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868 こんなのと一緒にされたくはない

 振り返ったのは斥候女子ウィスであった。

 いや、出てくる前から気配で気付いていたけどさ。

 外に出てくるまでの動きは確かにパーティの斥候担当だけはある。

 気配を紛らせつつ音を立てずに移動する手際はプロのそれだった。


「スマン。

 驚かせたみたいだな」


 俺はウィスが口を開く前に謝った。

 機嫌を損ねると人見知りへ逆戻りされかねないからな。

 そんな風に思っていたのだが……


 ウィスはトテテと俺の前まで進み出てきた。


「お、何だ?」


 そのまま俺の手を無造作に掴んだ。

 今までのウィスからすると考えられんことだ。

 ちょっとドギマギしたのは内緒である。

 これは人見知りデレという新ジャンルを開拓したのかもしれない。


『そこまでのものではないな』


 どう考えてもクーデレの派生だ。

 いや、アホなことを考えている場合ではない。

 焦りすぎだ。


「どうした?」


 顔には出さずにウィスの応答を待つ。

 何がしたいのか分からないことには対応しようがないからな。


「来て、賢者様」


 そう言うとウィスは俺の手をグイグイと引き始めた。

 引っ張る方向はウィスがいま出てきたばかりのギルドである。

 俺を連れて逃げ出そうという訳ではないようだ。


「せっかく脱出したのに逆戻りでいいのか?」


「脱出、ちがう」


「そうなんだ?」


「賢者様を探しに行くところだった」


「俺をか?」


「手間が省けたのは不幸中の幸い」


「意味が分からないんだけど」


「変な奴らが仲間に絡んでいた」


「ほう」


「それをフィズやジニアが止めようとしたら揉めた」


「変な奴らって貴族か何かか?」


「違う」


 ウィスが頭を振って否定した。


「自称勇者とその仲間」


 心底、嫌そうに言うのは印象が最悪の部類だからだろう。


「自称ねぇ……」


 ウィスの言う通り、変な奴らのようだ。

 自分で勇者を名乗るとか俺にはできない。

 とは思ったのだが、よくよく考えると人のことは言えない。


「俺も賢者を自称しているからなぁ」


 もしかして同類なのかと思ってしまった。


『冗談じゃない』


 ウィスに嫌われるような輩と同類などあり得ない。


「賢者様は自称じゃない」


 そうだろうか。


「皆が呼んでくれる」


 ゴリ押ししているだけだと思うのだが。


「アイツらは誰にも勇者と呼ばれない。

 本物ならもっと有名になっているはず」


 どいつかは知らないが、そんな噂は確かに聞かない。


「まあ、いいや。

 身内が巻き込まれているなら助けに行かないとな」


「そうだった」


『忘れるなよ』


 内心でツッコミを入れたが、それは俺も同じである。

 とにかく冒険者ギルドの中に入ることにした。

 繋いだままだった手を放してからなのは言うまでもない。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 中に入ると冒険者同士が睨み合う格好となっていた。

