863 満を持して登場?
「どうやら腹はくくっているようだな」
真剣な表情で頷く一同。
ビクビクした様子もない。
「ならば歓迎しよう」
「「「「「ふぇっ!?」」」」」
今度は風と踊るの面々が驚く番だったようだ。
理由がよく分からないが。
「あっさり」
唯一、驚いていなかったウィスが呟いた。
『簡単に受け入れられるとは思わなかったってことか』
ローズの判定を受けていることは知らんしな。
「君らに気付かれないように国民として相応しいかの審査はしているさ」
「……………」
一瞬だがウィスの目が大きく見開かれた。
これはかなりレアなことだと思われる。
無表情が基本のウィスが顔に出るほど驚いたのだから。
『それだけ衝撃的だったってことか』
己の感知能力や観察力に絶対の自信を持っていたのだろう。
斥候としての自負があるからこそと考えれば意外とは言えない。
「俺も話を聞きながら見極めさせてもらっていた」
【千両役者】を使えば気取られぬようにすることも苦労はしない。
「が、本格的に審査をしていた者は他にいるんだ」
風と踊るの面々が困惑しながらアイコンタクトで確認し合っていた。
誰もいなかったはずだという結論はすぐに出る。
最終的に皆の視線がウィスに集まったのだが、その返答として頭が振られたからだ。
「マジで?」
「ウィスっちが気付けないなんて」
「悪い冗談っす」
3人娘が呆然とした顔で呟いていた。
ウィスの感知能力は仲間内でも絶対的なものとして認識されているようだ。
「世の中、上には上がいるからな」
風と踊るの面々が俺の方を見た。
「「「「「あー……」」」」」
その表情が諦観を感じさせるものになっていく。
ウィスも表情はほとんど変えなかったが、同じ空気を纏っていた。
『俺が気配を消していた訳じゃないんだがな』
それは霊体モードのローズである。
だが、それを気にしても何も始まらない。
むしろ停滞するだけだ。
「それじゃあ本命に登場してもらおうか。
先に言っておくが、たぶん驚くことになると思う」
普通なら驚くなと言うところだ。
そう言わなかったのは、言っても無駄だと分かっていたからである。
「ローズ」
「くーくくぅくっ!」
ぱんぱかぱーん! などと言いながらローズが霊体モードから実体化した。
「「「「「ええ─────っ!?」」」」」
案の定というべきか、全員が驚いている。
ウィスも声こそ出さないが同様だった。
相変わらず無表情ではあるのだが。
「俺の相棒でカーバンクルのローズだ」
皆の驚きをスルーして紹介する。
「くっくくぅ」
よろしくぅ、とノリ良く言っている。
ピースサインとウィンク付きだ。
風と踊るの面々は完全に呆気にとられていた。
無理もない。
見たこともない奇妙な生き物が急に現れたんだからな。
「急に現れたように見えるが、ずっとここに居た。
霊体化していたから見えなかっただけだ。
元は精霊の仲間だから、こんな芸当ができる」
「「「「「……………」」」」」
驚きが持続しているようで言葉もないらしい
それを見たローズはドヤ顔である。
「くうくぅくーくっくー」
今は神霊獣だもんねー、と両拳を腰に当てて胸を張る。
格が違うと言いたいようだ。
そういうのは、まだ伏せておいてほしいところなんだが。
土下座アゲインなんてことになったら悪夢でしかないというのに。
幸いにも、そういう事態にはならなかったが。
その代わりと言ってはなんだがウィスが首を傾げていた。
「くくっ、くーくぅくぅ?」
少女よ、何が疑問かね? なんて気取ったことを言っちゃってますよ。
『すぐ調子に乗るんだから……』
冷や冷やしながらも状況を見守ることにした。
他の面々は静かなものだ。
俺のように見守るという感じじゃない。
そこまで余裕がないように思えた。
「不思議……」
ウィスが呟いた。
「鳴き声なのに意味が分かる」
まあ、普通はそうか。
何となく雰囲気で分かるというならともかく、完全に理解できるからな。
「くーくぅくー」
分かって当然、とか言ってるが当然じゃないんだよ。
しかも何故なのかを説明するつもりはないようだ。
それじゃあ謎のままだって。
「理解できるのはローズが夢属性だからだな」
ローズが答えようとしないので代わりに俺が答えた。
