がない。

 喜ぶのはアニキ大好きなガチの同性愛者だけだ。

 そんなのは俺もゴメンである。


「そんな商品パネルを見て商品が旨そうに見えるか?」


 ブンブンと頭が振られる。


「だよな。

 俺もそう思う」


 俺が同意するとボーン兄弟はブルブルと身震いしてから脱力した。

 イメージを頭の中から追い出したようだ。


「これで分かっただろ。

 売るときに大事なのは商品イメージなんだよ」


「「商品、イメージ……」」


 兄弟は呆然とした面持ちで呟く。


「若くて可愛い女性や綺麗な女性を見て鬱陶しいとは思わないだろ」


「それは……」


「確かに……」


「このパネルを見て嫌悪感を抱くか?」


「「いいえ」」


 2人は頭を振った。


「どんなにインパクトや説得力があろうが、最初に拒否感を抱かれたら終わりだ」


「「あっ!」」


 兄弟も根本的なことに気付いたようだ。


「このパネルで正解だろ?」


「「はい」」


 2人は大きく頷いた。

 納得してくれたようでなによりである。


 そんな訳で俺が用意した商品パネルは積極的に使われることとなった。


 ただ、ボーン兄弟の店を出て思ったことがある。

 宣伝に対する意識が弱いってね。


 だが、この点に関しては兄弟に限った話ではないだろう。

 西方人全般で言えることだ。

 幼い頃からCM漬けで育ってきた元日本人の俺と比較するのは間違っているな。


 だからといって啓蒙活動をする気にはなれない。

 そのために西方でテレビを普及させる?

 どれだけ労力を必要とするのか見当もつかない。

 その上テレビ局を作って番組製作とか馬鹿げている。


『そういうのは国内限定だな』


 国民が増えてきたし、ミズホ国だけでならやっても面白そうだ。

 番組製作や運営のノウハウはないが古参組は動画慣れしている。

 任せてみれば面白がってやってくれるかもしれない。


 自分で動画のような番組が作れると持ちかける訳だな。

 妖精組あたりは嬉々としてプロジェクトに参加してくれそうだ。

 最初は試行錯誤になるだろうが、そこはしょうがない。


 むしろ、それをドキュメンタリー番組にするという方法もある。

 思わず何処かの公共放送事業体で有名な番組を連想してしまった。

 プロ計画Zだ。


 前にトモさんたちとも話題にしたことがあるが……

 アレを自分たちで再現する日が来るとは思わなかった。

 いや、本決まりじゃないけどね。


 皆が引き受けてくれなきゃ、そこで終わりだし。

 ハッキリ言って丸投げする気満々だ。

 たまには新鮮な驚きってのを味わってみたいんだよね。


読んでくれてありがとう。

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