↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
878/1785

867 すんなり行かない……

 結局、ろくな暇つぶしを思いつかなかった。


『しょーがないなぁ……

 冒険者ギルドでも覗いていくか』


 ほんの気まぐれで俺はギルドへと向かった。

 この時間だと風と踊るの面々も窓口に伝言を残して既に去っているはずだ。


 顔なじみの冒険者はほとんどいないが、窓口にいる職員なら少しは面識がある。

 名前まで覚えていないけどな。


 昼間ならそう忙しくもないだろう。

 情報を仕入れる振りをして時間を潰すとしよう。


 粘れて半時間がいいところか。

 ダンジョンから冒険者たちが帰ってくる時間帯まで粘るのは、さすがに迷惑だろうし。

 だが、何もしないままボーッとするよりはマシなはず。


 あとは訓練場でも覗いていくぐらいか。

 見学でノンビリ過ごすのも悪くない。

 ここなら俺に手合わせとか決闘とか言ってくる面倒くさい輩もいないだろう。

 地元の連中は試験の時の様子を見聞きして知っているはずだし。


『あ、しまった』


 唐突に思い出したことがある。

 シャーリーに合格通知を出そうと思っていたのを忘れていた。


 まあ、1日遅れたくらいなら大丈夫だとは思うのだが。

 問題はこのままズルズルと流れてしまうような気がするってことだ。

 現に風と踊るの同郷出身者たちを先に国民にしようとしているからな。

 あれこれと手続きをしている間に失念してしまったなんてことはあり得る話だ。


 そうなってしまえばシャーリーが横入りされたと思い込みかねない。

 心境や感じ方など本人にしか分からんからな。

 どういう事情があろうと、受け止めるのは人それぞれなんだし。


『面倒なことになったかもしれん』


 風と踊るの面々が仲間の説得に時間がかかれば、シャーリーがどうなるか読めない。

 暴走を回避するためには早急に手を打つ必要がありそうだ。


 心境としては逃げ出したいところである。

 それをすると後々よけいに面倒になるのが容易に想像できてしまうのだが。


 だが、待ち合わせまで残り数時間。

 一旦ジェダイトシティに戻って再び帰ってくる?