「鳴き声と同時に精神波を送っているから意味が理解できるんだよ」
感心したようにウィスが頷いていた。
「じゃあカーバンクルに審査を任せていた?」
「へえ、分かるか」
見事な推察に思わず感嘆の声を上げていた。
「御明察だ」
「当然の帰結。
賢者様にその隙はなかった。
見えないカーバンクルが担当していたと考えるのが自然」
淡々と語るウィス。
当たり前すぎてドヤ顔をする必要性も感じないらしい。
俺もそこは気にならなかった。
が、ひとつ気付いたことがある。
『ウィスが饒舌なんだけど……』
しかも仲間に対してではなく、俺に向かって喋っているタイミングでだ。
ちょっとした事件とも言えるだろう。
人見知りをするウィスが俺に対して物怖じせずに喋っているのだから。
『うおおぉぉぉぉっ、スゲーッ!!』
内心ではお祭り騒ぎとなっていた。
が、外には出さない。
どうにか【千両役者】で誤魔化した。
気取られると元の木阿弥になりそうだと感じたからだ。
現状はなかなかデリケートな状態と言えるはず。
それでも1歩は前進した。
これはローズのお陰だろう。
人見知りするはずのウィスがローズに対してはそうならなかった。
『さすがは夢属性ってことか?』
それが呼び水となったのか俺とも普通に話せている。
傍目には少し前の状態と何が違うのか分からないかもしれない。
だが、雰囲気が明らかに違うのだ。
「なんにせよ審査が不要というのは分かってもらえたかな」
コクリとウィスが頷く。
他の面々に目を向けるとブンブンと首が縦に振られた。
全員の納得が得られたようで何よりだ。
「あー、ちなみにブリーズにいる面々の審査も終わっている」
「「「「「ええっ!?」」」」」
ウィス以外の一同が驚きの声を上げた。
これ以上ないというくらいに目が見開かれている。
ただし、ウィスを除いての話だ。
平然と受け止めた訳ではない。
一瞬だけ驚き、そこから何かに気付いたように真顔に戻った。
「はやっ!」
「どどどどうやって!?」
「いつの間にっ!?」
3人娘の勢いが復活した。
彼女らの精神状態を鑑みれば早い方だ。
ウィスが冷静に対応し続けていたから落ち着くことができたのだろう。
まあ、現状は泡を食った状態なのだが。
「元が精霊ならどうとでもできる」
ナーエの疑問に答えたのはウィスであった。
抽象的すぎて説明にはなっていなかったが。
まるで質問しろと言わんばかりだ。
「「「へー、そうなんだ」」」
3人娘は普通に納得してしまったが。
が、ヒョロッとさんたちは怪訝な表情を浮かべている。
納得していないのは一目瞭然であった。
『もしかして、これも狙ってのことか』
先程はフィズの復帰を引き出したウィスだ。
再び同じことをすることも充分に考えられる。
「どういうこと、ウィス?」
ジニアが問いかけてきた。
「どうにでもなると言われてもサッパリなんだけど?」
フィズも首を捻りながら聞いている。
2人が疑問を口にした瞬間、ウィスの表情に変化があった。
ジニアやフィズは疑問に気を取られて気付いていない。
3人娘は何の気なしの状態なので、こちらもやはり気付かない。
俺が見たその表情は大きな釣果をあげた釣り人を思わせた。
内心ではきっとガッツポーズをしているだろう。
『やはり、そうだったか』
なかなかの策士ぶりである。
ウィスはリーダーではなく影の参謀が似合いそうだ。
「精霊は自由に空を飛べる」
「「あ……」」
フィズとジニアが何かに気付いたような声を上げた。
「そう言えば子供の頃にそんなおとぎ話を聞いたことがあるわ」
「あれって本当のことだったのね」
どうやら古い話を思い出したようだ。
2人ともしみじみした感じである。
「確か……
風のように速く飛ぶ、だったかしら?」
ジニアの言葉に全員が頷いていた。
「だから全員の審査が終わっていても不思議じゃない」
「スゲーんすね」
「パねえっす」
「ありがたやーっ」
ローズに向かって称賛の声が上がるのだが。
約1名、なんか変なことを口走ってないか?
「くぅーくっくっく!」
ローズは高笑いしている。
拝まれても特に気にならないようだ。
本人がそれでいいなら俺も気にはすまい。
読んでくれてありがとう。