 片方はブリーズでは見かけないような粋がった感じの5人組。

 もう片方は地元冒険者と風と踊るの面々。

 この時間帯にしてはそれなりに人がいる方だ。


 お陰で俺たちが入ってきたことに気付いた者はいない。


「勇ましいものだなぁ。

 勇者様を相手に決闘を挑もうなんざよぉ」


「そうそう。

 悪いこと言わねえから、やめとけってぇ」


 ガラの悪そうな2人の冒険者が周囲を挑発している。

 見覚えのある女子冒険者がそいつらに羽交い締めにされていた。

 フィズたちと同郷の人間だな。


 ある意味、人質だ。

 迂闊に近寄れば危害が加えられかねないこともあって誰も手出しできずにいる。

 チンピラ2人の仲間と思われる男たちが周囲に睨みをきかせていた。

 一触即発の状態だが、際どい均衡を保っているのはそのせいか。


 両サイドにいる2人はチンピラと似たような黒ずくめの風体。


 対して中央にいる1人は金ピカ装備に身を包んでいる。

 コイツだけは何処かのイケメン俳優風の顔立ちであった。

 が、一目で嫌悪感を抱いてしまうほど嫌みな感じがする。

 顔に張り付いている下卑た笑みがそう思わせるのだろう。


 そして装飾品の趣味も悪いときている。

 何より目立つ両手の指輪。

 誰を殴るのかと言いたくなるようなナックルダスター状態。

 赤に青に黄色に緑の宝石がはまっている。

 ブレスレットにアンクレットもジャラジャラしているし。


 ネックレスはしていない。

 が、それはマントの留め具になっているチェーンと干渉するからだろう。

 そのマントも赤地に金の刺繍が入っており、金ピカ鎧に引けを取らない派手さである。


『うわー、悪趣味ぃー』


 こんなのと同類と思われるなんて真っ平である。


「黙れっ、貴様らが勇者とその従者であるはずがない!」


 我慢しきれずに吠えたのはフィズであった。

 4人のチンピラがニヤニヤと笑う。


「おやぁ?」


 牽制役のチンピラがわざとらしく耳に手を当てた。


「聞き間違いかなぁ?」


「いやいやいや、聞こえたぞぉー」


 もう1人の牽制役が答えた。


「フヘヘ、勇者様を愚弄するなど言語ダンダン」


「ヒャーハハハ、バンシーに値するぞぉー」


 頭の悪そうな連中だと思っていたが、本当に悪かった。

 それともギャグで言ってるつもりなのだろうか。

 言語ダンダンとかバンシーとか。


 少しも面白くない。

 コイツらのバカさ加減に失笑してしまうことはあるかもしれないが。


「死ねやっ」


 牽制役がダガーを抜いてフィズの顔面に突きを放った。

 チンピラにしては鋭い突きだ。

 そして途中で止める気がないのは腰の入り具合から見ても間違いない。


「くっ!」


 フィズは倒れ込むように転がることで、どうにか回避した。

 というより俺が理力魔法で押し倒したのだが。

 反応し切れていなかったからな。

 それほど鋭い突きであった。


「「「「ギャーハッハッハ!」」」」


 チンピラどもが馬鹿笑いする。

 金ピカのエセ勇者もニヤニヤと笑っていた。


『悪趣味な奴らだ』


「いやぁ、手が滑っちまったなー」


 伸ばしきっていた腕をダラリと下げてチンピラが笑う。


「ウソつけぇ」


「笑わせるなよぉ」


「いつもの処刑タイムだろうがー」


 再びチンピラどもが馬鹿笑いした。

 どうやら常習犯のようだ。

 普通ではあり得ない。

 犯罪者として逮捕されるか、お尋ね者になっているはずだ。


 今まで、まかり通ってきた理由はコイツらの装備品にある。

 全員が同じイヤリングをしているのが変だと思って鑑定したら当たりだった。


[虚偽の耳飾り]


 いかにもな名前である。


[効果:

 装着者の悪事を鑑定で発覚しないよう隠蔽する。

 隠蔽できる情報量は装着者のレベルにより変化。

 装着者が関与した者はその間の記憶が薄れやすい。

 この効果は装着者を見失った瞬間から始まる。

 見ていない時間が長いほど薄れる度合いが増す。

 関与の度合いや関与した者とのレベル差によっても変化する]


『犯罪者が喉から手が出るほど欲しがるような代物だな、こりゃ』


 大手を振って冒険者カードが持てるのだから。

 窓口で引っ掛かって通報されることもない。

 盗賊などはやりたい放題だろう。


 上位の鑑定の魔道具を使っても、この連中は引っ掛からないだろうし。

 やりたい放題できるくらいのレベルはあるのだ。


 でなければフィズも自力で攻撃を躱していただろう。

 とにかく、コイツらはこの魔道具の効果で無茶苦茶やって来た訳だ。

 悪評が伝わらない効果まであるからな。


 まあ、俺には通用しないが。

 お陰でコイツらの犯歴は丸見えである。

 この連中は地球だったら世紀の極悪人として世界中に知れ渡るだろう。


『それだけに終わりの時が近づいているんだがな』


[注意:呪いのアイテム!]


 こんな犯罪推進アイテムがまともなブツである訳がない。

 呪いの詳細は次の通りである。


[装着者の性欲は殺人や窃盗などの悪事の欲求へと変換される]


 まずは地味だが確実に犯罪を実行させる呪いだ。

 犯罪行為に及んで発散しなければ欲求が蓄積するのだからな。

 よほど性欲が薄い人間でなければ耐えられないだろう。


 だが……


[このアイテムは見る人間によって見え方が異なる。

 性欲が弱い者ほど不吉に、強い者ほど魅力的に見える]


 という説明がある。

 どう考えても性欲の強い奴を狙い撃ちにしたかのような呪いだ。


 装着前から抗う必要があるとは厄介極まりない。

 重犯罪の発生が確定しているようなものだからな。

 そして、呪いはこれだけで終わりではないのだ。


[装着者の寿命を吸い取ることで効果を発揮する]


 誘引しておいてこれである。

 ヘビーすぎるだろ。

 調子に乗っていると死へとまっしぐらな訳だ。


 現にコイツらの残り寿命は10年を切っている。

 この事実を知ったら外そうとするかもしれないが、そうはいかない。


[装着した後は解呪しなければ外せない]


 しかも──


[解呪の失敗は装着者の寿命をすべて吸い上げることを意味する]


 こんな訳で安易に解呪を試せないのだ。

 それを知ったら無理やり外そうとする奴も出てくるだろう。


[破壊および装着部位を切断した場合は即死する]


 逃げ道などないという訳だ。

 だが、哀れんだりはしない。


 コイツら全員に性犯罪歴があるからな。

 つまり虚偽の耳飾りを手に入れる前からの犯罪者ってことだ。

 同情する余地など微塵もない。


読んでくれてありがとう。

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