 まず無理だろう。


 その気になれば往復は不可能じゃない。

 ただ、シャーリーが捉まるかどうかは別問題。

 休憩中ならともかく仕事中なら待たざるを得ないからアウトだ。

 見ず知らずの客に聞かせていい話をする訳じゃないからな。


『どうしようかねぇ……』


 冒険者ギルドに向けて歩を進めながらも途方に暮れるばかりである。

 妙案なんて簡単に出てくるもんじゃない。

 焦っているせいもあるとは思うがね。


 こういう時でも平常心でいられる人が羨ましいよ。

 何人か知り合いにいるけどさ。

 イタズラ体質なあの人とか。

 丸投げ女王なあの人とか。


『ん?』


 自分にどうにかできないなら誰かに任せればいいじゃない。

 まるでパンが食べられないならケーキを食べればいいじゃないのノリである。


 だが、これは冗談ではなく真面目な話だ。

 本気でエリーゼ様にお礼を言いたくなった。


『丸投げバンザイ!』


 お礼の言葉にはほど遠いな……


 まあ、些細なことだ。

 俺はさっそく脳内スマホで連絡を入れる。

 相手はミズキとマイカだ。


『もしもし、ハルくん?』


『脳内スマホの電話で連絡とか珍しいことするわね』


 ミズキは普通に受けたというのに、マイカは警戒気味だ。


『グループ通話がしたかったからな』


『ふ~ん、で?』


 まるで信用されていない。

 丸投げしようとしていることを読まれているかのようだ。

 まあ、滅多にしないことをしているからな。

 何であるかまでは予測できなくても厄介ごとだとは思っているのだろう。


『一仕事、頼みたい』


『いいよ~』


『えーっ』


 対照的な返事だった。

 もちろん不服そうなのがマイカである。


『ちょっと動けなくてな。

 シャーリーに伝言を頼む』


『それだけでいいの?』


『んな訳ないじゃん』


 拍子抜けしたと言わんばかりのミズキの返事にマイカがツッコミを入れる。


『そもそも伝言の内容だって聞いてないのに』


『それもそうだねー』


「……………」


 どうにも雲行きが怪しい。

 これは丸投げできんかもしれん。


 今までは簡単にできていたはずなのだが。

 どうやら認識が甘かったようだ。

 単に難易度の低い状況でしか丸投げしていなかったのだろう。


 エリーゼ様はどんな状況であっても丸投げしていたというのに。

 その熟練の技は丸投げマスターと呼ぶに相応しい。

 丸投げという行為自体は褒められたものでもないのだが。


『『で?』』


 現実逃避する俺に詳細を話すように要求が突き付けられる。


『伝言は合格って言うだけでいいよ。

 俺がそう言っていたと伝えれば理解すると思う。

 状況によっては狂喜乱舞することも考えられるけど』


『何よ、それ!?』


 呆れたように素っ頓狂な声を出すマイカ。


『あ、分かった』


 ミズキは何のことか理解したらしい。


『じゃあ、そのまま手続きすればいいのね』


『そういうことだ』


『ちょっとぉ、説明しなさいよっ』


 マイカが吠える。

 どうやら合格の伝言だけでは何のことか分からないようだ。


『ミズホ国民の資格ありってことだよ、マイカちゃん』


『なんだ、それのことかぁ……』


 言い終わったマイカが大きな溜め息をついた。


『てっきり凄く大きな取り引きをするのかと思ったわよ』


 ブリブリと文句を言ってくる。


『それは頼めないということかな』


 乗り気じゃないなら他の誰かにお願いするしかない。

 ノエルなら間違いなくやってくれそうな気がする。

 あるいは新人の婆孫コンビも張り切りそうだ。


『誰もやらないとは言ってないわよ』


『では、是非ともお願いします』


『なによ、気味が悪いわね』


 俺が低姿勢なことにまで文句を言ってくるマイカ。


『後でシャーリーが暴走するかもしれないからな』


 俺は現状がどういうものなのかを説明した。


『──という訳だ』


『ちょっと、そういうことは先に言いなさいよ』


『言ったら逃げただろう』


『そっ、そんなことはないわよ……』


『マイカちゃん、その否定は肯定しているのと同じだよ』


 さすが長い付き合いのある2人である。

 マイカの行動は完全にミズキに読まれていた。


『ぐぬぬ』


『私達はハルくんの奥さんなんだから、ちゃんとフォローしてあげようよ』


 一瞬の間があった。

 拒否感からという雰囲気はない。


『しょうがないわね』


 マイカがわざとらしく溜め息をつきながら言った。


『ミズキの言う通りねー。

 夫婦は助け合わないと』


 やけに上機嫌でそんなことを言い出した。

 どうやら奥さんという単語に反応したみたいだ。

 実にチョロい。

 チョロくしたのは俺ではないのだが。


『感謝しなさいよぉ。

 これが他の人だったら貸し1個なんだから』


『へいへい。

 ありがとうごぜえますだ』


 どうにか丸投げには成功したようである。

 ホッと一安心だ。


『ミズキもサンキューな』


『どういたしまして』


『ちょっとぉ、私の扱いが軽くない?』


 マイカが疑問形で文句を言ってきた。

 感謝の言葉に差があると言いたいのだろう。


『貸し1個とか言うからだよ、マイカちゃん』


 すかさずミズキにツッコミを入れられていたけどね。


『ギャフン』


 漫才コンビのように阿吽の呼吸である。

 できればシャーリーの手続きが終わってからにしてほしいものだがな。

 ここでツッコミを入れると、俺まで巻き込まれてしまうのは目に見えている。

 俺はそっと通話をオフにした。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 冒険者ギルドの前まで来た。


『ん?』


 中から異様な気配を感じる。

 別に魔物がいるとかではない。

 揉め事が起きていると分かるような剣呑な雰囲気に包まれていたのだ。


『大勢が殺気を放っているってところか』


 冒険者同士の喧嘩は御法度のはずだ。

 まあ、決闘という逃げ道はあるが。


 それにしたって数人程度の殺気ではない。

 中にいるほとんどの者が関わっていると見るべきだろう。

 これは中に入れば確実に巻き込まれる。


『関わりたくないなぁ……』


 そう思って回れ右をしようとしたところで正面玄関のドアが薄く開いた。

 両開きのうちの片方だけだ。


「お?」


 音を立てずにゆっくりと開いていく。

 ある程度の隙間ができたところでスルッと後ろ向きに人間の足が出てきた。

 閉じたままのドアと並行に脚を伸ばしている。

 これ以上ドアの隙間を広げまいとしているようだ。


 ゆっくりと、だが流れるように下半身が出てくる。

 ブーツと革のパンツに覆われてはいるが、脚線から判断するに女のそれだ。


 続いて上半身。

 こちらはマントが邪魔をして体のラインは確認できない。

 最後に頭がスススッと出てきた。


 完全に外に出たところでドアを閉じる女。

 それを待って──


「何やってんだ?」


 背中を向けた相手に声を掛けた。

 ビクリと跳ね上がった。

 見られてはいけない場面を見られたと背中で語っているかのようだ。


『こういう反応もするんだな』


 壊れたブリキのおもちゃのようにギギギとぎこちない動作で振り返るのを見て苦笑した。


「修羅場から逃げ出したってところか、ウィス」


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。